7 条例施行後の状況
条例周知のためのリーフレットを一般用と、児童生徒・保護者・地域住民用の2種類作成し、配布している。後者は、「いじめを受けている人に非はありません」「いじめはみんなに関係のあること」「みんな、あなたの味方です」という強いメッセージを送っている。
条例11条(法12条)を受け、2014年8月6日、本文で30頁を超える道の基本方針を制定している。2015年10月1日時点で、「学校いじめ防止基本方針」については道99.7%(全国99.9%)が策定済み、「学校におけるいじめの防止等の対策のための組織」については道99.7%(全国99.9%)が設置済みとなっている(34)。
また、2015年12月18日時点で道に報告されている重大事態は4件であるが、いずれも詳細は公表されていない(35)。
8 おわりに
道の基本方針は、「いじめの問題への対応力は、我が国の教育力と国民の成熟度の指標であり、児童生徒が接するメディアやインターネットを含め、他人の弱みを笑いものにしたり、暴力を肯定していると受け取られるような行為を許容したり、異質な他者を差別したりといった大人の振る舞いが影響を与えているという指摘もあります」(はじめに)、「いじめを行う背景には、『イライラ感や無気力感を伴うストレス』、『友人等との嫌なできごとなどのストレスをもたらす要因』、『競争的な価値観』などが存在していることが明らかとなっている」(3頁)との認識を示している。
大人の世界でも、人と人が触れ合う中、何気ないこと(ば)で傷つくこともあれば、逆に救われることも日常的にある。ましてや心身の発達途上にある児童生徒の世界においては、学校という狭い空間の中でそのバランスが崩れることが容易にあり得る。
いじめを行う児童生徒には厳格な指導・懲戒が必要であるが、他方、彼ら・彼女らの背景にあるストレス・疎外感・抑圧感等の要因にも着目し、教育の場でその改善を図っていくという視点も欠かせない。そうでなければ、学校・教師という権力による対症療法にはなっても、抜本的な解決にはならないであろう。きちんと授業に参加し(規律)、基礎的な学力を身に付け(学力)、認められているという実感を持った(自己有用感)子どもなら、いたずらにいじめの加害に向かうことはないはずである(36)。全ての児童生徒が活躍できる場面を準備することが求められている(37)。
朝日新聞が、2015年8月末から計5回にわたりフォーラム面で「いじめどう考えますか?」の連載を行った。大阪市立の中学校でそれを活用した授業を行い、授業後のアンケートで1年生男子が「いじめはなくせないんじゃなくて、なくそうとしないだけ。毎日の学校生活が充実していれば、いじめなんてやっている暇はない」と回答していた(38)。いじめに対する透徹した認識も重要な立法事実である。
最後に、お忙しい中、取材に応じるとともに資料を提供していただいた北海道教育庁学校教育局参事(生徒指導・学校安全グループ)主幹に深く感謝申し上げる。
(18) 金子宏=新堂幸司=平井宜雄編集『法律学小辞典〈第4版補訂版〉』有斐閣(2008年)1307頁は、「作為又は不作為の義務を表す『しなければならない』『してはならない』の意味に用いる場合と、建前を表す『する』『しない』の意味に用いる場合とがある。いずれの意味の場合も断定的でなく、やや緩やかな意味を表現しようとするときに用いる。行政機関等の行為で義務づけの程度が弱い場合に用いられることが多い」と述べる。
(19) 西尾勝『行政学〈新版〉』有斐閣(2001年)207頁以下参照。
(20) 菱村・前掲注⑵13頁(菱村幸彦執筆)。
(21) 菱村・前掲注⑵13頁(菱村幸彦執筆)。
(22) 菱村・前掲注⑵18頁以下(工藤文三執筆)参照。
(23) 坂田・前掲注⑼71頁(坂田仰執筆)。
(24) 菱村・前掲注⑵35頁(樋口修資執筆)。
(25) ここでは、「するものとする」はやや緩やかな義務付け、「しなければならない」は強い義務付けとして用いられていると考えられる。
(26) 地教行法48条に規定される指導、助言及び援助の性格は非権力的な関与である(荒牧重人=小川正人=窪田眞二=西原博史編『新基本法コンメンタール 教育関係法』日本評論社(2015年)283頁(青木栄一執筆))。
(27) 菱村・前掲注⑵41頁(糟谷正彦執筆)。
(28) 荒牧ほか・前掲注108頁(吉岡直子執筆)。
(29) 荒牧ほか・前掲注86頁(喜多明人=堀井雅道執筆)。
(30) 荒牧ほか・前掲注86頁(喜多明人=堀井雅道執筆)。
(31) 坂田・前掲注⑼87頁(坂田仰執筆)。
(32) 荒牧ほか・前掲注88頁。
(33) 法制執務研究会編『新訂 ワークブック法制執務』ぎょうせい(2007年)99頁以下。
(34) 文部科学省初等中等教育局児童生徒課「いじめ防止対策推進法を踏まえた学校・教育委員会等の取組状況に関する追加調査について(平成27年10月1日時点)」。
(35) 2015年12月18日付け北海道新聞。
(36) 国立教育政策研究所生徒指導・進路指導研究センター「生徒指導リーフ増刊号リーブズ1」(2013年)13頁参照。
(37) 国立教育政策研究所生徒指導・進路指導研究センター・前掲注13頁参照。
(38) 2015年10月12日付け朝日新聞。