地方自治と議会の今をつかむ、明日につながる

議員NAVI:議員のためのウェブマガジン

『議員NAVI』とは?

検索

立法事実から見た条例づくり

2015.10.13 政策研究

政策推進型条例における立法事実 ─広島県中山間地域振興条例─

LINEで送る

6 条例制定後の取組

 条例施行後、2年足らずの段階で、中山間地域の振興のような長期的な成果が求められる施策の成果を論じることは時期尚早であるため、現時点までの取組状況を確認することとする。

(1)推進体制
 広島県では、本条例制定後速やかに推進体制を構築している。具体的には、市町との協議の場として知事と関係市町長で構成する「広島県中山間地域振興協議会」を、県庁内組織として知事を本部長に、副知事、関係局長等で構成する「広島県中山間地域振興推進本部」を設置している(34)

(2)広島県中山間地域振興計画の策定
 広島県中山間地域振興協議会や広島県中山間地域振興推進本部などでの議論、パブリックコメントを経て、平成26年12月に、条例に規定する推進計画である「広島県中山間地域振興計画」が策定されている(35)

(3)施策の状況等
 平成26年度当初予算では中山間地域振興関連事業が、平成27年度当初予算案では広島県中山間地域振興計画関連事業が計上されており、様々な施策が実施又は予定されている。また、平成27年2月には、平成25年度の中山間地域の振興に関する主な施策の実施状況が県議会に報告されている(36)

7 おわりに

 政策推進型条例は、その立案時に条例内容の合理性を多角的に検討するだけでなく、条例制定後の施策の影響を予測し、評価することが重要となる。また、継続的に条例内容の合理性を検証し続ける必要がある。本条例では、具体的な施策の内容は振興計画に委ねられている。そのため、計画のPDCAサイクルを回し、そのことによって施策の有効性・効率性を高めることが重要となる。さらに、計画のPDCAサイクルを回しても効果が不十分である場合には、条例のPDCAサイクルを回さなければならない。すなわち、政策推進型条例においては、法的安定性が求められる規制事項を含む条例と異なり、条例改正に柔軟に対応する必要があるのである。


(1) 芦部信喜『憲法判例を読む』岩波書店(1987年)37頁。
(2) 「すぐれた条例」については礒崎初仁『自治体政策法務講義』第一法規(2012年)94頁以下、「より良き立法」については高見勝利「『より良き立法』へのプロジェクト─ハート・サックス〈The Legal Process〉再読」井田良=松原芳博編『立法実践の変革』ナカニシヤ出版(2014年)21頁以下などを参照。
(3) 本稿では「一定の行政課題を解決するための政策の枠組みを示し、それを積極的に進めるために制定されるものであって、規制事項を含まない条例」の意味で使用する。なお、「政策推進型条例」の名称は、碓井光明「法律に基づく『基本方針』」明治大学法科大学院論集5号(2008年)3頁の「政策推進型法律」に準じている。「政策フレーム法」、「政策プログラム法」などの表現もある。なお、この類型の立法は増大しており、これは「現代の行政法律の特徴」(中川義郎「行政法の『政策化』と行政の効率性の原則について」『情報社会の公法学』信山社(2002年)82頁)とされる。
(4) 平成22年国勢調査。
(5) 国土地理院「全国都道府県市区町村別面積調」平成26年10月1日時点。
(6) 広島県『広島県史・現代』(1983年)756頁。
(7) 年間製造品出荷額等(4人以上)が全国10位(平成24年経済産業省・工業統計調査)であるのに対し、農業産出額は全国28位にすぎない(平成25年農林水産省・生産農業所得統計)。
(8) 広島県・前掲注⑹、924頁以下。
(9) 県内市町のうち過疎市町村の占める割合は全国10番目であり(平成26年4月5日現在)、そのうち広島県より上位に位置する県は、年間製造品出荷額等(4人以上、平成24年)で広島県より上位に顔を出さない。
(10) 県全域286万750人、中山間地域38万8,670人(平成22年国勢調査)。
(11) 県全域8,480平方キロメートル、中山間地域6,062平方キロメートル(2010年世界農林業センサス及び一部離島の面積は平成22年国勢調査)。
(12) 「広島県中山間地域振興計画」6頁によると、平成12年に23.9%であった65歳以上比率が平成22年には34.9%となっている。これは、県全域の18.5%から23.9%への上昇と比べても非常に大きな数字である。また、「広島県中山間地域振興計画・資料編」73頁によれば、全域過疎市町のデータであるが、総生産は、平成12年の1,114,708百万円が、平成22年には918,802百万円と10年で17.6%も減少している(同じ期間の県全域では3.3%の減にとどまっている)。
(13) 議会質疑については、広島県議会議事録(http://asp.db-search.com/hiroshima/dsweb.cgi/)の該当議会を参照。
(14) http://www.pref.hiroshima.lg.jp/soshiki/35/tyuusankanzyourei.html
(15) http://www.pref.hiroshima.lg.jp/site/kenseiiken/2604.html
(16) 礒崎・前掲注⑵、107頁。
(17) 一口に中山間地域といってもその定義は様々である。例えば、農林水産統計の農業地域類型区分による方法もある。なお、食料・農業・農村基本法は、「中山間地域等」を「山間地及びその周辺の地域その他の地勢等の地理的条件が悪く、農業の生産条件が不利な地域」と定義している。
(18) 塩野宏「基本法について」日本學士院紀要63巻1号(2008年)5頁以下。
(19) ここでは、行政実務における「法律事項」の考え方によっている。なお、「法律事項」概念も変容しつつある(塩見政幸「学説における『立法の意義』・『法律の留保』と立法実務における『法律事項』」立法と調査 332号(2012年)60頁以下を参照)。
(20) 川﨑政司「立法をめぐる昨今の問題状況と立法の質・あり方」慶應法学12号(2009年)49頁。
(21) 戸松秀典『憲法訴訟〈第2版〉』有斐閣(2008年)243頁、安西文雄「立法事実論」ジュリスト1037号(1994年)219頁などを参照。
(22) 例えば、宇佐美は「社会的経済的目標を掲げる今日的法令に対しては、合憲性の有無にとどまらず、それがどの程度適切な政策であるか、言い換えれば問題対処としてどれほど成功しているかをも問う必要がある」(宇佐美誠「政策としての法」井上達夫=嶋津格=松浦好治編『法の臨界Ⅲ』東京大学出版会(1999年)157頁)と指摘する。
(23) 法体系的整合性も当然に必要である。
(24) データは全域過疎市町区域。前掲注⑿、72頁。
(25) データは全域過疎市町区域。経済産業省・工業統計調査。
(26) 日本学術会議「地球環境・人間生活にかかわる農業及び森林の多面的な機能の評価について(答申)」(平成13年11月)15頁。この答申は、農業及び森林の評価についてのものであるが、中山間地域の多くは農地及び森林によって占められていることから内容は重複すると考えられる。
(27) 例えば、広島県における森林の公益的機能は1兆8,000億円弱の評価額があるとされており、それが失われることの影響は大きい(http://www.pref.hiroshima.lg.jp/soshiki/86/1170648520995.html)。
(28) 例えば、過疎地域自立促進特別措置法では「人口の著しい減少に伴って地域社会における活力が低下し、生産機能及び生活環境の整備等が他の地域に比較して低位にある地域」(1条)が施策の対象とされている。
(29) 芝池義一「行政計画」雄川一郎=塩野宏=園部逸夫編『現代行政法大系第2巻』有斐閣(1984年)338頁。
(30) 大橋洋一『行政法Ⅰ〈第2版〉』有斐閣(2013年)66頁。
(31) ひろしま県民だよりアンケート(アンケート結果の一部は「ひろしま県民だより329号」に掲載)。
(32) 例えば、過疎地域自立促進特別措置法では、国が作成する過疎方針に従って各県、各市町が過疎計画を策定し、それに基づいて事業を行うとともに、当該事業に対して手厚い起債措置が設けられている。
(33) 矛盾、競合、抵触(積極的抵触)の意味については、澤俊晴『都道府県条例と市町村条例』慈学社(2007年)8頁以下を参照。
(34) 広島県中山間地域振興協議会設置要綱(平成25年10月15日施行)、広島県中山間地域振興推進本部設置要綱(平成25年10月15日施行)。
(35) 計画全文は、https://www.pref.hiroshima.lg.jp/soshiki/35/chusankankeikaku-sakutei.htmlを参照。
(36) 「平成25年度中山間地域の振興に関する主な施策の実施状況」(平成27年2月・広島県)。

この記事の著者

議員 NAVI

今日は何の日?

2025年 425

衆議院選挙で社会党第一党となる(昭和22年)

式辞あいさつに役立つ 出来事カレンダーはログイン後

議員NAVIお申込み

コンデス案内ページ

Q&Aでわかる 公職選挙法との付き合い方 好評発売中!

〔第3次改訂版〕地方選挙実践マニュアル 好評発売中!

自治体議員活動総覧

全国地方自治体リンク47

ページTOPへ戻る