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2019.02.12 政策研究

会計年度任用職員制度を考える

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 平成29年5月17日に公布された「地方公務員法及び地方自治法の一部を改正する法律」により、会計年度任用職員制度が創設された。
 各自治体は、平成32年4月1日までに、対応を行わなければならない。
 本特集では、改正に至る経緯と改正の概要に加え、特別職非常勤職の課題について、実務に即した解説、提言をいただいた。

弁護士 太田雅幸

 「地方公務員法及び地方自治法の一部を改正する法律(平成29年法律第29号)」(平成32年4月1日施行。以下「改正法」という)により設けられる会計年度任用職員制度を含む新地方公務員制度。本稿では、その改正動機や新制度における規律等について概観した上で、実務的に悩ましいいくつかの事項について検討することとする

第1 改正動機

1 背景
 我が国には、臨時・非常勤である地方公務員が約64万人いて(平成28年4月時点)、地方公務員全体の約23%を占めるといわれる。その主な職種は、事務補助職員(約10万人)や保育所保育士(約6万人)等であって、任用根拠別には、特別職非常勤約22万人、一般職非常勤約17万人、臨時的任用約26万人である。
 このような大規模の臨時・非常勤の職員が存在するのは、常勤職員の上限を画する定員条例や厳しい財政事情の下で必要な人員を確保するための工夫によるものと推測されるが、本来の制度趣旨にそぐわない運用がされ、臨時・非常勤職を巡る裁判で自治体が敗訴する等の事態も生じ、また、社会の大きな潮流に対応する必要も生じている。

2 本来の制度趣旨にそぐわない運用
⑴  特別職非常勤職
 本来の制度趣旨にそぐわない運用のひとつは、特別職非常勤職の用い方である。これまで特別職非常勤職のひとつについて定める地方公務員法(以下「地公法」という)3条3項3号は規定ぶりがやや甘く(後掲)、立法者は、本来、本職を別に有しつつ専門家として自治体にサービスを提供する「先生」的な人を予定していたはずなのに、同号は、事務補助職員、保育士を含め、本来、自治体の通常の官僚機構に属するはずの職員の任用の根拠としても融通無下に用いられてきた。この結果、課の中枢にいる常勤職員は一般職として守秘義務を負うのに、その部下である事務補助職員は特別職であるため、地公法上の守秘義務及びその罰則を負わないという不都合な事態もあった(地公法4条)。同じ保育所の常勤の保育士と嘱託保育士とでも、服務の規律が違うことになる。そもそも、地公法は、職員を一般職と特別職に大別し、官僚機構を形成する職員は「一般職」といわれ、政治的行為を制限するとともに、政治的変革による不安定にさらされることのないよう、身分の保障をしている。一般職は、政党の結成のように、政権奪取を目的とする行為であって、政治的変革による影響と遮断されている一般職の属性とは相いれない行為や、その自治体の区域内において選挙運動に参画するような行為は制限される(地公法36条)。このほか、一般職には、服務の宣誓、法令及び上司の職務上の命令に従う義務、信用失墜行為の禁止、職務専念義務、争議行為の禁止、営利企業等の従事制限などの服務が定められている。特別職非常勤職として任用されるならば、常勤とほぼ同様の執務をしていながら、これらの地公法の服務規律を受けることがない。

⑵ 臨時的任用
 本来の制度趣旨にそぐわない運用のもうひとつは、臨時的任用(旧法22条2項〜7項)の甘い運用である。地方公務員の任用は、競争試験又は選考による成績主義が原則であるところ、臨時的任用とは、災害対応その他の緊急的な人材補充の必要等から、正規任用の例外として認められる特例的な任用方法である。つまり、ショートリリーフのはずである。競争試験も選考も不要で、能力について何らの実証もないまま(一本釣りで差し支えない)、かつ、条件付き採用の過程を経ることなく、いきなり、本採用するものである(そのため、宿命的に、その身分は不安定なのであるが)。実態として、一般事務職員、保育士等、教員・教師について、それぞれ、5〜6万人規模の臨時的任用がされているといわれる。臨時的任用がされた上で、再度の任用が繰り返し行われるならば、成績主義の原則が骨抜きになってしまう。

3 臨時・非常勤職を巡る裁判で自治体が敗訴する等の事態
⑴ 自治体のずさんな対応

 自治体の対応がずさんすぎるために敗訴すべくして敗訴した事案として、「中野区非常勤保育士事件」がある。これは、任用期間を1年とし、9〜11回にわたり、非常勤保育士として、再度の任用を繰り返していたが、指定管理者制度を導入するに当たり、非常勤保育士制度を廃止し、新年度に任用しないこととした、会社でいうならば、雇止めの事案である。同区は、年度ごとの任用手続を懈怠(けたい)し、上司が非常勤保育士に対し、「辞めないでください」、「定年はない」等の発言をし、永続的な勤務への期待を抱かせていた。これに対し、保育士から、非常勤職員としての地位の確認と期待権侵害を理由とする慰謝料請求がされた。これに対し、東京高裁(平成19年11月28日判決)は、有期の職員に再任を請求する権利はないとしつつも、解雇権濫用の法理を類推すべき程度にまで違法性が強いとして、1年分の報酬額に相当する慰謝料の支払いを命じた。自治体が、人材確保を優先するあまり、有期の任用であることに伴う必要な規律を失念したというものであろう。

⑵ 時代先取り型事案
 時代先取り型の事案とは、非常勤職員に対し退職手当や期末手当等の支払いをしたところ、地方自治法に違反するものであるとして住民訴訟が提起された複数の事案である。「東村山市非常勤嘱託職員退職手当支給損害賠償請求事件」や、「枚方市非常勤職員退職手当・期末手当支給損害賠償請求事件」等である。前者において、裁判所は、対象となった任用期間が更新され3年以上在職することとなった非常勤嘱託職員は、勤務時間において常勤職員よりも短いものの、その職務内容が常勤職員と同様であるとして、形式ではなく、実質で判断して、これを地方自治法204条1項の「常勤の職員」に該当するものとして、退職手当の支給を適法とした(東京地裁平成19年12月7日判決)。後者は、退職手当・期末手当の支給が可能である同項の常勤の職員とは、本人・家族の生活の糧を得るための主要な手段と評価し得るような職務に従事する職員と解釈した上で、同市において「非常勤職員」と呼称されてきてはいるが、常勤職員と同様の業務に従事し、常勤職員の週勤務時間の4分の3を超えるような勤務時間を有する本事案の職員は、同項の「常勤の職員」に該当すると位置付けた(大阪高裁平成22年9月17日判決)。これらは、非常勤職員であっても常勤と(ほぼ)同様の仕事に従事する職員についてできる限り正当な処遇をしようとしていた自治体に対する裁判所の応答であろう。

4 給付の格差、そして同一労働同一賃金の原則
 これまで、地方自治法上、常勤職員には給料、諸手当、旅費(同法204条)が、非常勤職員には報酬、費用弁償(同法203条の2)が支給されると規定され、非常勤職員には期末手当も支給することが許されなかった。専門家が本業を持ちつつ、専門性を生かしたサービスを自治体に切り売りする特別職であれば、期末手当や退職手当を支給する必要性はない。しかし、労働者性が高く、常勤職員とほぼ同様の業務に従事していながら、非常勤というだけで期末手当の支給が一切できないというのは不合理である。前記の裁判の流れや、最近の社会の大きな潮流である同一労働同一賃金の原則(正社員と非正規雇用との間の不合理な待遇格差を禁止し、均等待遇や均衡格差を求める原則)は、今回の改正の動機のひとつとなったと考えられる。

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この記事の著者

太田雅幸(弁護士)

1961年生まれ。東京大学法学部卒業後、衆議院法制局に入局。20年にわたり、内閣委員会、地方行政委員会、財務金融委員会、商工委員会、厚生委員会などを担当し、法律案や修正案の作成に携わる。会員契約適正化法案、公職選挙法やNPO法などの改正案、年金改正法案や有事法案の修正案の作成に参画。この間、最高裁判所司法研修所で司法修習(49期)。2005年11月退職し、弁護士登録。東京都在住。

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