4 条例の概要
(1)条例の全体構成
大阪市条例は、章立てはなされず、「調査」、「指導又は勧告」、「命令」、「行政代執行」、「経済的支援」、「対策会議」など全14条で構成される。京都市条例は、第1章が「総則」、第2章が「不良な生活環境を解消するための支援」、第3章が「不良な生活環境を解消するための措置」、第4章が「雑則」、第5章が「罰則」と章立てされ、全21条で構成される。
(2)条例の目的に広狭の違い
ア 大阪市条例は周辺の生活環境にとどめる
大阪市条例の目的は、「市民の安全で健康かつ快適な生活環境を確保すること」とされ、ごみ屋敷の原因者本人のための課題解決については目的に掲げられていない。定義規定においても、ごみ屋敷状態のことをいう「不良な状態」を「物品等の堆積によりごきぶり、はえその他の害虫、ねずみ若しくは悪臭が発生すること又は火災発生のおそれがあること等のため、当該物品等が堆積している場所の周辺の生活環境が著しく損なわれている状態」をいうとし、「周辺の生活環境」にのみ着目した規定となっている。そのため、不良な生活環境の影響がごみ屋敷の建築物の中や敷地の中だけにとどまり周辺にまで及んでいない場合は、条例の対象外とされる。環境の悪化が本人にしか及ばない場合は、本人の自己決定権(愚行権)が尊重される範囲内のことであるという理解である。「不良な状態」を判定する際に考慮事項となる「悪臭」についても、ごみ屋敷の敷地境界において臭気測定を行うとしている。なお、大阪市条例では、原因者本人のことを「堆積者」と定義している。
イ 京都市条例は原因者本人の課題解決も含める
一方、京都市条例の目的は、大阪市条例と同様の「市民の安心かつ安全で快適な生活環境の確保」に加えて、「要支援者が抱える生活上の諸課題の解決」と「市民が相互に支え合う地域社会の構築」をも目的としている。しかも、原因者本人のことをいう要支援者に関わる目的は、規定の順が一番に置かれている。定義規定においても、ごみ屋敷状態のことをいう「不良な生活環境」を「建築物等における物の堆積又は放置、多数の動物の飼育、これらへの給餌又は給水、雑草の繁茂等により、当該建築物等における生活環境又はその周囲の生活環境が衛生上、防災上又は防犯上支障が生じる程度に不良な状態」をいうとし、対象範囲は「周囲の生活環境」だけでなく「当該建築物等における生活環境」も含めている。「建築物等」とは、建築物の中とその敷地の中のことである。京都市条例の場合は、敷地境界で臭気を測定したりする必要はない。「要支援者」とは「疾病、障害その他の理由により不良な生活環境の解消を自ら行うことができない市民であって、その状態を解消するための支援を要するもの」をいうと定義されている。
大阪市条例も京都市条例も、目的規定が、定義規定と整合し、条例全体の指導理念となっていることが見て取れる。
(3)自治組織の責務も規定
大阪市条例には「本市の責務」、「市民の責務」、「所有者等の責務」の規定があるのに対し、京都市条例には「本市の責務」と「市民の責務」に加えて、自治会や町内会等の「自治組織の責務」の規定がある。「市民が相互に支え合う地域社会の構築」という条例の目的に呼応した規定である。議会の審議でも異論のあったところではある。
(4)調査権限の法的根拠を創り出す
大阪市条例では指導や勧告の条文の前に、京都市条例では第4章「雑則」に、ごみ屋敷への立入調査や関係者への質問を市長が職員をして行わせることのできる規定や、本人の心身の状態、親族関係、保健福祉の給付の状況、当該建築物等の所有関係などについて、官公署へ資料提供を求めること等を含め、市長が調査を行うことのできる規定が置かれている。この権限付与の規定が置かれたことによって、行政機関は法的根拠を得てごみ屋敷問題に臨むことができる。立入調査を拒否された場合には、弁明等の機会を保障したうえで、拒否した者の氏名等を公表することができる規定も置かれている。
(5)調査結果の情報提供も
京都市条例の第4章では、上記(4)の調査の結果は、ごみ屋敷状態解消のための協力を求める自治組織や関係機関に、罰則付きの守秘義務を課したうえで、情報提供をすることができるとしている。自治組織が責務を全うするためには必要な規定である。大阪市の場合も同様に協力を求めることとしているが、個人情報保護について厳格な考え方をしているためか、こういった規定はない。