6 条例施行後の課題
(1)今後の取組
京都市は、条例の公布から施行まで3か月間の周知期間が設けられたことを踏まえ、市民しんぶんやCM等の広報媒体による周知に加え、ちらしの全戸回覧や市内ペットショップでの啓発コーナーの設置等関係団体の協力も得て、関係機関からも周知を行うなど、様々な媒体や機会を通じて条例の周知に取り組んでいる。
また、条例の周知啓発活動以外にも、これまで実施している動物を遺棄させないための取組や「まちねこ活動支援事業」、犬猫のふん尿被害対策等を一層進めることにより、条例を推進し、併せて、「京都動物愛護センター」を拠点に、京都動物愛護憲章の理念を普及し、「人と動物が共生できるうるおいのある豊かな社会」の実現に向けた取組を進めていくとしている。
具体的には、
〈人と動物の共生に向けた新たな仕組みの構築〉
(ⅰ) マイクロチップ装着の助成
条例において犬猫の所有者明示の努力義務を定めたことを受け、公益社団法人京都市獣医師会が施術費用を(会員獣医師による無償施術)、京都市がマイクロチップ代をそれぞれ負担することにより、5月から、指定病院で犬猫のマイクロチップ装着を無償で受けられる制度を開始(情報登録料1,000円は実費負担要)。
(ⅱ) 譲渡事業の推進
平成27年5月開所の京都動物愛護センターにおいて、十分な世話ができないことから収容中に死亡してしまうことも多い生まれたばかりの子猫を、自宅で一時的に預かり、譲渡に適した月齢となるまで、目の行き届いたきめ細やかな世話をする「子猫の一時預かり在宅ボランティア」を開始するなど、京都府と共同して、犬猫の譲渡事業を広域的に展開し、譲渡数を増加させる取組を開始。
(ⅲ) 野良猫に対する取組の推進
猫は屋内で飼養することが正しい飼い方とし、野良猫は、病気や事故の危険にさらされ、餌を得にくく、雨や寒さもしのげず、また、ふん尿等が人の迷惑にもなるなど、猫にとっても人にとっても望ましいものではない。このため、現にいる野良猫は飼い猫としていくなど、できる限り良好な生存環境の下に置くとともに、これ以上増やさず、将来的にはなくしていくことを念頭に、次の取組を行った。
ア 「給餌行為」について、条例に基づき、適切な給餌の方法についての具体的な遵守基準を定めた。
イ 自治会、町内会等の単位で適切に野良猫を管理する取組を登録し、市が無償で避妊去勢手術の実施等の支援を行う「まちねこ活動支援制度」の活動団体の人数要件を、従前の3名以上から原則2名以上に緩和し、明確な地域合意の下での取組が一層進むよう、より利用しやすい制度とした。
ウ 条例の施行に併せ、町内会等の同意を得られないなど、「まちねこ活動支援制度」の要件を満たすことができないものでも、野良猫を適切に管理し、かつ、避妊去勢手術や譲渡等に取り組む活動については、任意に届け出て、届出済標の交付を受けることができる「野良猫への給餌に係る届出掲示制度」を設け、市が助言、指導することで、周辺の生活環境に悪影響を与えることなく、地域の合意を得られる活動へとつなげていく仕組みも整えた。
(2)今後の課題
本条例が施行されたのは、平成27年7月1日であり、条例執行後の課題はこれからである。一部には、条例を制定した自治体の意図が住民に理解されず、また、拡大解釈されることで、誤解による住民間の対立を招くおそれが大きく、平成20年に同種の条例が導入された東京都荒川区でも、実際に住民間の感情的な対立があり、所有者等のない猫の対策事業が非常に難しくなっているとの指摘もある。
2013年11月26日付けの読売新聞では、「荒川区が野良猫対策のため、無秩序な餌やりなどを禁じる罰則付き条例を制定してから来月で5年となる。路上で死ぬ猫が半減するなど成果が出る一方、猫の引き取り手に困るなど、猫を取り巻く環境は大きく変わっていない。区などは、活動への理解や協力の輪を広げようと試行錯誤を続けている。(中略)
区は野良猫への不妊・去勢手術費の助成も行い、08~12年度の5年間で1756匹を手術した。こうした施策により、12年度に路上などで死んでいた猫は349匹となり、5年前に比べて半分近くまで減った。殺処分された区内の猫も100匹(07年度)から49匹(12年度)まで減った。
手術が済んだ猫の右耳には小さな切れ目を入れ、地域で飼う『地域猫』として野良猫と区別している。決まった時間や場所で区民が餌をやり、フンや食べ残しの清掃を奨励する仕組みだ。地域猫の世話をする登録団体は、08年の30団体から今年は57団体まで増えた。
しかし、地域猫を育てられる区域は、区全域の2割程度にとどまり、地域猫を知らない人から『餌やり条例違反では』との苦情も後を絶たない。区は『住宅密集地が広がる区内では、区民の理解がなければ飼い主のいない猫を管理しきれない』と懸念する」と報じている。
つまるところ、条例が有効に機能するかどうかは、行政、住民、動物愛護団体、ボランティア、町会をはじめとする地域関係団体等との合意形成と連携・協力がどう機能するかにかかっているものと思われる。