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立法事実から見た条例づくり

2015.06.10 政策研究

豊島区マンション管理推進条例 ─支援の条件整備による管理不全の予防に向けて─

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5 条例の評価

(1)条例の必要性
 本条例が扱うマンションに関する法令としては、適正化法や建物の区分所有等に関する法律(以下「区分所有法」という)等がある。このうち後者は、マンションの管理作用に係る基本的な枠組みを示すものではあるが、具体的な管理作用に関する規定を置いているわけではない。また、まさにマンションの管理に関する法律である適正化法も、マンション管理士制度のような有用に機能しうる仕組みを創設してはいるが、六法全書(有斐閣刊)において事業関連法編に掲載されているように、同法はマンション管理業を規律する性格が強く、管理の作用自体に係る具体的な制度を構築しているわけではない。このように、マンション管理の局面は、法令が十分な具体的規律をしていたとは必ずしもいえない。
 その一方で適正化法は、5条において、マンション管理の適正化に資する措置を講ずるよう努めることを地方公共団体に対しても要求している。豊島区は、この適正化法5条が制定される前からマンション関連の施策を行っていたところであるが、本条例は、この適正化法の趣旨に沿った施策を行う際に必要な規定を置いたという性格付けもできる。
 平成22年の実態調査では、昭和45年より前に建築されたマンションでは、「管理組合なし」という回答の割合が10%を超えていた。さらに、そもそも実態調査の過程においても、対象のうち96件で、調査票の配付ができないという状況であった。すなわち、①管理員が不在、②管理員室がない、③管理組合又は管理員用の郵便ポストがない、④管理会社の連絡先が明記されていない、という①から④の全てに該当する対象が96件あったということである(5)。このように、実際に区がマンションに対して施策を行う場合において、その相手方と接触できない、あるいは相手方が明らかでないという状況が現に生じていたわけである。
 本条例が、基本的には適正化法の用語に沿った定義規定を置いている一方で、この「マンション代表者等」という概念を新たに用いていることには、以上のような本条例案の策定時点での事情もある。現状のうち適正化法や区分所有法の枠組みにも沿っていない部分への取組であり、これにより、マンション管理への支援を行う基礎条件が整えられる格好になっている。
 本条例が予防しようとする、マンションのいわゆる「スラム化」をはじめとした管理不全について、当初事務局では具体的な実例を念頭に置いていたわけではなかったという。とはいえ、推進会議の特にマンション関係の専門家委員は、全国の管理不全に陥ったと評されるに至ってしまったマンションの事例等も知っている。さらに、豊島区の担当部局の名称に「マンション」という語が用いられていることから、区には年間20件ないし60件ほどの多くの相談が寄せられてもいた。現に予防のための施策を講じようとした際に接点が存在しないマンションが相当数存在している。本条例の必要性には、抽象的・観念的といった評価が向けられるものではないであろう。

(2)条例内容の合理性
 本条例で注目されたのは、義務規定と公表制度であった。ここでは、この2点についての合理性を検討しよう。
 本条例案の策定過程において、義務規定を置く際の基本的なスタンスは、「実務上の必要性から生じる、実際の管理に不可欠なものに限定」するというものであり、その判断の際の材料が、すでに触れている平成22年の実態調査、窓口への相談事例、マンション管理士の委員の見解であったという。また、これらを先行事例等との比較の上で検討している。パブリックコメントにおいては、すでに設計図書等が残存していないという意見を受けて、不能を強いる規定を回避するための対応もなされている。
 また実体面についても、マンション代表者等にもたらされる新たな負担もさほど大きなものとはいえないであろう。本条例の義務規定には、そもそもすでに法令で義務付けられている事項も含まれている。平成16年条例の制定時に大きな論点となった町会等との協議義務についても、町会への加入を本条例自体が義務付けるわけではない(もっともパブリックコメントでは、協議であっても義務化には反対という意見があった)。この点からは、検討過程・実体ともにまずは合理的なものと評価できるのではないか。
 公表制度に関しては、認証・登録制度との比較の下に仕組みの採用が検討されている。より強度の高い手段が選択されたことになる。また、公表ということになると当該マンションの財産的価値への影響も想定されうる。もっとも、ここでも他に存在している認証・登録制度の状況を参照しつつ検討がなされているが、この仕組みでは、登録数が少ないと意図した効果を望みにくい。また、認証・登録されない不適格マンションの実情を把握することや、こうした不適格マンションに支援施策を行う際の接点を創設することも十分に実現できないことになる。
 実際に公表を行う際の段階としても、①届出の懈怠又は条例への不適合→②区長による指導→③指導に応じない場合の区長による要請→④特に必要があると認めるときの是正勧告→⑤特に必要があると認めるときの公表、という手順となっている。条例上の文言こそ区別されてはいないが、「必要があると認めるとき」という要件が④と⑤に係る条文のそれぞれで置かれていることからは、勧告・公表を行う必要性がそれぞれに判断され、その程度には差異があるものと読むことになると思われる。このように、公表に至る手続も慎重に設計されている。
 また推進会議では、公表する事項としてマンション名とすることが適切かどうかという議論が見られたが、過料等の金銭的な制裁手段を用いる場合には、誰を対象とするのかという問題の困難さは一層大きくなるであろう。実効性確保の諸手段・手法の中で、適切な選択を行ったものと思われる。

(3)法的論点と法令非抵触性
 他方、上記の義務規定については、あえて挙げるならば2つの論点がありうるであろうか。まず第1に、本条例による新たな義務付けの許容性であり、第2に、すでに法令で義務化されている事項を改めて条例上の義務とし、その違反に制裁的な公表を科すことの可否である。第2の論点は、必ずしも明らかではないが、立案過程において若干の意識が向けられていたようにもうかがわれる。
 第1の論点は、例えば5条2項「区分所有者等は、当該マンションの管理者等を選任するものとする」に関連する。区分所有法3条では「管理者を置くことができる」として、選任を義務付けてはいない。また「管理者がないとき」に関する規定を置く条項もある(区分所有法33条1項、34条5項等)。そこで、区分所有法が区分所有者等の管理者を置かないという選択可能性に価値を置いているものとして読むならば、上記の本条例の規定が問題視されることにもなる。
 もっとも、区分所有法が管理者を置くことを念頭に各条項が置かれているように読むことが自然であろうし、実際上、管理者を置かないマンションにおいて、同法が設定する枠組み自体が十全に機能しなくなっている事態を、同法自体が肯認しているとは解しづらい。区分所有法の原則に沿うことを、実情に即しつつ義務付けることも許容されることになるのではないか。
 第2の論点は、例として法定点検の実施を義務付ける18条「法に定められた定期点検及び報告……を適切に実施するものとする」の規定等に関わる。法定点検のような形ですでに義務が課されており、この義務違反に罰則が用意されている場合、これと別個に届出内容が条例の規定に適合していないとして公表を行うことは可能であろうか。また罰則が用意されていない場合に、法令が罰則を用意していないにもかかわらず、公表を行うことは可能であろうか。
 公表がなされる内容の範囲にも関わってくるが、まず罰則が置かれており、それが適用された際に、さらに本条例による公表を行うことには適切さに疑問も生じうる。公表に係る要件である「特に必要がある」という要件を満たすことにはならないと思われる。他方、罰則が置かれているがそれが適用されていない場合であるが、この場合には当該法令の執行を担当する行政機関との間での協議や調整が求められることになるであろうか。
 これに対し、罰則が用意されていない場合であるが、これは当該法令が義務の懈怠に対してとる態度の解釈によることになろう。罰則が用意されていないことが、一切のサンクションを科さないことを意図しているかどうかである。上記の条項でいうならば、法定点検を怠っている事実を公にされない地位を当該法令が積極的に保障しているか、ということになる。

図 条例制定に際して配付されたパンフレットの一部図 条例制定に際して配付されたパンフレットの一部

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