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立法事実から見た条例づくり

2015.06.10 政策研究

豊島区マンション管理推進条例 ─支援の条件整備による管理不全の予防に向けて─

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3 条例の概要

 事象の時系列としては前後することにはなるが、便宜的に、制定過程に関する検討に先立って、制定された条例の概要について示しておく。

(1)条例の構成
 本条例は、前文なし、本則全29条、附則1条からなる。構成は以下のとおりである。
第1章 総則(1条〜10条)
第2章 管理状況の届出(11条)
第3章 マンションの適正管理(12条〜21条)
第4章 防災・防犯(22条〜24条)
第5章 居住者等間及び地域とのコミュニティの形成(25条・26条)
第6章 雑則(27条〜29条)
附則

(2)本条例の対象と義務
 本条例は、「既存及び新築の全てのマンション」に適用される。ここでいう「マンション」は、マンションの管理の適正化の推進に関する法律(以下「適正化法」という)で規定されたもの、すなわち、2以上の区分所有者が存する居住用の専有部分がある、いわゆる分譲マンションとしている(2条1号)。個人所有の賃貸マンションは対象とはされない。
 第1章では、様々な責務を、区長・区分所有者等・マンション代表者等・居住者等・管理業者・宅地建物取引業者・専門家らに課している(4条〜10条)。専門家とは、マンション管理士等である(2条5号)。注目されるのが、「マンション代表者等」という、他の法令に存在しない用語が用いられていることである。この「マンション代表者等」とは、「マンションの管理組合及び管理者等又は管理者等が選任されていないマンションにあっては区分所有者等及び管理事務を行う管理業者」とされている(2条8号)。
 これらの責務規定が課す事項の多くは努力義務であるが、マンション代表者等にはマンションの管理者等の選任義務と区による調査等への協力義務が課せられている(管理業者にも調査への協力義務が課せられている)。
 また第2章以下では、マンション代表者等に対する義務に関して次のように規定している。マンション管理状況の届出(11条)、管理規約等の作成保管(12条)、名簿等の作成保管(14条)、設計図書及び修繕履歴等に関する図書の適正保管(15条)、管理組合用の郵便受けと緊急連絡先表示板の設置(16条)、設備点検と清掃の実施(18条)、長期修繕計画の作成及び見直し(19条)、町会・自治会との町会加入に関する協議(26条)。
 これらの義務に関する規定は、多くが「~ものとする」という文言によるものであるが、マンション管理状況の届出についてだけは、「届け出なければならない」という規定ぶりになっている。
 このほか、防災・防犯への対応、コミュニティの形成への積極的な取組等に関する努力義務規定も置かれている。

(3)実効性確保手段
 本条例で注目を集めた点のひとつとして、義務違反に関するサンクションがある。本条例は、管理状況の届出をしないマンション、届出内容が本条例の規定に適合していないマンション等に対して区長が指導を行い、これに応じない場合には要請を行うことができる旨を規定する(27条)。そして、こうしたマンションについて特に必要があると認めるときは、区長が是正させるための勧告をすることができ、勧告に従わない場合で特に必要があるときは、マンション代表者等に意見陳述の機会を与えた上で、その旨とマンション名を公表することができることを規定する(28条)。
 このほかに、本条例で何らかの実効性確保に関する規定は存在しない。

4 条例の制定過程

(1)マンション適正管理推進会議
 本条例案の策定過程において中心的であったのが、平成24年に要綱により設置された、「豊島区マンション適正管理推進会議」(以下「推進会議」という)であった。この推進会議は、「区の現状の検証、マンションの適正な管理の推進に関する条例の制定について、専門的な見地から検討」を行い、その結果を区長に提言するものとされていた。委員は学識経験者2名、マンション関連団体関係者2名、区職員8名であった。
 研究者と弁護士(2)が学識経験者委員となり、この研究者委員が会議の会長を務めた。関連団体委員としては、地元の2つのマンション管理士団体(首都圏マンション管理士会城北支部・豊島区マンション管理士会)から1名ずつが委員になり、区職員として、都市整備部(部長・住宅課長・建築指導課長)、政策経営部(企画課長)、総務部(防災課長・防災対策担当課長・治安対策担当課長)、区民部(区民活動推進課長)の職員が委員となった。
 なお、学識経験者委員2名は、いずれも推進会議設置の前から豊島区住宅基本条例に基づく住宅対策審議会の委員も務めていた。
 推進会議は平成24年2月から10月まで合計で5回開催された。会議はいずれも傍聴希望者に公開されていたが、実際の傍聴者はいなかった。
 検討の方式は、事務局が提示した案に対して委員が意見を述べ、修正を加えるという形である。会議録を見る限り(3)、形式面を含むかなりの点で修正がなされている印象を受ける。
 推進会議で議論された事項は多岐にわたるが、そこでは、先行事例として、「中央区マンションの適正な管理の推進に関する条例」や東京都の「マンション管理ガイドライン」が参考とされた(4)
 また推進会議の開催期間は、国土交通省内の「マンションの新たな管理ルールに関する検討会」の開催期間と重なっており、この検討会の議論に関連する資料も推進会議には示されている。推進会議の会議録内にこの検討会のことを強く意識した発言等は見受けられなかったが、事務局ではこの検討会の議論状況によっては条例化スケジュールの変更をすることも、必ずしも選択肢のひとつとして排除していたわけではなかったという。
 推進会議での議論のいくつかを取り上げよう。
 すでに述べているとおり、本条例が適用されるのは分譲マンションのみであるが、賃貸マンションを対象とするかについては議論もあった。ここでは目的を明確化するという方針がとられ、分譲マンションに固有の問題への対処という形へ意図的に限定することで規定化がなされた。
 また、実効性確保のための手段に関しては、事務局の資料においては過料や刑罰も掲げられていたが、委員間の議論で選択肢とされていたのは、義務違反に対する公表制度と、条例の充足に対する認定・登録の制度であった。従来の登録制度が、登録数が十分でないことから、必ずしも想定された機能を果たしていないとの評価が見られた。こうした従前の制度に対する一定の分析の下に公表制度が選択されている。
 他方、公表の前提とされる本条例による諸義務に関する規定に関しては、事務局の提示案が比較的弱め、すなわち努力義務規定が多めであったのに対して、各委員が義務付けに積極的であったという推進会議での議論が見て取れる。事務局としては、区の現状において、形式的には多くのマンションが公表の対象となり得ることを懸念していたようにもうかがわれる。

(2)パブリックコメント
 第4回までの推進会議で本条例と同じ章立ての素案が策定され、これがパブリックコメントに付された。パブリックコメントでは合計で21件の意見が寄せられた。内訳は、第1章関連が5件、第2章関連が1件、第3章関連が6件、第4章関連が2件、第5章関連が5件、第6章関連が2件、その他が2件であった。
 意見がもとになって素案が変更に至ったのは、①不明確な文言を責務規定から削除したことと、②設計図書や修繕履歴が残っておらず、分譲会社等にも現存していない状況を訴える意見を受けて、15条ただし書に、特別の事情があると区長が認める場合において義務を免除する旨を追加したことであった。
 この修正を受けた条例案が第5回推進会議で検討された。そして、さらに若干の修正がなされた上で承認され、議会に提案されることとなった。

(3)議会での議論
 議会に提出された条例案に対しては、反対意見が出ることもなく、全会派が賛成し可決成立した。平成16年条例の審議においては、町会との協議に関する規定に関連する審議だけで2時間50分を費やしたということであるが、本条例についてはそうしたこともなく非常にスムースに成立した。

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