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2024.04.10 政策研究

過疎地域の行方

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NPO法人ムラツムギ代表理事 田中佑典

過疎とは何か

 地域で活動していらっしゃる方にとって、「過疎」という言葉は普段からよく聞く、耳慣れた言葉ではないでしょうか? しかし、「過疎」とはいったい何かと聞かれると、意外に皆さん頭を抱えられます。「人口減少のこと?」、「高齢化が進んでいることでしょ」など、人によってその定義は様々ですが、特集「過疎に向き合う」第一弾として、本記事では、過疎とはいったい何か、何が今問題なのかを、改めて読者の皆さんと一緒に考えたいと思います。

貧しさの中の過疎化

 早速ですが、皆さんはいつから「過疎」という言葉が出てきたかご存じでしょうか?
 「過疎」が初めて公式に取り上げられたのは、今から60年近く前、1966年の「経済審議会地域部会中間報告」だといわれています。当時はちょうど高度経済成長期まっただ中で、これまで農村や山村で生活をしていた若者の多くが、この時期に雇用と賃金を求めて都市に向かいます。当時、農山村から相対的に所得の高い都市部に移転することは、むしろ「生活を改善させるという観点で望ましいこと」とされていたようですが、ますます広がる都市─農山村格差、そして急激な人口流出による地域社会の崩壊が顕在化する中、対応策の検討を迫ったのが上記の報告でした。
 1967年10月に最終版が出された同報告の中身を一部見てみましょう。
 人口減少地域における問題を「過密問題」に対する意味で「過疎問題」と呼び、「過疎」を人口減少のために一定の生活水準を維持することが困難になった状態、たとえば防災、教育、保健などの地域社会の基礎的条件の維持が困難になり、それとともに、資源の合理的利用が困難となって地域の生産機能が著しく低下することと理解すれば、人口減少の結果、人口密度が低下し、年齢構成の老齢化がすすみ、従来の生活パターンの維持が困難となりつつある地域では、過疎問題が生じ、または生じつつあると思われる。
 このように同報告では、過疎を「過密」と対立する概念として捉え、「人口減少のために一定の生活水準を維持することが困難になった状態」、つまり「従来の生活パターンの維持が困難となりつつある」状態としています。あくまで人口減少や高齢化そのものではなく、人が少なくなり高齢者ばかりになった結果、これまでと同じ地域の活動ができなくなってしまう、それによって困る人が出てきてしまうという、地域間格差とその結果起きる「生活パターン」の崩壊こそが過疎問題の本質だといっているのです。
 その上で、こうした過疎に立ち向かうためとして、地域の経済開発の可能性の究明、地域に適した産業振興、所得機会の提供、社会保障的施策、そして精神生活を含めた総合的な福祉対策など、現代にもつながる包括的な対応の必要性を同報告は指摘しています。
 過疎問題が叫ばれ始めた最初期の段階で、過疎の本質が人口減少や高齢化そのものではなく、そこから派生して生じる生活上の諸問題にあるということが指摘されていたことは、極めて鋭い洞察だったと思います。そして、部会での議論と並行する形で、地方自治を所管する自治省は、急きょ人口急減を対象にした調査に着手、1967年には「人口急増・急減地域の現状と対策の方向(中間報告)」を発表し、「農林水産業の生産性向上や集落の再編成、交付税の運用改善や辺地債の大幅拡充など、行財政面での対策について言及」(坂本 2023)することになりました。高度経済成長の進展と裏腹に、時代は地域間格差の是正、言い換えれば、地域における「貧しさ」の克服へと向かっていくことになります。

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田中佑典(NPO法人ムラツムギ代表理事)

この記事の著者

田中佑典(NPO法人ムラツムギ代表理事)

1989年奈良県大塔村生まれ。京都大学卒業後、総務省入省。長野県、外務省等を経て、総務省にて持続可能な地域社会を実現するための企画・立案に従事。現在は群馬県にて交通政策に取り組む。 人口200人を下回る小村に生まれた経験から、「変化にやさしく」をビジョンとするNPO法人ムラツムギを設立、人口減少下における地域社会の新たなビジョン策定を支援する。米国コロンビア大学大学院卒(公共政策学、ジェンダー政策)。立教大学大学院博士課程(環境社会学)。その他、TEDx speaker、NewsPicks Propicker、世界経済フォーラムGlobal Shapersなど幅広く活動。

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