(3)パブリックコメント
条例案は、大阪市では2013年6月21日から同年7月19日までの間パブリックコメントにかけられ、54人から意見提出があった。京都市では、2014年7月23日から同年8月22日までの間にかけられ、105人から160件の意見提出があった。
ア 大阪市の場合は慎重論も
大阪市のパブリックコメントの結果の公表によると、命令や行政代執行の手続をとってでも、ごみ屋敷状態を早く解消してほしいとする意見がいくつかある中で、ごみ屋敷の判定が公正になされることを求めるといった慎重論もあった。一方で、原因者本人に寄り添って、医療や介護の給付につなげる福祉的支援が重要であるとする意見もいくつかあり、コミュニティソーシャルワーカーの取組みに言及する意見もあった。ごみの撤去等の費用に対する経済的支援には反対の意見もあり、撤去に応じない者には過料を科すべきとする意見もあった。
これらの意見に対する「市の考え方」では、命令や行政代執行や経済的支援に際しては、審議会の意見を聴いて慎重かつ総合的に対処する、本人への福祉的支援については、区役所が精神医療関係者や福祉関係者などの参画を得て「対策会議」を開催するなどして適切に対応していく、といった考え方が示された。パブリックコメントを経て、条例案が修正されることはなかった。
イ 京都市の場合は反対論も
京都市条例案は、原因者本人の支援を基本に据えることとしていたにもかかわらず、パブリックコメントの期間中、精神科医や弁護士らが立ち上げた「京都市ごみ屋敷問題を考える会」から、本人に寄り添う福祉的な視点から「周囲からの孤立を深め、症状を悪化させかねない」と条例案を危ぶむ声が発せられた。「精神疾患を抱えた人がいきなり物を捨てられたら、混乱して病状が悪化する」、「時間はかかっても信頼関係を築き、納得してもらって捨てる支援こそ必要である」、「調査時の質問拒否に対する氏名公表や過料はやり過ぎである」といった声である。
このことが地元紙で報道される中で行われたパブリックコメントでは、条例案に賛成の意見も多かったが、反対を表明する意見も少なからずあった。町内会などの自治組織にもごみ屋敷状態解消のため主体的かつ積極的な取組みの努力義務を課す自治組織の責務規定に、賛同する意見もあったが、反対する意見もあった。「考える会」と同様に、氏名公表や過料に対して「やり過ぎである」との意見もあり、ごみの撤去等の費用に対する市の経済的支援のないことへの異論や、ごみの撤去等の命令を発する前には審議会の議を経ることを義務づけるべきであるという意見もあった。
様々な意見があったが、京都市でも、パブリックコメントを経て、条例案が修正されることはなかった。
(4)議会での条例案の審議
パブリックコメントを経て、大阪市では2013年11月に、京都市では2014年9月に、条例案が議会に提出され、議会での審議が始まった。
ア 大阪市の場合は全会一致で可決
大阪市議会の条例案の審議では、条例案の中身よりも、「周辺住民の困っている人のためにできるだけ早く条例を施行するべきである」といった議論があったほか、条例の施行に際しての執行部側の区役所と関係局の役割分担を明確にすることを求める質疑が行われた。
この質疑において、条例の執行は、行政代執行も含めて、区役所が全面的に担当することとし、環境局と福祉局は、命令や行政代執行や経済的支援を行う前に意見を聴かなければならないとされる審議会の事務局を担うとの答弁がなされた。また、ごみの撤去の部分については環境局が、福祉的支援の部分については福祉局が、経済的支援の部分については両局が共管して、それぞれ区役所に対して技術的助言を行うこととされた。条例案は全会一致でスムーズに可決された。
イ 京都市の場合は修正案も付帯決議もあり
京都市議会の条例案の審議では、複数の会派からほぼ共通して、氏名公表と過料は厳し過ぎるのではないか、自治組織の責務を規定するのは重すぎるのではないか、命令等の前に審議会によるチェックが必要ではないか、ごみの撤去費用について経済的支援が必要ではないか、といった趣旨の質問がなされた。
執行部側からそれぞれ答弁がなされたが、いわゆる市長野党会派から、これらの質問の内容に沿って、規定を削除したり追加したりするとともに、ごみ屋敷状態の解消は、本人に寄り添って行う必要があり時間がかかるとして、できる限り早期に行うとする基本方針を定める規定を削除する修正案が提出され、またすべての会派から付帯決議を付す旨の提案がなされた。修正案は否決され、市長提案の原案が可決されることとなったが、提案された複数の付帯決議は調整され、ごみ屋敷状態解消の取組みは「支援」を基本としつつも、必要となる「措置」は適切に行うとともに、行政上の強制力を行使する際には、複数の有識者による会議に諮ったうえで慎重に対応し、速やかに議会に報告することなどの付帯決議が付けられた。