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立法事実から見た条例づくり

2015.05.11 政策研究

滋賀県流域治水の推進に関する条例─河川整備が先か条例が先か─

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4 条例の概要

(1)「ながす」「ためる」「とどめる」「そなえる」の4本柱
 本条例は、前文が置かれ、本則が9章、全43条、附則が全3項で構成されている。本条例は「流域治水基本方針」の条例化の意味がある。前文で、「滋賀の流域治水」は、「川の中」で水を安全に「ながす」基幹的対策に加え、「川の外」での対策、すなわち、雨水を「ためる」対策、被害を最小限に「とどめる」対策、水害に「そなえる」対策を組み合わせて実践することであり、これが重要であるとする。本条例は、これら4つのキャッチコピーふうに表現する対策で柱立てがなされている。
 なお、第1章の総則規定には、目的、定義、基本理念、県の責務、県民の責務及び事業者の責務が規定されている。

(2)想定浸水深の設定等
 第2章には、4つの対策が必要となる前提として、氾濫原の各地点の浸水の危険を示す「想定浸水深」を設定することと、その基礎調査を行うことについて規定を置いている。「想定浸水深」とは、第1章2条3項の定義規定で「一定の期間につき(6)1回の割合で発生するものと予想される降雨が生じた場合において、洪水または下水道、農業用排水路その他の排水施設もしくは河川その他の公共の水域に当該雨水を排水できないことにより氾濫原が浸水したときに想定される水深をいう」とされ、その設定とは「地先の安全度マップ」の作成のことを指している。想定浸水深は、おおむね5年ごとに設定し直し、設定したときは公表しなければならないことも定めている。

(3)「ながす」対策
 「ながす」対策は、第1章2条2項の「流域治水」の定義規定(以下単に「定義規定」という)でいう「洪水による河川等(河川および下水道、農業用排水路その他の排水施設をいう。)の氾濫を防ぐため、河川の整備を行うこと」であり、第3章に「河川における氾濫防止対策」の章名で規定が置かれている。同章では、河川の整備を次に掲げるところにより行うと定めている。
① 県の全域における河川の整備状況の均衡に配慮しつつ、河道の拡幅、堤防の設置、河床の掘削、洪水調節の機能を有する施設(ダム等を含む)の設置等の対策を、計画的かつ効果的に組み合わせて行うこと。
② 河川の流水を流下させる能力を維持するため、治水上の支障の程度に応じ、河川内の樹木の伐採、堆積した土砂のしゅんせつ、護岸の修繕等を行うこと。
③ 堤防が決壊した場合に甚大な浸水被害が想定され、かつ、当面①に規定する対策を実施することが困難な河川の区間にあっては、浸水被害を軽減するため、堤防の性能の向上を図る改良を行うこと。

(4)「ためる」対策
 「ためる」対策は、定義規定でいう「河川等への急激な雨水の流入を緩和するため、河川等に係る集水地域において雨水を貯留し、または地下に浸透させること」であり、第4章に「集水地域における雨水貯留浸透対策」の章名で規定が置かれている。
 同章ではまず、森林や農地の所有者等に、それぞれ適正な保全及び管理を行い、森林や農地の有する雨水貯留浸透機能が持続的に発揮されるよう努力義務を課している。
 続いて、おおむね1,000平方メートル以上の面積の公園や運動場等の施設の所有者等に、その敷地に雨水を貯留する機能を有する施設を設置すること、雨水を浸透させる舗装を施すことなど、その施設の雨水貯留浸透機能を備え維持するよう努力義務を課し、さらに、その他の建物や工作物の所有者等に対しても、雨水の貯水槽を設置すること等により、その規模に応じた雨水貯留浸透機能を備え維持するよう努力義務を課している。

(5)「とどめる」対策
 「とどめる」対策は、定義規定でいう「氾濫原(浸水被害が生じるおそれのある区域をいう。)において浸水被害の発生のおそれを考慮した建築物の建築等の制限、都市計画法第7条第1項に規定する区域区分の決定等を行うこと」であり、第5章に「氾濫原における建築物の建築の制限等」の章名で規定が置かれている。なお、以下のアに関する規定は、2015年3月から施行される予定となっている。
ア 浸水警戒区域における建築規制
 同章ではまず、知事は、200年につき1回の割合で発生するものと予想される降雨が生じた場合における想定浸水深を踏まえ、浸水が発生した場合には建築物が浸水し(3メートル以上の浸水を想定)、県民の生命又は身体に著しい被害を生ずるおそれがあると認められる土地の区域で、一定の建築物の建築の制限をすべきものを「浸水警戒区域」として指定することができるとし、その区域内においては、住居の用に供する建築物又は高齢者、障害者、乳幼児その他の特に防災上の配慮を要する者が利用する社会福祉施設、学校及び医療施設の用途に供する建築物の建築をしようとする場合には、あらかじめ、知事の許可を受けなければならないと規定している。
 その許可の基準として、①3メートル以上となる想定水位以上の高さに(例えば2階の)床面のある居室があり、又は避難上有効な屋上があり、かつ、それらの場合に、木造であれば建築物の地盤面と想定水位との高低差が(3メートル以上になると浮力の関係で危険となることから)3メートル未満であること、あるいは想定水位下の主要構造部が鉄筋コンクリート造又は鉄骨造であること、②同一の敷地内に①に該当する建築物があること、③付近に地盤面の高さが想定水位以上の避難場所等があることのいずれかに適合すると認められることと定められている。
 この「浸水警戒区域」は、建築基準法39条1項による「災害危険区域」とすると定めている。これによって、同法の制度が活用され、本条例の建築規制の規定は、同法による建築確認の審査の際に適合しなければならない建築基準関係規定となり、本条例の許可を受けずに建築するなどの違反があれば、同法の手順にのっとって同法の罰則が適用されることとなる。なお、本条例の罰則規定をめぐっては、市町意見照会でも県議会でも激しく議論されたが、同法の罰則については、条例の賛否そのものに関心が集中したためか、議論はなされず、結果として罰則の適用は残ることとなった。
イ 市街化区域への編入制限
 同章では次に、土地の利用規制として、都市計画法の区域区分に関する都市計画の決定又は変更において、10年につき1回の割合で発生するものと予想される降雨が生じた場合における想定浸水深が0.5メートル以上である土地の区域は、原則として新たに市街化区域に含めないことと規定している。
ウ 大規模盛土構築物の設置等の配慮義務
 同章ではさらに、道路や鉄道の敷設のための長大な盛土構造物は、氾濫流に大きな影響を与えることから、その設置、改変又は撤去をしようとする者に対し、その周辺の地域において著しい浸水被害が生じないよう配慮しなければならないと規定している。

(6)「そなえる」対策
 「そなえる」対策は、定義規定でいう「県、市町、県民その他の関係者が連携して、避難に必要な情報の伝達体制の整備、地域における浸水被害の回避または軽減に関する必要な対策の検討等を行うこと」であり、第6章に「浸水に備えるための対策」の章名で規定が置かれている。
 同章では、県の役割として、河川の水位等に関する情報や想定浸水深に関する情報を生かすための必要な措置等をとること、県民の浸水に関する体験を含む浸水に関する記録の収集など調査研究を行うこと、「そなえる」対策についての教育や訓練等を行うことなどを定めている。
 県民に対しては、日常生活において、避難場所、避難経路、家族等との連絡方法など浸水時にとるべき行動を確認するよう、浸水時において、河川の水位等に関する情報等に留意し的確に避難するよう、さらに、県民相互に連携し、流域治水に資する活動を行う団体を組織する等協働による流域治水の推進に取り組むように努めることを求めている。
 また、宅地建物取引業者に対し、その相手方が取得等しようとしている宅地や建物の所在する地域の想定浸水深や水防法に規定する浸水想定区域に関する情報を提供する努力義務を課している。

(7)雑則及び罰則
 第8章には、県の財政上の措置や、市町が浸水について建築基準法39条の災害危険区域の指定及び建築の規制に関する条例を定めている場合には、その市町については本条例の浸水警戒区域に関する規定を適用しないことを定めている。
 第9章には、罰則の規定を置いている。浸水警戒区域における建築規制の規定に違反した場合等には、20万円以下の罰金に処すると定めるが、修正再提案時に、附則2項で第9章の規定は当分の間適用しないとされた。

5 本条例の修正再提案時の修正内容

 2014年2月県議会の修正再提案では、罰則規定を適用しないことやダムの文言を入れたことのほか、河川整備を重視する方向に規定を整備するとともに、浸水警戒区域の指定について地域住民の意向を反映させるなど慎重な手続を定める規定を整備した。
 まず、前文において「ながす」対策を「基幹的対策」と表現し直し、水害から県民の生命と財産を守るためには「まず、河川の計画的な整備を着実に進めることが何より重要である」とした。
 第1章の理念規定では、「河川の流水を流下させる能力を超える洪水が発生するおそれがあることに鑑み」という文言の規定の前に、項を1つ起こして「流域治水は、河川の整備が洪水による河川等の氾濫を防ぐための基幹的な対策であることに鑑み、河川を管理する者の責務にのっとり、河川の整備を計画的かつ効果的に実施することを旨として推進されなければならない」と定めた。
 第3章の「ながす」対策では、河川整備を行う際の配慮事項として、浸水警戒区域については河川整備を早期に実施するよう特に配慮するとの文言を加えた。
 第5章の「とどめる」対策では、浸水警戒区域の指定に当たっては、関係市町の長に加え「滋賀県流域治水推進審議会」の意見を聴かなければならないとし、この審議会の規定を、第7章として挿入し、学識経験者等15人以内で組織することなどを定めた。
 第6章では、「そなえる」対策を推進するために、県、関係行政機関及び地域住民で組織する「水害に強い地域づくり協議会」の協議事項に「浸水警戒区域の指定に関する事項」を加えた。

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