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立法事実から見た条例づくり

2016.06.10 政策研究

京都市動物との共生に向けたマナー等に関する条例(下) ─動物愛護と餌やり禁止─

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 野良猫問題の『結論』は、とにかく不妊去勢手術を積極的に行って野良猫の絶対数を減らすところにあるはずだ。うまくコトが進むほど『猫の少ない町になる』という猫好きにとってのジレンマがあるのだが、野良猫の交通事故死や行政による殺処分を減らすためにも、その方策をなにより優先すべきだと真面目な愛猫家たちは心得ている。
 なのに、何かと言うと脊髄反射的に『人間の都合だけで動物を殺すな!』と大声でわめく少数派がいる。そういう人たちの言動を『動物愛誤』と嗤い、叩いてみせることで快感を得るような困った少数派もいる」という見方も存在する。
 福岡県北野町(現久留米市)は、平成4年に施行された環境を良くする条例(平成4年7月4日北野町条例13号)で、たばこや空き缶などごみのポイ捨てに対し日本で初めて3万円以下の罰金を科す規定を設けたとして注目された町だが、当時はポイ捨ての問題は、マナーかルールかで大きな議論が起きた(28)
 その10年後、今度は「マナーから、ルールへ」をキャッチフレーズに、東京都千代田区が、安全で快適な千代田区の生活環境の整備に関する条例(平成14年千代田区条例53号)を制定した。千代田区は平成11年4月に、いわゆる「ポイ捨て禁止条例」をスタートさせ、きれいなまちを目指してきた(ごみのポイ捨てや公共の場での喫煙を努力義務として禁止した)。しかしながら、実際には機能していないという現状があり、これまで人々のマナーやモラルに訴えかけてきたが、マナー、モラルに期待しながら、まちの環境をよくしていくことは、もはや限界であると考え、議論を重ねた末に、やむを得ず一定のルール、罰則付きの条例を設けて社会全体の意識を変えていくことを目指したという(29)
 路上禁煙地区での喫煙や吸殻のポイ捨て行為の取締りを実施し、違反者に対して過料として2,000円(条例による上限は2万円)を徴収している。その後、類似の条例制定が全国の自治体に急速に広まったのは、周知の事実である。
 要するに時代の変化とともに、マナーの問題というだけでは解決できないほど社会問題化してきたのである。ただ、過料処分を導入した千代田区は、過料徴収はあくまでモラル向上の「手段」であり、これを罰則などいらない「マナー」への回帰を目指す、としている。
 野良猫の餌やりも法律の問題ではなく社会常識やモラル・マナーに委ねておけばよい、という考え方もあるが、現実の問題として放置することができないほど社会問題化し、一部に深刻な事態も生じているのである。
 それともうひとつ重要な指摘がある。欧米の動物保護法の歴史的な起源をさかのぼると馬や牛などの使役動物・畜産動物の虐待禁止から出発しているのに対し、日本の場合は動物愛護の問題が即座にペットへの情愛の問題と同一視されがちであり、動物愛護に関する法について語るときは、それが一部のペット愛好家だけにかかわる情愛の話ではなく、多くの国民の行為規範の問題であることを特に強調する必要があることである。世の中には、動物が嫌いな人や苦手な人もいるが、動物愛護管理法は、そういった人たちに「動物を愛せ」と命令・強制することはできないのである。このような当たり前のことまで説明しなければならないのは、愛護という用語の語感が、客観的・外面的な行為より、主観的・内面的な心の在り方をどうしても連想させてしまうからでもある(30)、という指摘である。
 つまり、こういった内容の規制の条例を設けるときは、単なる規制手法による実効性の確保を図るだけではなく、いかにして動物愛護団体や愛好家等の理解を得るかが重要であり、条例に規定する政策手法に対する合意形成と協力がないと施策が進まないことを示している。
 同時に、条例の制定趣旨等について、よりきめ細やかな説明とPRが求められている。

(4)非法令抵触性
 本条例は、第2章で、多数の犬猫の飼養保管の届出義務(7条)、犬のふん回収用具の携帯・回収義務(8条)、動物への不適切な給餌の禁止(9条)等、動物の適正な取扱いについて定め、それに違反した者に対する勧告及び命令(10条)について規定し、第3章で、報告又は資料の提出(11条)、立入調査(12条)など、第4章で罰則について規定しているが、いずれも法令に抵触するものではない。
 動物愛護管理法1条、府条例1条、本条例いずれも動物の適正な取扱いについて定めており、動物による人の財産への侵害、すなわち迷惑事象の防止、生活環境の保全、そして、人と動物の共生する社会の実現を目的としている。また、動物愛護管理法9条には、「地方公共団体は、動物の健康及び安全を保持するとともに、動物が人に迷惑を及ぼすことのないようにするため、条例で定めるところにより、動物の飼養及び保管について動物の所有者又は占有者に対する指導をすること、多数の動物の飼養及び保管に係る届出をさせることその他の必要な措置を講ずることができる」と規定されており、本条例は、動物愛護の法体系にしっかりと整合性を保っている。
 パブリックコメントで一部の誤った情報に起因すると思われる多くの意見が出された「罰則付きの餌やり禁止条例」ではなく、野良猫等への無責任な給餌を抑止し、一定のルールの下に適切に行われるようにするための条例である。また、餌やり自体に罰則が適用されるものではなく、ルールに従わない餌やりを行い、周辺住民に迷惑が及んでいるときは、勧告を行い、それでも従わない場合には、命令を発し、この命令にも従わないときには、罰則を科すというもので、動物愛護管理法の規定に何ら違反するものでもない。

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