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2015.05.25 まちづくり・地域づくり

〈地方財政〉待ったなしの公共施設マネジメント、議会は何をすべきか

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問われる「議会力」
~議会の調整の遅れは取組の遅れに直結、自治体は「各論反対」を乗り越えられるか

 こうした自治体による取組の格差に、議会の対応のあり方が大きく影響している。なぜなら、公共施設は行政サービスと密接に結びついており、市民生活への影響が大きく、議会での議論がないまま、執行部のみで公共施設のあり方を決めることは基本的に想定できないからだ。「公共施設等総合管理計画」を策定し、実行していく上では、議会における議論や意思決定が不可欠であり、議会における調整がスムーズにいかなければ、それだけ自治体の取組は遅れていくことになる。
 とりわけ、今後人口減少社会が本格的に進行していくことを踏まえれば、過剰となる公共施設を身の丈に合わせて減らしていくことが、公共施設の適正化の基本的な方向性となる。これまでの人口増加・高度経済成長の右肩上がりの時代においては、拡大する利益をいかに分配するか、が政治上の大きな課題であった。しかし、人口減少・低成長の右肩下がりの時代になると、身の丈に合わせてサービスを縮小するという、いわば「不利益」をいかに分配するか、あるいは「負担」をいかに分かち合うか、といった、市民の合意形成がより難しい時代に移行していく。
 このような難しい合意形成が求められる時代に、議会は調整力を発揮できるであろうか。過剰となる公共施設を減らす方向で適正化を図るとき、個別施設を統廃合しなければならないような場面も出てくるであろう。そのときには、自治体全体の中長期的な観点で公共施設の適正化を進めるという「全体の奉仕者」としての視点と、地域で公共施設を利用する市民の利便性に配慮するという「地域の利益の代表者」の視点とのバランスをとることが求められる。議会が後者の視点ばかりに立った「各論反対」の場となったり、施設を適正化することに対する市民の反対感情をあおり政争の具としたりすることがあれば、取組は遅れ、事態は深刻化するであろう。そのツケは、確実に市民に回ることになる。

議会は何をすべきか
~取組を促し、計画の実効性を高め、合意形成をリードする議会に向けて

 そこで、こうした「待ったなし」の状況にある公共施設マネジメントを自治体が推進するために、議会が何をすべきかについて、次の4つのステップに分けて整理したい。
 公共施設マネジメントは、行政、議会、市民が一丸となって推進する必要があるが、その取組が進み具体的な動きになるほど、市民の理解や協力が不可欠になる。その市民の理解や協力の必要度が高まる段階を示したステップはすなわち、市民の利害を調整し合意を形成する議会の役割や責任の大きさの段階を示したステップと重なるといえる(図3)。

図3 公共施設マネジメントにおいて議会がすべきこと(行政と議会の役割・責任の分担)図3 公共施設マネジメントにおいて議会がすべきこと(行政と議会の役割・責任の分担)

議会がすべきこと① ~実態を正しく理解・共有する
 公共施設マネジメントを推進する上での基礎として、まずは自治体が置かれている公共施設の実態について、正確に理解し、広く共有することが必要である。
 そもそも、公共施設に関するデータが一元的に収集・管理されていない自治体も少なくないため、「白書」を作成するなど、情報を共有できる基盤を整備するように執行部を促さなければならない。その際、まずは取り組みやすいハコモノだけを対象とすることから着手するケースがあるが、それでは全体像が把握できないため、当初からインフラも含めてトータルで公共施設の実態を把握するようにすべきである。
 このように公共施設に関するデータを収集した上で、他の自治体と比較・分析することで、自治体の置かれている状況を客観的に把握することが重要である。例えば、公共施設をどれだけ多く保有しているかについては、人口1人当たり延床面積で比較することができる。東洋大学PPP研究センターが平成24年1月に公表した調査結果によれば、全国平均は約3.42平方メートル/人である。また、保有する公共施設を将来にわたって維持管理・更新するための将来コストについて、1年当たりの平均コストと現在の投資額との比率をとると、多くの自治体は今後、現状の投資額の2~3倍程度の将来コストがかかる結果となっている。これらの数値を目安として、類似団体や近隣の自治体とも比較しながら、実態を捉えていくことが重要となろう。
 なお、さらに踏み込んだ分析の例としては、人口1人当たりの延床面積と地方債残高を2軸にとったマトリクスで借金の状況を併せて分析することも有効である(図4)。また、将来の財政的な影響をより正確に判断するため、補助金や地方交付税、起債などを除いて一般財源ベースで将来コストを試算したりする方法もある。

図4 公共施設の実態把握のための分析例(人口1人当たりの延床面積と地方債残高)図4 公共施設の実態把握のための分析例(人口1人当たりの延床面積と地方債残高)

議会がすべきこと② ~計画づくりを促進する
 前述のとおり、総務省の指針により、全ての自治体は、「公共施設等総合管理計画」を策定することが要請されている。状況は「待ったなし」であり、速やかに計画を策定し、実行に移していくことを、議会側からも促すべきである。特に、策定経費の2分の1が交付税措置される平成28年度までに、確実に計画を策定できる体制・スケジュールが整えられているかをチェックすることが重要である。
 ただし、データが散逸していたり、体制構築が難しかったりするなどの事情がある中で、短期間に計画を策定することが難しいケースもある。総務省の指針に沿って、項目だけ整理した計画をとりあえず作成する、という形式的な対応をとる自治体が増えることも懸念されるところである。スピーディな取組を促すとともに、実効性の高い計画の策定を促すことも重要なポイントとなる。
 行政内部の体制については、公共施設マネジメントの推進組織を設置するとともに、各公共施設の所管部署とも連携して、全庁的に取組を進める体制を整備することが重要である。その際、公共施設の配置や統廃合の政策判断に関わる「企画部門」、財産の管理・活用や財政運営に関わる「財政部門」、建物や構造物のハードに関わる「保全部門」が有機的に連携することが求められる(図5)。当初からこうした体制を構築することが難しい場合でも、組織間の連携ができるように配慮する必要がある。また、行政内部だけでなく、有識者の意見や市民の声を取り込むなど、外部との連携体制を構築することも重要である。

図5 公共施設マネジメントの庁内体制の考え方図5 公共施設マネジメントの庁内体制の考え方

 その他のポイントとしては、総合計画や分野別計画、保全計画などの上位計画や関連計画とリンクさせることが望ましい。特に計画期間については、最上位計画の総合計画と一致させ、見直し・ローリングのタイミングを合わせることが重要である。
 また、数値目標を明確には掲げない自治体も見られるが、数値目標を定めることによって、初めてとるべきアクションを明確にできるため、アクションプランに展開し、具体的な取組につなげていくためにも、数値目標は必要といえる。

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