東京大学大学院法学政治学研究科/公共政策大学院教授(都市行政学・自治体行政学) 金井利之
はじめに
自治体は行政団体であるが、民間企業と共通する経営の側面がある。あるいは、類似する側面がある。しかし、異なっている面もある。何を民間企業と共通と見て、何を違いと見るのかは、実務上又は講学上の観点によりけりであろう。基本的には、自治体は民間企業と異なる。とはいえ、自治体の活動の中には、民間企業と同じ経営をしている部分がある。今回は、そうした自治体による企業経営について論じてみよう。
民間企業の特質の多面性
民間企業の特質を、利潤を上げる点に着目するならば、自治体の大半の業務は企業経営とは異なるといえよう。そもそも、自治体は利潤を目指す営利団体ではなく、非営利・公益が目的だからである。
しかし、民間企業を営利目的に限定して考える必要はなく、存続・持続を目的とすると位置付けることもできよう。有料で財・サービスを販売し、対価を支払わない人には財・サービスを提供せず、対価の収入によって持続的な経営を確保するのが、民間企業の特質と見ることもできよう。出資者への配当は利潤がなければ不可能ということもできるが、資金提供者への対価としての利子支払と類似するにすぎないとすれば、労働者への賃金、原材料供給者への支払と同じである。要するに利潤は必要なく、必要な経営資源の調達コストを、販売収入で賄えれば、収支が採れて充分なのである。このように、営利目的ではなく存続目的に民間企業を位置付ければ、自治体とある程度は類似する。
とはいえ、自治体は、通常は、有料で財・サービスを販売し、対価を支払わない人には財・サービスを提供せず、対価の収入によって経営を確保する、というわけではない。自治体は、基本的には、強制的に賦課される租税~地方税~をもとに運営している。もちろん、国からの財政移転(地方交付税・地方譲与税・国庫支出金)によって、費用を賄っている面もある。また、地方債の発行によって、政府資金又は民間の金融機関から資金を調達している。しかし、国からの財政移転も結局は国税に由来する。地方債も、結局は自治体の財政資金で償還するのであって、国又は自治体の租税負担に帰着する。しかし、逆にいえば、自治体にも販売の対価収入によって運営を確保する(建前の)事業があれば、企業と同じ経営性を持つことになろう。その典型が第三セクター(以下、ときに「三セク」)である。
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