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2016.04.11 議会改革

第31次地方制度調査会と住民自治(上)

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(2)31次地制調答申を理解する上での留意点
 答申を読む上での基本的視点を確認しておきたい。

① 現状認識と提案の射程
 「人口減少社会」への対応という視点は重要である。「地方圏において、早くから人口減少問題と向き合ってきた市町村」の存在を的確に把握していることも評価してよい。とはいえ、答申に見られるように問題解決を法改正によるものか、運用によるものか、それともこうした制度改革ではなく他の施策で行うべきか冷静に判断すべきであろう。

② 行政サービス主体の重層性=「総合行政主体」論からの離脱
 市町村の重要性が指摘され、いわゆるフルセット主義に基づく「総合的な行政主体」論は採用されていない。「住民に身近な行政サービスを総合的に提供する役割を有する市町村」という文言があるが、この「総合的」の意味は、単独で担うべきということではない。そもそも、総合性とは、行政サービスに関して政策過程全般にわたって自治体がかかわり、都道府県も含めて自治体間連携・補完によって提供することである(3)。「総合」の意味の逸脱としての「総合的な行政主体」論は採用されず、その是正が行われている。「あらゆる行政サービスを単独の市町村だけで提供する発想は現実的ではなく」という認識に立っている。ここから、後述するように広域連携や地方独立行政法人などの外部資源の活用が強調されている。すでに、29次地制調答申で市町村合併は「一区切り」となっているが、市町村合併は、三大都市圏で合併は進んでいないことを踏まえた連携のあり方を、また市町村合併により議員定数が大幅削減している状況の説明の中で指摘されているだけである。
 市町村合併の推進が他人事であり、一昔前の出来事として認識しているように読めるが、自治の現場では、合併によって生じた問題(支所の廃止、周辺地域での大幅な人口減少等)に悩み苦しんでいる住民・自治体もあることを忘れるべきではないし、そのことに対する議論の欠如は大いに問題である。

③ 市町村の基礎原則からの都道府県による補完
 市町村の都道府県による補完において、判断要素や補完の対象となる事務・補完の方法についての指摘は、30次地制調答申にも指摘はあったが具体的となっている。判断要素は、市町村と都道府県の「合意」が前提となること(市町村ごとに補完される事務が異なる)、対象となる事務について、都道府県が同種の事務を行っている場合(容易:道路等のインフラ、地域振興、地域保健等)、分担して処理している場合(一定の時間を要する:介護保険、義務教育等)、都道府県が分担していない場合(慎重に検討:住民基本台帳、戸籍等)、に区分されている。27次地制調の議論の中で提起された「事務配分特例方式」(西尾私案)も都道府県による補完であるが、それが人口規模による「強制」であるのに対して、31次地制調答申では「合意」を強調していること、および補完される対象の具体性の明示により大きな異論は見られない。なお、都道府県による補完が行われた後で、市町村がその補完を解除する手法は明確ではない。それについては定める必要がある。

④ 住民訴訟の改革の問題
 ガバナンスについて議会と首長の関係、議会制度、監査委員制度は、後述する。ここでは、住民訴訟の四号訴訟の改革の論点についてのみ確認しておこう。損害賠償責任による首長・職員への委縮効果等を強調して、その低減等のために、軽過失の場合における損害賠償責任の首長や職員個人への追及のあり方を見直し(答申自体では明確ではないが、過失責任主義を重過失責任主義に変更(軽過失免責)、あるいは首長等の個人が負担する損害賠償額に限度額を設けること(あるいはその両方)が想定できる)、裁判所により財務会計行為の違法性や注意義務違反の有無が確認される工夫が示されている。また、損害賠償請求権の訴訟係属中の放棄の禁止が提起される。さらに、損害賠償請求を認める判決確認後、請求権を放棄する場合は監査委員等の意見聴取を必要とすることも提案されている。ただし、これについては、批判も見られる。しかも、抜本的なものである(4)。これらの論点を踏まえて慎重に議論すべきである。

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