7 おわりに
近年、少子高齢化の影響もあり、ペットブームは過熱化し、コンパニオンアニマル(companion animal:伴侶動物)という言葉に象徴されるように、ペットに衣服を着用させたり、人間と同じような食物を与えるなど、家族の一員、人生の伴侶として擬人化されるとともに、「溺愛」とされた行為に似た傾向も見られる。ペット動物の話は、ある意味「ココロの世界」に深くかかわる、情愛がからむ領域なので、法的にある種の規制をかけるとなると、動物愛好家は、ついつい熱くなってしまうといわれている(31)。わざわざ条例で規制するようなことではないという意識の存在、社会常識やモラルの問題だという考え方には根強いものがある。動物が人間に近づいてきている状況の中で、法的に動物をどう取り扱うのか、動物愛護と人間の生活環境の保全をどう両立していくかなど、社会の現実と理想の狭間で非常に困難な課題を抱えている。
多様な意見がある中で、現実の課題を解決していくため、関係者の合意形成における行政の役割が今後ますます求められてくるものと思われる。
本稿執筆に当たっては、京都市行財政局総務部法制課長の岡田博史氏をはじめ、青山竜治法規係長、春名雅史課員、保健福祉局保健衛生推進室医務衛生課の大西則嘉事業推進係長には、資料の提供だけでなく、多くの教示をいただいたことに深く感謝申し上げる。
(10) 内閣府「動物愛護に関する世論調査」(http://survey.gov-online.go.jp/h22/h22-doubutu/index.html)。
(11) 一般社団法人ペットフード協会「全国犬猫飼育実態調査」(http://www.petfood.or.jp/data/index.html)。
(12) 厚生労働省「平成26年(2014)人口動態統計の年間推計」(http://www.mhlw.go.jp/toukei/saikin/hw/jinkou/suikei14)。
(13) 内閣府特定NPO法人ConoasS「大阪府の犬猫殺処分」(http://www.conoass.or.jp/situation/osaka.html)。
(14) 2010年5月12日付け朝日新聞、岡田・前掲注(6)。藤田紗代「野良猫による被害減少のために─動物愛護者の理解」(この論文は、中央大学杉並高等学校49期生の卒業論文であるが、非常にうまくまとめられた優秀論文である)。
(15) 判例時報2082号74頁以下。
(16) 2010年5月27日付け朝日新聞。
(17) 判例時報1804号85頁以下、判例地方自治241号61〜63頁。
(18) 犬や猫等の鳴き声等の公害問題で困っている場合には、都道府県の公害審査会が、被害者と加害者との間に入り、あっせん、調停、仲裁、裁定という手続で紛争を解決する制度もある。
(19) 小・中学校等において、NPO法人アンビシャス及び公益社団法人京都市獣医師会との協働により実施し、犬等とのふれあい等を通じて、子どもたちに「いのちの大切さ」を伝えている。
(20) いわゆるTNR活動で、地域猫活動の基本となる考え方。飼い主のいない猫の繁殖を抑え、自然淘汰で数を減らしていくことを目的に、捕獲(Trap)し、不妊去勢手術(Neuter)を施して元のテリトリーに戻す(Return)活動のことをいう。TNRについては、タマラ・クルーズ著、田村博昭監訳、TAMS動物病院グループ訳『のらねこハンドブック~小さな命を守るために~』緑書房(2012年)129頁以下。東京都千代田区のTNR活動については、野澤延行『のらネコ、町をゆく』NTT出版(2009年)162頁以下、「地域猫」については、同書151頁以下、黒澤泰『「地域猫」のすすめ ノラ猫と上手につきあう方法』文芸社(2005年)を参照されたい。
(21) 細川敦史「野良猫に餌をやったら5万円の罰則⁉︎ 京都市の『野良猫餌やり規制』は何が問題か?」(http://www.bengo4.com/other/1146/1307/n_2817/)。
(22) 「箕面市カラスによる被害の防止及び生活環境を守る条例」の「条例の概要と解説」参照(https://www.city.minoh.lg.jp/animal/karasu/karasutaisaku.html)。
(23) 前掲注(1)の北九州市でも、当初「無責任な野良犬・猫への餌やり禁止」が検討されていた。しかし、野良猫の保護・管理を行うボランティアが、この項目の制定反対に関する要望書を市に提出したこと等もあり、検討委員会は、この項目を条例の規制対象とはしなかった。2013年3月17日付け読売新聞、藤田・前掲注(14)。
(24) http://www.city.kyoto.lg.jp/sogo/page/0000177903.html参照。
(25) NEWSポストセブン2015年3月28日「京都市『野良猫餌やり規制』条例の問題点をコラムニスト考察」。
(26) 山本吉毅「荒川区『良好な生活環境の確保に関する条例』の制定経緯と運用、課題」宇賀克也編『環境対策条例の立法と運用』地球科学研究会(2013年)67頁以下。
(27) 前掲注(25)。
(28) 福岡県弁護士会公害対策・環境保全委員会編『空き缶ポイ捨て禁止条例を考える』福岡県弁護士会(1993年)。
(29) 千代田区ホームページ「千代田区生活環境条例のあらまし」(https://www.city.chiyoda.lg.jp/koho/machizukuri/sekatsu/jore/aramashi.html)、千代田区生活環境課『路上喫煙にNO!:ルールはマナーを呼ぶか』ぎょうせい(2003年)。
(30) 青木・前掲注(3)6頁。
(31) 青木・前掲注(3)5頁。