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立法事実から見た条例づくり

2015.12.10 政策研究

北海道ニセコ町水道水源保護条例・地下水保全条例と立法事実の記録管理(上)

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5 地下水保全条例の概要

(1)目的
 本条例は、「町内における地下水の枯渇及び地盤の沈下を防止するために、地下水の採取について必要な規制を行うとともに、町民生活にかけがえのない資源である地下水を将来にわたって保全することにより、町民の健康で文化的な生活に寄与すること」を目的とする(1条)。
 やや分かりにくいが、第一次目的が地下水の枯渇と地盤沈下の防止、第二次目的が町民の健康で文化的生活への寄与ということになる。

(2)目的達成手段
① 井戸掘削の許可
 地下水を採取するため井戸(揚水機の吐出口の断面積が8平方センチメートルを超えるもの)を掘削しようとする者は、あらかじめ町長の許可を受けなければならない。この許可には、必要な条件を付することができる(以上5条)。8平方センチメートルというのは、一般に流通するポンプの能力を参考に、一般家庭で想定されるポンプを超えるものとして設定した基準である(14)
 許可基準は、地下水の有効的な利用に支障がないことなど、定性的なものとなっている(6条)。
 許可・不許可は、申請から60日以内になされる(10条)。また、その決定にあっては、審議会の意見を聴く(9条)。
② 説明会
 許可申請をしようとする者は、事前に井戸の設置工事の内容について説明会を開催しなければならない(7条)。
③ 井戸の完成届出と水量測定義務
 許可を受けた井戸が完成したときは、完成から15日以内に町長に届け出て、検査を受けなければならない(11条)。
 また、当該井戸には水量測定器を設置し、毎月の採取量を町長に報告しなければならない(12条)。
④ 小規模井戸の掘削届出義務
 揚水機の吐出口の断面積が8平方センチメートル以下の井戸を掘削しようとする者についても、その内容に関する町長への届出義務がある(13条・変更届は14条)。
⑤ 実効性確保
 町長は、不正な手段で許可を得た者については許可を取り消すことができる(17条1項)。また、町長は、許可を要するのに無許可で地下水を採取する者や、許可条件に違反する者に対し、是正命令を発することができる(同条2項)。さらに、町長は、予見できなかった特別な事情で地下水保全に緊急の必要があるときは、採取者に地下水採取の制限をすることができる(同条3項)。
 職員には必要な立入調査権が創設されている(18条)。また、町長は、地下水の保全上必要があると認められるときは、採取者等に対し、指導・助言をし、又は期限を定めて必要な措置をとるよう勧告することができる(19条)。
 勧告を受けた者がその措置を怠るときには、町長は措置命令を発することができる(20条)。命令に従わないときは、町長は、必要な限度において期限を定め、採取行為の一時停止を命ずることができる(22条)。
 無許可地下水採取者等に対する是正命令(17条2項)、勧告に係る措置を怠る際の措置命令(20条)、採取行為の一時停止命令(22条)に違反した者は、50万円以下の罰金刑が科される。また、不正な許可を得たり、各種条例上の届出義務に違反したりした者は、30万円以下の罰金刑が科される(25条。両罰規定である。26条)。
 本条例も2011年5月1日施行だが、許可や届出義務などの規定は、同年9月1日施行である(条例附則1項)。また、条例本文の適用は新規の井戸掘削に関するものであるが、許可を要する規模の既設の井戸については、条例施行後90日以内に所定の届出をする必要があり、その届出により条例の許可を受けたとみなされる(条例附則2項・3項)。

(つづく)


(1) 立法事実論における記録管理の位置付けについては、田中孝男「連載・立法事実からみた条例づくり─検討の枠組み」自治実務セミナー2015年2月号65頁を参照。
(2) 宇賀克也『逐条解説 公文書等の管理に関する法律』第一法規(2011年)67頁。
(3) 総務省「公文書管理条例等の制定状況調査結果」(2015年3月)より。
(4) ただし、大阪市公文書管理条例は、別表で定める保存期間別に掲げる公文書の中に、条例の制定改廃文書を掲げている。
(5) 広島高判平成23年10月28日裁判所ウェブサイト。
(6) ただし、上告審・最判平成26年5月27日裁判所ウェブサイトでは、条例の必要性・合理性が認められ原判決の破棄・差戻しがなされ、差戻控訴審・広島高判平成26年11月12日判例集未登載で、条例の必要性・合理性は認められている。
(7) 町の人口は2015年3月で約4,900人である。1980年代から2000年代半ばまで4,600人前後だった人口が、最近10年ほどで約300人増加している(町は平成の大合併時に合併をしていない)。増田寛也編著『地方消滅』中公新書(2014年)136~138頁では、地域活性化のモデルケースとして紹介されている。
(8) ニセコ町の条例にも、公文書管理法4条各号のような作成義務を課す公文書を例示列挙する規定はない。
(9) 以下については、ニセコ町企画環境課環境エネルギー係「ニセコ町水道水源保護条例・ニセコ町地下水保全条例」自治体法務研究2011年冬号64~66頁参照。
(10) 開発行為許可面積基準の厳格化、緑化基準の強化を内容とする。
(11) 特定の工場、遊戯施設等の立地規制を内容とする。
(12) ニセコ町・前掲注(9)64頁。
(13) ニセコ町・前掲注(9)65頁。
(14) ニセコ町・前掲注(9)66頁。

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