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2015.05.11 政策研究

議員提案による長野市農業振興条例の制定過程

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5 おわりに

 地方自治体は、首長と議会がそれぞれ市民から直接選挙で選ばれる、いわゆる二元代表制がとられています。市政への市民参加は、これまで主に行政において推進されてきましたが、平成12年に地方分権一括法が施行されてから、市民を代表する一方の議会においても、市民の多様な意見を広く聴取し、市政に反映していくことが求められています。
 行政(執行機関)と議会(議決機関)という機能の違いはあるものの、市民意見や政策課題を的確に捉え、市政に反映していくという点では、両者の果たすべき役割は同じであるといえます。
 このたびの議員提案による長野市農業振興条例の制定は、議員の皆さんの農業を取り巻く課題に対する日頃からの認識に加え、農業団体、生産者団体及び消費関係団体との意見交換、市民アンケート、農業者アンケート等を通じて広く意見を聴く中で、「農業を衰退させてはいけない、農業を何とかしなければならない」という強い思いが込められていたといえます。このことは、平成25年9月から平成26年12月までの1年3か月の間に、小委員会を含め、特別委員会を延べ29回にわたり開催し、農業振興について議論を積み重ねてきたことが証明しています(6)
 執行権を持たない議会が、政策条例を提案する場合には、条例施行後の運用も考慮し、行政側と十分に調整を図ることが必要となります。また、議員提案であることから、議会内での賛同が得られるよう、全議員への丁寧な説明も求められます。長野市農業振興条例の制定過程は、議員提案による政策条例づくりのひとつの形を実践したものといえるのではないかと思います。
 最後に、本条例の制定は終着点ではなく、まさにここからがスタートです。市、農業者、農業団体、事業者及び市民がそれぞれの責務と役割を果たし、緊密に連携して農業振興に取り組むとともに、条例に基づく新たな農業振興の施策体系を確立し、実施状況の検証を着実に行うことによって、本市農業にイノベーションが起きることを願っています。


(1) 長野市議会ウェブサイトの会議録検索システム内「平成25年12月19日農林業振興対策特別委員会会議録」を参照。
(2) 同ウェブサイト「農業振興に関する市民アンケート調査報告書【概要版】」(http://www.city.nagano.nagano.jp/uploaded/attachment/80688.pdf)を参照。
(3) 同ウェブサイト「農業振興に関する農業者アンケート調査報告書【概要版】」(http://www.city.nagano.nagano.jp/uploaded/attachment/64017.pdf)を参照。
(4) 同ウェブサイト「(仮称)長野市農業振興条例骨子案」(http://www.city.nagano.nagano.jp/uploaded/attachment/73349.pdf)を参照。
(5) 同ウェブサイト「(仮称)長野市農業振興条例骨子案に対する市民意見等の募集結果」(http://www.city.nagano.nagano.jp/uploaded/attachment/ 79738.pdf)を参照。
(6) 同ウェブサイトの会議録検索システム内において、長野市議会農林業振興対策特別委員会(小委員会を除く)会議録の閲覧が可能。

 

参考条文
長野市農業振興条例(平成26年12月25日長野市条例第68号)  長野市の農業は、千曲川と犀川によって形成された肥沃な平たん地から中山間地域に及ぶ変化に富んだ地形の中で、果樹、野菜を初めとする多品目で良質な農産物を提供し、発展してきた。
 しかしながら、都市化の進展による農地の減少に加え、農業者の高齢化、担い手不足等による耕作放棄地の拡大、輸入農産物の増加に伴う価格への影響など、農業及び農村を取り巻く環境は厳しい状況にある。
 このような状況において、私たち市民が農業及び農村に対する理解を深め、市、農業者、農業団体、事業者及び市民がそれぞれの役割を積極的に果たし、一体となって農業及び農村の振興に取り組むことにより、活力ある農業及び農村を確立しなければならない。
 ここに、農業及び農村の振興についての基本理念を明らかにしてその方向性を示し、農業及び農村の振興に関する施策を総合的かつ計画的に推進するため、この条例を制定する。
 (目的)
第1条 この条例は、農業及び農村の振興に関し、基本理念を定め、並びに市、農業者、農業団体、事業者及び市民の責務等を明らかにするとともに、農業及び農村の振興に関する施策の基本方針を定めることにより、施策を総合的かつ計画的に推進し、もって活力ある農業及び農村の確立並びに健康で豊かな市民生活の実現を図ることを目的とする。
 (定義)
第2条 この条例において、次の各号に掲げる用語の意義は、当該各号に定めるところによる。
 ⑴ 農業者 農業を営む個人及び法人その他の団体をいう。
 ⑵ 農業団体 農業協同組合、農業共済組合、土地改良区その他の農業関係団体をいう。
 ⑶ 事業者 食品産業に関わる事業を営む個人及び法人その他の団体をいう。
 ⑷ 地産地消 地域で生産された農産物を、その地域で消費し、又は利用することをいう。
 ⑸ 多面的機能 国土の保全、水源のかん養、自然環境の保全、良好な景観の形成、文化の伝承等農村で農業生産活動が行われることにより生ずる多面にわたる機能をいう。
 (基本理念)
第3条 農業については、人間の生命を維持するために欠くことができない食料を供給する産業であることに鑑み、農地、農業用水その他の農業資源及び農業の担い手が確保され、地域の特性に応じてこれらが効率的に組み合わされた農業構造が確立されるとともに、環境と調和し、安全かつ安心な農産物が供給されるよう、その持続的な発展が図られなければならない。
2 農村については、農業者を含めた地域住民の生活の場で農業が営まれることにより、農業の持続的な発展の基盤としての役割を果たしていることに鑑み、農業の有する農産物の供給の機能及び多面的機能が十分に発揮されるよう、その振興が図られなければならない。
 (市の責務)
第4条 市は、前条に定める基本理念(以下「基本理念」という。)にのっとり、農業及び農村の振興に関する総合的な施策を策定し、及び計画的に実施しなければならない。
2 市は、前項の施策の策定及び実施に当たっては、国、県その他の関係機関と連携を図るとともに、農業者、農業団体、事業者及び市民の意見を反映するよう努めるものとする。
 (農業者の責務)
第5条 農業者は、基本理念にのっとり、安全かつ安心な農産物を供給するとともに、自らが主体となって農村における地域づくりを実践することにより、農業及び農村の振興に取り組むよう努めるものとする。
 (農業団体の責務)
第6条 農業団体は、基本理念にのっとり、農業者に必要な農業に関する情報提供を行うとともに、農業者の生活及び農業技術の向上その他の農業を営むための環境整備を行うことにより、農業及び農村の振興に取り組むよう努めるものとする。
 (事業者の役割)
第7条 事業者は、その事業活動を行うに当たっては、基本理念にのっとり、地産地消を通じて、農業及び農村の振興に協力するよう努めるものとする。
 (市民の役割)
第8条 市民は、基本理念にのっとり、農業及び農村が果たす役割について理解と関心を深めるとともに、地産地消を通じて、農業及び農村の振興に協力するよう努めるものとする。
 (施策の基本方針)
第9条 市は、農業及び農村の振興に関する施策の策定及び実施に当たっては、基本理念にのっとり、次に掲げる基本方針に基づき、立地条件等の地域の状況を踏まえ、総合的かつ計画的に行うものとする。
 ⑴ 農業の多様な担い手の確保及び育成を図ること。
 ⑵ 農地の流動化、担い手への利用の集積等により、耕作放棄地の発生を抑制するとともに、農地の有効利用を推進すること。
 ⑶ 新鮮で安全かつ安心な農産物の生産を拡大し、市民生活のあらゆる場面で地産地消を推進すること。
 ⑷ 環境に配慮し、地域の特性を生かした農産物及び加工品の付加価値を高めるとともに、情報発信及び販路拡大により、収益性の高い農業を推進すること。
 ⑸ 都市と農村との交流を促進するとともに、農業及び農村が有する多面的機能が発揮されるよう地域の共同活動に対し支援を行うこと。
 ⑹ その他農業及び農村の振興を図ること。
 (振興計画)
第10条 市長は、前条に規定する基本方針に基づき、施策を総合的かつ計画的に推進するため、農業及び農村の振興に関する計画(以下「振興計画」という。)を定めなければならない。
2 市長は、振興計画を定めるに当たっては、農業者、農業団体、事業者及び市民の意見を反映するよう努めるとともに、長野市産業振興審議会農業振興専門分科会の意見を聴かなければならない。
3 市長は、振興計画を定めたときは、これを公表しなければならない。
4 前2項の規定は、振興計画の変更について準用する。
 (実施状況の公表)
第11条 市長は、毎年度、農業及び農村の状況並びに農業及び農村の振興に関する施策の実施状況について、議会に報告するとともに、公表しなければならない。
 (財政上の措置)
第12条 市は、農業及び農村の振興に関する施策を推進するため、必要な財政上の措置を講ずるよう努めるものとする。
 (推進体制の整備)
第13条 市は、農業及び農村の振興に関する施策について総合的に調整を行い、及び計画的に推進するため、農業者、農業団体等と連携し必要な体制を整備するものとする。
 (委任)
第14条 この条例に定めるもののほか、この条例の施行に関し必要な事項は、市長が別に定める。
   附 則
 この条例は、平成27年1月1日から施行する。

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