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立法事実から見た条例づくり

2015.05.11 政策研究

滋賀県流域治水の推進に関する条例─河川整備が先か条例が先か─

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7 条例の執行の課題

 条例制定過程において最大の争点であった、浸水警戒区域における建築規制に関する規定は、2015年3月から施行される予定となっている。現在、流域治水政策室では、モデル地区を2つ選定して、浸水警戒区域の指定に向けた取組がなされている。区域指定を全ての浸水警戒区域想定地に広げていくことは難航が予想される。
 しかしながら、検討委員会の住民会議の提言に基づいて定められた、本条例の県民の責務の規定では、県民は、地域の特性及び想定浸水深を把握するとともに、これらを勘案して、自らの生命、身体及び財産に対する被害を回避し、又は軽減するために必要な取組を自主的かつ積極的に行うよう努めなければならないとされている。
 浸水警戒区域の指定はそれ自体が重要でも問題でもない。その指定予想地域が、地先の安全度に照らして人命に危険を及ぼすようなところであるとの認識が重要なのである。そうした認識の上に立って、地域住民は、県、市町など行政機関とともに、水害の危険度についての情報を共有しながら「水害に強い地域づくり協議会」を組織することが肝要である。その協議によって、自らの生命を守るために、様々な「そなえる」対策を構築し、その中で建築規制に対応する方策を練り上げていくということが求められる。そうした取組の要に位置する流域治水政策室の役割は大きい。本条例の実効性は、そうした協働の取組によってこそ確保される。

8 おわりに

 2014年も大型台風が日本列島をたびたび襲った。向こう20年計画の河川整備では、間に合いそうにない。直ちにできるのは「とどめる」対策であり「そなえる」対策である。これまでの災害対策の法政策は、甚大な災害が起きてから後追いでなされることが多かった。本条例の特徴は、これから起こり得る災害を科学的に想定し、規制を講じることとした、その先見性にある。
 先を見通した将来の予測も、科学的知見に裏付けられたものは、立法事実である。本条例には、その予測を検証し見直すためのプログラムが組み込まれている。こうしたPDCAサイクルを回していく発想は、まさに政策法務の目指すところである。
 浸水警戒区域の指定に向けて、ご多忙にもかかわらず、流域治水政策室の一伊達哲氏には、県庁訪問時にもその後の数度にわたるメールにも丁寧に対応していただき、有益な情報を提供していただいたことに深く感謝申し上げる。


(1) 「滋賀県の河川整備方針」7頁参照。ホームページは次のとおり。
http://www.pref.shiga.lg.jp/h/kako/kikaku/files/shigakennokasenseibihoushin.pdf
(2) 嘉田由紀子=中谷恵剛=西嶌照毅=瀧健太郎=中西宣敬=前田晴美「生活環境主義を基調とした治水政策論」環境社会学研究16号(2010年)37頁参照。
(3) 嘉田ほか・前掲注(2)41頁参照。
(4) 出水による危険の著しい区域を災害危険区域に指定しているのは、全国で119件(2010年3月末日現在)である。国土交通省住宅局建築指導課編『図解建築法規』新日本法規出版(2011年)29頁参照。
(5) 次のホームページを参照。
http://www.pref.shiga.lg.jp/h/ryuiki/kihonhousin/files/02housinzenhan.pdf
(6) 滋賀県流域治水の推進に関する条例施行規則(平成26年3月31日滋賀県規則30号)により、10年、100年及び200年の3通りと規定している。
(7) 瀧健太郎=松田哲裕=鵜飼絵美=小笠原豊=西嶌照毅=中谷恵剛「中小河川群の氾濫域における減災型治水システムの設計」河川技術論文集16巻(2010年)480頁参照。
(8) 前掲注(1)のホームページを参照。

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