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2015.05.25 まちづくり・地域づくり

〈地方財政〉待ったなしの公共施設マネジメント、議会は何をすべきか

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議会がすべきこと③ 〜具体的なアクションにつなげる
 計画は策定することが目的ではなく、実際に実行することを計画策定段階から考慮しておくことが重要である。計画の進捗状況等を毎年度フォローアップし、必要に応じて計画そのものを見直す仕組みを整備することも必要となる。白書を毎年度更新し、進捗状況等を把握できるようにするとともに、予算システムとも連動させ、具体的なPDCAサイクルを年度単位で回せるようにすることが重要となる(図6)。

図6 公共施設マネジメントにおけるPDCAサイクル図6 公共施設マネジメントにおけるPDCAサイクル

 なお、総務省から要請されているのは、「基本計画」レベルの計画策定であり、これを足がかりとして、さらに具体的なアクションプランにつなげることも必要である。「インフラ長寿命化計画」の体系においては、公共施設等総合管理計画の下で、さらに施設分野ごとに個別施設計画を策定し、具体的な取組を推進することになっている。先進的な事例では、すでに「分野別アクションプラン」を策定し、施設別・年次別の工程表を示しているところもある。
 また、こうした取組を推進する上で、モデルケースを設定して、具体的な形を見せながら計画の推進力として活用することも有効である。例えば、公共施設の建替えのタイミングで、周辺の公共施設と複合化することで、施設総量をコンパクト化し、空いた土地は有効活用することで新たな財源創出にもつなげることが、公共施設マネジメントの主要な手法のひとつとなっている。こうした「複合化」について、ワークショップなどによって具体的なイメージを膨らませ、共有しながら検討することなども重要となる。
 なお、公共施設マネジメントの取組を継続的な取組として制度化する一手法として、条例を制定することも考えられる。例えば、習志野市は、平成26年7月に「習志野市公共施設再生基本条例」を制定し、公共施設に関する定期的な調査の実施と結果の公表、公共施設の再生に関する計画の策定、さらに効果の検証による計画の見直しを規定するとともに、諮問機関として「公共施設再生推進審議会」の設置を位置付けている(2)

議会がすべきこと④ 〜合意形成をリードする
 このような公共施設マネジメントにおける具体的なアクションを推進していくための最大のポイントとなるのが、市民の合意形成である。どんなに良い計画を策定したとしても、市民の多くが反対したり、納得していなかったりすれば、その計画を進めていくことはできない。そもそも、市民の合意がなければ、計画を決定することすらできないであろう。
 市民へのPR・啓発が効果的に行われているか、地域での説明会が開催されているか、ワークショップ等による市民の意見交換が行われているか、といった点をチェックしておくことが必要である。先進的な事例では、地域の中高生や大学生、まちづくり団体などと協働してマンガ版のパンフレットを作成している事例がある(図7)。パンフレットの作成に市民が関わることで、市民目線の分かりやすいパンフレットの作成につながるとともに、公共施設マネジメントの取組自体を市民と一緒に推進することにつながるメリットがある。

図7 地域の学生や団体と協働で作成したパンフレットの例図7 地域の学生や団体と協働で作成したパンフレットの例

 なお、取組を具体化する上で、「地域別のアクションプラン」を策定することも考えられる。特に、施設を建て替えるタイミングで複合化を図る場合、施設分野ごとの検討だけではなく、地理的な配置を基に施設分野を超えて横断的に検討する必要が生じる。その際には、地域の既存の施設利用者に配慮するとともに、地域のまちづくりの方向性と重ね合わせて公共施設のあり方を検討することも必要となる。そのような地域の事情に応じた、地域別のアクションプランの策定も求められよう。
 地域別の公共施設の統廃合の方針を示すことは、地域に直接大きな影響を及ぼすことであり、地元の合意形成が難しいことは容易に想像できる。そのため、地域別のアクションプランを作成できている自治体は、これまでのところほとんどない。しかし、公共施設の老朽化の問題は、自治体全体の問題であるのと同時に、当然ながら各地域の問題でもある。各地域で適切な対応・対策をとることができて、初めて自治体全体の問題も解決することができよう。こうした難しい地元の調整にこそ、議会はもっと力を発揮すべきといえる。

おわりに 公共施設マネジメントの当事者としての議会
~地域の「ファシリテーター」として推進役を担う議会・議員へ

 このように、公共施設マネジメントの推進においては、地域での個別の調整が難しい面があり、実効性の最大の鍵は市民の合意形成にある。
 対話と協働のまちづくりにおいて先進的な自治体では、市民の中にファシリテーターが育成され、その市民ファシリテーターが進行役となって市民同士の意見交換が行われているところがある。公共施設マネジメントについても、各地域の個別施設の取扱いについて、自治体全体の中長期的・総合的な視点を踏まえて、市民同士で話し合って方針を決め、実行していくことがひとつの理想として考えられよう。

公共施設複合化ワークショップの例(出典:さいたま市資料)公共施設複合化ワークショップの例(出典:さいたま市資料)

 議会としては、そういった取組を執行部に促すだけでは十分とはいえない。まして、地域の反対意見を集めて執行部にぶつけるだけでは、自治体全体としての解決への道を困難にし、遅らせるだけであろう。むしろ、議員が地域のファシリテーター役を担うなど、議会こそが地域の調整役となり、地域の合意形成に主導的な役割を果たしていくことが求められる。このような、当事者としての意識転換と行動が、議会・議員に求められている。

明日の論点をチェック
公共施設マネジメントの当事者となり、地域の「ファシリテーター」として推進役を担うことが議会・議員に期待されています。
□ 公共施設の実態を正しく理解・共有しているかチェック
□ マネジメント計画の策定・実施体制が整っているかチェック
□ 具体的なアクションへの展開や合意形成が進んでいるかチェック


(1) 「公共施設等総合管理計画」に基づく公共施設等の除却について、地方債の充当を認める特例措置が平成26年3月に創設されており、平成27年3月までに、さいたま市、川崎市、伊南行政組合(長野県)など10団体がこの除却債の発行を総務省に申請している。
(2) その他、龍ケ崎市では、「龍ケ崎市財政運営の基本指針等に関する条例」(平成24年10月施行)において、公共施設等に関する施策の決定に当たっては世代間の負担の公平性や財政秩序の維持を考慮することを財政運営の基本指針として明示するとともに、公共施設の管理運営に関する基本指針を策定・公表することとし、公共施設等整備に伴う財政運営影響額の試算と財政収支見通しへの反映を規定している。

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