青森大学社会学部教授/早稲田大学マニフェスト研究所招聘研究員 佐藤 淳
《今回のキーワード》
|
【SHORT STORY】
「新型コロナウイルス感染症の感染拡大の影響を受け、開催を予定していた、ここち市議会の市民との意見交換会の開催を中止いたします」。
議会事務局の江上は、先程まで開催されていた議会運営委員会での話し合いの結果を受けて、議会のホームページの更新作業を行っていた。市民との意見交換会を担当する広聴広報委員会の委員から、いつも高齢の男性しか参加しないから、インパクトのあるチラシにしてくれないかといわれ、今回は自分なりに手の込んだものを作成したつもりだった。その成果を確認することができなくなったのは残念だが、当日、市民が来るか来ないか冷や冷やするプレッシャーからは解放される。まぁいっか……。
そんなとき、広報広聴委員会の委員である若手の古江議員が事務局の部屋に入ってきた。「江上君、2年連続、市民との意見交換会中止になっちゃったね。議会基本条例には、年に1回以上、市民との意見交換会を開催するってことになっているけどいいのかな?」。「コロナですから仕方ないですよ。近隣の議会も中止や延期にしているところばかりですし」、と江上は作業をしながら答えた。
「Zoom※って使えませんかね?」江上の隣に座る、先輩事務局職員の福島良子がボソッとつぶやいた。福島には小学校4年生の双子の男の子と女の子がいる。「コロナになってから子どもたちが通う学校のPTAの会議がZoomを使ってオンラインでやるようになったんです。小さい子がいるママ友は、自宅で子どもの面倒見ながら参加できるって結構好評なんですよ」。
「福島さん、80歳の青木議員がZoomなんてできると思う? 青木議員がイエスっていわない限り、第一会派は賛成しないよ。それにあの会派には、市民との意見交換会自体に乗り気じゃない議員もいるじゃん」。山田次長が毎度のように、皆のやる気をそぐ発言で割って入る。
「政策サイクルを回し、政策提案できる議会になるには、その起点となる市民との意見交換会の開催は必要。コロナ禍であればなおさらだ」。江上は心の中でそう思ったが、言葉を飲み込んだ。
※Zoom:複数の参加者が音声と映像により通話できるオンライン会議システムの代表的なもの。
オンライン議会報告会の案内チラシ
つづきは、ログイン後に
『議員NAVI』は会員制サービスです。おためし記事の続きはログインしてご覧ください。記事やサイト内のすべてのサービスを利用するためには、会員登録(有料)が必要となります。くわしいご案内は、下記の"『議員NAVI』サービスの詳細を見る"をご覧ください。