6 条例施行後の現状と課題
本条例は、広報、ホームページ、ボランティアによる駅前でのちらし配布等で周知した。本条例については、地元の神奈川新聞をはじめ全国のマスコミで大きく報じられたところである。
(1)あり方検討会
本条例施行後の3月28日に、海水浴場の運営などを議論する第1回のあり方検討会が市役所で開催された。メンバーは、公募による市民3名や商工・観光団体、学校関係者、海岸の近隣町内会、県や警察などの計27名である。当初は組合も入っていたが、2月に市を提訴したため、市の判断で除外された(ただ、5月8日の第3回検討会にはオブザーバーとして参加している)。
本条例等を受けた細かいルールづくりや中長期的なビジョンについて意見を交わし、5月には「2014年度逗子海水浴場ルール」が策定された。今後、本条例等の改正に関わる内容について議論する。
(2)立法目的の達成
立法目的はおおむね達成されているというのが担当課の認識である。
2014年の海水浴客数は、約20万1,300人で、昨年(41万7,000人)比で約5割減であった。今年は台風の接近が二度あったこと、梅雨明けが遅かったこと、また、土日の天候が芳しくなかったことも影響していると担当課では分析している。
市長は「一度リセットする」と繰り返し述べてきた。担当課も「今夏は、来夏以降をどうするのか考える一つのバロメーター。利用客の反応を見つつ、緩めてもよい規制と維持するべき規制のあり方を検討していく考えだ」と報じられている⒃。
(3)残された課題
担当課は、残された課題として、周知の徹底、指導に従わない者への対応、集客方法の検討を挙げている(担当課への問合せによる)。
7 おわりに
海水浴場は誰のものか、そして、海の家の存在意義は何かについて、「正解」があるわけではなく、その時代、その地域での住民の判断に委ねざるを得ない。
鎌倉市の由比が浜では、8月上旬には白昼、強姦事件も発生したと報じられている⒄。海水浴場期間終了後の2013年9月、鎌倉市の担当課は「近隣と歩調を合わせなければ、水は低い方に流れる」と規制の必要性を述べていた⒅。このことは、本条例の立法事実を側面から「傍証」するものといえるのではなかろうか。
業務ご多忙にもかかわらず、担当課の鈴木仁氏及び池田祐一氏に、数度にわたるメールのやりとりで有益な情報をいただいたことに深く感謝申し上げる。
⑴ 県の「海の家における海岸利用に関するガイドライン(平成26年度版)」は、「クラブ化」の定義を、ダンスステージ、ダンススペースを設けて客にダンスをさせる営業形態や楽器、音響機器等の音を異常に大きく発し、利用者がダンスに興ずることを容認するようなイベントの開催、海の家の屋内から屋外に向けてダンスミュージック等の音楽を流し、屋内外の利用者の参加を促すダンスイベント等としている。
⑵ 一般職の職員で、施策づくり段階又は施策施行段階での法的根拠の裏付けを行い、行政の法律全体のアドバイザーとして勤務しているほか、市全体の訴訟も担当しているとのことである。
⑶ 村上順ほか編『新基本法コンメンタール地方自治法』日本評論社(2011年)357頁(三野靖執筆)は、「海水浴場を条例により設置する場合は(筆者注:公の施設に)当たり、実際に条例もある。」とする。例えば、西之表市海水浴場の利用に関する条例(平成15年西之表市条例18号)がそうである。
⑷ 「施行通達―行政手続法の施行に当たって」(平成6年9月13日総管第211号各省庁事務次官宛総務事務次官)の第1の1の⑵参照。
⑸ 最判平成14・7・9民集56巻6号1134頁参照。
⑹ 阿部泰隆教授は、宝塚市条例8条の命令違反者に刑事罰を科する規定はないこと等から、実質的には行政指導の根拠付けにすぎないと述べている(「条例コーナー」ジュリスト808号(1984年)55頁)。
⑺ 高橋和之『立憲主義と日本国憲法〈第3版〉』有斐閣(2013年)134頁。
⑻ 小山剛『「憲法上の権利」の作法〈新版〉』尚学社(2011年)68頁。
⑼ 2014年9月7日付け神奈川新聞HP「規制のビーチ"2014夏@湘南」⑻。
⑽ 2014年8月28日付け神奈川新聞HP。
⑾ 須磨海岸を守り育てる条例(平成20年神戸市条例37号)は、騒音の発生と花火の禁止命令違反に対し、罰則(罰金)を設けているが、飲酒や音楽、海の家の営業時間に対する規制はないので、市は、「日本一厳しい」と喧伝しているものと思われる。
⑿ 鎌倉市(観光商工課)の2014年2月5日の記者会見資料1。
⒀ 憲法13条の幸福追求権から導き出される新しい人権のひとつとして、学説上、「入浜権」が挙げられる(戸波江二『憲法〈新版〉』ぎょうせい(1998年)178頁)。「入浜権」とは「一般市民が海水浴・潮干狩り・魚釣りや散歩などをするために自由に海浜地に立ち入ることができる権利」(伊藤正己=園部逸夫編集代表『現代法律百科大辞典1』ぎょうせい(2000年)三林宏執筆)と説明されるが、権利として判例上認められているものではない。
⒁ 2014年2月12日付け組合から市長宛の「安全で快適な逗子海水浴場の確保に関する条例改正案に係る質問書」。
⒂ 前掲注⑼。
⒃ 2014年6月24日付け神奈川新聞HP「規制のビーチ"2014夏@湘南」⑴。
⒄ 前掲注⑼。
⒅ 2014年6月25日付け神奈川新聞HP「規制のビーチ"2014夏@湘南」⑵。