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立法事実から見た条例づくり

2015.06.10 政策研究

豊島区マンション管理推進条例 ─支援の条件整備による管理不全の予防に向けて─

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6 条例の施行状況

(1)条例に対する反応と運用状況
 本条例が制定後、制定自体に向けられたクレーム等はないということで、むしろ隣接区の住民から賞賛の声が届いたこともあるという。
 また、本条例の施行に関連して注目されるのが、施行をおよそ3か月後に控えた時期に、本条例をテーマとしたシンポジウム「良好な管理とコミュニティで紡ぐマンションの未来」を開催したことである。このシンポジウムでは、実に200人ほどの参加者があった。参加者には制定過程で検討された資料等も配付され、かつ、参加者の質問には「シンポジウム開催報告」内で回答も行っている(6)
 条例に係る立法事実を、「当該立法を支え、それを維持するだけの社会的事実や法則、社会的な暗黙の合意など」(7)とするならば、問題状況を住民に広く認知させ、社会的課題としての認識を強固にしてもらうことは、立法事実論から本条例の今後を考える上でも重要なことといえるであろう。この点では、広報という言葉では表現しきれない意義深いイベントとして見ることもできる。
 本条例が平成25年7月1日に施行され、最初の届出期間は、この施行日から平成26年3月31日であった。この期間中になされた届出は578件であり、その後の届出も含めた直近(平成27年1月9日時点)の状況としては、対象1,117のうち598件である(届出率は53.5%である)。
 この数値については様々な評価がありうるかもしれないが、すでに平成22年の実態調査の回答率は上回っている。

(2)今後の運用
 本条例・同施行規則では5年ごとの届出をマンション代表者等に対して求める。そこで、現在は条例施行における第1期として位置付けられる。豊島区においては、この第1期の公表の運用は念頭に置いておらず、第2期から視野に入れるという。したがって、公表の要件である「特に必要」に係る基準も現時点では検討されていないという。
 むしろ、こうしたサンクションの運用ではなく、豊島区ではマンション管理士会・税理士会等の関係団体の協力の下で実地訪問を行うこととし、訪問の際にそのまま相談を受けるという形で問題解消への着手を図ることを予定しているという(平成27年度から本格実施)。
 他方、本条例が適用されない賃貸マンション(特に、賃貸マンションも対象とする平成16年条例でも、3階以上かつ15戸以上のものを対象としているため、これに該当しないものや、施行前に完成したものには、豊島区条例による規律はかかっていない状況にある)への取組も、今後の課題のひとつと考えているとのことである。

7 おわりに

 本条例は豊島区の実情に沿ったものであり、実態調査をはじめとした認知の手法は参照すべき例のひとつになるものと思われる。また本条例は、執行の進展それ自体が立法事実を部分的には変容させることにもなるであろう。したがって、本条例には注目を向け続けるだけの価値があるものと思われる。
 なお、本稿の執筆に当たっては、豊島区都市整備部(建築住宅担当部長・マンション担当課長)の園田香次氏、同部マンショングループの安達絵美子氏から、同条例制定の経緯、施行状況をはじめとした有益な多くの情報を頂戴した。記して御礼を申し上げる。
 もっとも、本稿においては、筆者が本条例の意義や果たしうる機能、生じうる論点を十全に扱えているわけではないことを自覚している。この点をおわびしたい。


(1) このうち、平成14年度のものは、「築20年以上の分譲マンション実態調査」として、高経年マンションを対象としたものである。各調査の報告書は、豊島区ウェブサイト内(https://www.city.toshima.lg.jp/kusei/houshin/kodomokatei/019611.html)で入手可能である。
(2) この研究者委員は日本マンション学会会長であり、また弁護士委員は、マンション管理の法律や標準管理規約の解説書の共著者にもなっている。
(3) 推進会議の会議録等は、豊島区のウェブサイト内(http://www.city.toshima.lg.jp/kusei/kaigi/kaigi/26038/)で入手可能である。
(4) 推進会議の会長は、この中央区の条例の制定にも関与をしていたという。
(5) 平成22年の実態調査報告書では、回答拒否の場合と合わせた「調査不能マンションに関する考察」に、全6章のうち1つの章を充てている。
(6) この開催報告もまた、豊島区ウェブサイト内(https://www.city.toshima.lg.jp/machi/ 12305/029369.html)で入手可能である。
(7) 鈴木庸夫「自治体法務改革とは何か」鈴木庸夫編『自治体法務改革の理論』勁草書房(2007年)20頁。

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