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立法事実から見た条例づくり

2016.08.10 政策研究

北海道いじめの防止等に関する条例(下)─いじめ問題をどのように認識し、いかに対応するのか─

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6 条例の立法事実の検討

 条例は、法が認定した立法事実を基に規制目的・規制手段とも基本的に法を受容する形で制定されている。本来であれば、条例の必要性、内容の合理性、法令非抵触性を個別具体に検討すべきであるが、検討する条例は法律施行条例の様相を呈しているので、ここでは、地方自治法や教育関係法令との関連を確認的に検討するにとどめる。

(1)市町村に対する指導及び助言等
 4(2)(ⅰ)で述べた主な論点の②は「市町村に対する指導及び助言等について」を挙げ、「市町村がいじめの防止等のための施策を策定及び実施しようとする場合には、道は、地方自治法の範囲内において、情報の提供、技術的な助言その他の必要な支援を行う」と整理している。
 技術的な助言及び勧告並びに資料の提出の要求を規定する地方自治法245条の4第3項「普通地方公共団体の長その他の執行機関は、……都道府県知事その他の都道府県の執行機関に対し、その担任する事務の管理及び執行について技術的な助言若しくは勧告又は必要な情報の提供を求めることができる」を受け、条例5条3項は、「道は、市町村がいじめの防止等のための施策を策定し、及び実施しようとする場合には、……情報の提供、技術的な助言その他の必要な支援を行うものとする」と規定している。
 また、主な論点の②は「市町村がいじめの防止等のための対策を適切に実施することができるよう、道教委は、地方教育行政の組織及び運営に関する法律の範囲内において、必要な指導、助言又は援助等を行う」と整理している。
 条例33条1項は、地教行法53条1項「文部科学大臣又は都道府県委員会は、……の規定による権限を行うため……地方公共団体の長又は教育委員会が管理し、及び執行する教育に関する事務について、必要な調査を行うことができる」を受け、「教育委員会は、……地方教育行政の組織及び運営に関する法律第53条第1項の規定に基づき、必要な調査を行うものとする」と規定している。
 また、条例33条2項は、地教行法54条2項「都道府県委員会は市町村長又は市町村委員会に対し、……市町村の区域内の教育に関する事務に関し、必要な調査、統計その他の資料又は報告の提出を求めることができる」を受け、「教育委員会は、……地方教育行政の組織及び運営に関する法律第54条第2項の規定に基づき、市町村長又は市町村教育委員会に対し必要な報告を求めるものとする」と規定する。
 条例5条4項は「北海道教育委員会は、市町村が、……基本的な方針の策定、いじめの防止等に関する基本的施策、いじめの防止等に関する措置及び重大事態への対処に関する事務を適正に行うことができるよう、必要な指導、助言又は援助を行うものとする」と規定する。これは、文部科学大臣又は都道府県委員会の指導、助言及び援助を規定する地教行法48条1項「地方自治法第二百四十五条の四第一項の規定によるほか、……都道府県委員会は市町村に対し、……市町村の教育に関する事務の適正な処理を図るため、必要な指導、助言又は援助を行うことができる」を受けている(26)

(2)出席停止
 条例5条5項は「北海道教育委員会は、市町村に置かれる教育委員会……が、法第26条の規定に基づき、いじめを行った児童生徒の保護者に対して学校教育法第35条第1項(同法第49条において準用する場合を含む。)の規定に基づき当該児童生徒の出席停止を命ずる等……適切な措置を速やかに講ずることができるよう、必要な指導、助言又は援助を行うものとする」と規定する。学校教育法35条1項は「市町村の教育委員会は、次に掲げる行為の一又は二以上を繰り返し行う等性行不良であつて他の児童の教育に妨げがあると認める児童があるときは、その保護者に対して、児童の出席停止を命ずることができる」とし、1号で「他の児童に傷害、心身の苦痛又は財産上の損失を与える行為」を掲げている。法26条の市町村の教育委員会の出席停止命令は、学校教育法35条1項の確認規定ということになる。
 「出席停止制度は、本人に対する懲戒という観点からではなく、学校の秩序を維持し、他の児童・生徒の義務教育を受ける権利を保障するという観点から設けられた制度である」「市町村教育委員会は、校長から意見を十分に聴くべきだが、出席停止の決定をする権限は市町村教育委員会にある」(27)。「出席停止は児童・生徒の教育を受ける権利や保護者の就学義務とかかわるものであるため、出席停止を命じる権限を教育委員会に与えている」「学校の教育責任の放棄にもつながりかねないものであるから、その行使には慎重さが求められる」(28)とされる。

(3)懲戒
 学校教育法11条は「校長及び教員は、教育上必要があると認めるときは、文部科学大臣の定めるところにより、児童、生徒及び学生に懲戒を加えることができる。ただし、体罰を加えることはできない」と規定する。条例26条(法25条)の道立学校の校長及び教員による懲戒の規定は、学校教育法11条の確認規定である。
 懲戒には、「①事実行為としての懲戒(叱責、作業命令等)と、②法的な効果を伴う懲戒(退学、停学、訓告、学教則26に基づく懲戒)とがある」「事実行為としての懲戒は、日常の教育活動の中で、校長および教員により随時なされるもので教育活動の一環として自由裁量的に行われている。これに対して法的な効果を伴う懲戒は、……教育を受ける権利に制約を課すものであり、かつ……法的な地位にも重大な変更をもたらす行為であり、厳密な法的基準に基づいて法的裁量の下で慎重に行わなければならない」(29)。法的懲戒は法的効果を伴うことから、その権限は、学校経営の最高責任者である校長にのみ認められている(学校教育法施行規則26条2項)。しかし、「校長の独断でなされるべきでなく、校長を含めた教師集団が職員会議等により十分な討議を経て、その総意として決定すべき性格のものである。その際には、子ども本人に対し聴聞の機会が確保されなければならない(子どもの権利条約12②)」(30)
 懲戒に関しては、実務上、法的懲戒と事実上の懲戒の境界線上に位置するグレーゾーンの懲戒の存在が問題となっている。「自主退学の勧告や学校謹慎、家庭謹慎等、児童・生徒、保護者の同意の下で行われるが、事実上、法的懲戒と同様の効果を発揮する“指導”である。本人、保護者の任意の同意が前提になっているにもかかわらず、この点が曖昧にされている等、近年、その不透明性が批判の対象となっている」(31)
 なお、退学、停学処分は、学齢児童・学齢生徒に対しては行うことはできない(学校教育法施行規則26条3項・4項)。

(4)体罰の禁止
 学校教育法11条ただし書は、体罰を禁止している。この点に関し、文科省は、「問題行動を起こす児童生徒に対する指導について」(2007年2月5日18文科初1019号)という通知を出し、体罰禁止規定の考え方について「個々の懲戒が体罰に当たるか否かは、単に、懲戒を受けた児童生徒や保護者の主観的な言動により判断されるのではなく、……客観的に考慮して判断されるべきであ」るとし、「児童生徒に対する有形力(目に見える物理的な力)の行使により行われた懲戒は、その一切が体罰として許されないというものではな」いとしていた。これに対し、喜多明人=堀井雅道は、「『体罰を全面禁止』したことが教員の自信喪失につながったという認識があり、客観的な判断としては、教師の子どもへの毅然たる姿勢を示すためには有権力の行使も必要と『法禁体罰に当たらない有形力=体罰』を是認してしまった」と批判している(32)
 その後、2012年末の部活動中の体罰を背景とした高校生の自殺事件もあり、文科省は、「体罰の禁止及び児童生徒理解に基づく指導の徹底について」(2013年3月13日24文科初1269号)を発出し、そこでは、正当な行為(通常、正当防衛、正当行為と判断される行為)以外に、体罰に該当しない「有形力の行使」があり得るとの見解は姿を消している。

(5)解釈規定
 解釈規定は、その法令の解釈の指針を示す規定であるが、①法令の解釈指針又は解釈と運用の指針を端的に示したもの、②法令の適用の限界を示し、拡張解釈を禁止するもの、③ある方向の解釈を禁止するものなどに分類される(33)
 保護者の責務等を規定する条例7条4項(法9条4項)は、「いじめの防止等に関する学校の設置者及びその設置する学校の責任を軽減するものと解してはならない」と規定する。
 他方、法30条4項(公立の学校に係る対処)は、第2項の規定は地方公共団体の長に対し、地教行法21条(教育委員会の職務権限)に規定する事務を管理し、又は執行する権限を与えるものと解してはならないと、31条4項(私立の学校に係る対処)は、前2項の規定は知事に権限を新たに与えるものと解釈してはならないと、32条4項(私立の学校に係る対処)は、前2項の規定は認定地方公共団体の長に対し、権限を新たに与えるものと解釈してはならないと規定している。
 いずれも③の用法であると解される。

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