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2019.01.15 政策研究

市民フリースピーチ制度で自治を再生 ─犬山市議会の取組み─

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地方自治ジャーナリスト 相川俊英

縮まらない住民と議会の距離

 地方議会への不信や不満を募らせている住民は数多い。いや、議会の現状に満足している住民は皆無に等しいというべきか。議会や議員が自分たちの声に真摯に耳を傾けていると思えず、その存在意義を疑わざるを得ないと嘆く住民が大多数だ。議員は一体何をしているのかと、冷ややかに見ているのである。そうしたいら立ちの視線を痛いほど感じるようになってか、議会報告会や住民との意見交換会を開催する地方議会が多い。個々の議員が特定の支持者向けに行うものではなく、議会の公式行事として実施するのである。全議員が手分けして各地域に出向き、住民の声を直接聞くものだ。大きく広がっている議会と住民の距離を縮め、民意を反映させるための試みといえる。
 しかし、そうした意図で始められた議会報告会や意見交換会が形骸化してしまうケースも、残念ながら珍しくない。意見交換会が単なる陳情の場と化したり、住民が議会や議員への鬱憤をぶちまけて終わるなど、言いっぱなし聞きっぱなしのガス抜きの場になりがちなのだ。出席する住民が1人、2人と減っていき、いつしか開催すること自体が目的化してしまう。会場で示された住民の意見や指摘への議会側のフォローがきちんとなされないことも多く、住民たちは議会報告会や意見交換会に参加する意義を実感できず、足が遠のいてしまうのだ。
 ところで、議会や議員が議場の外に出て住民の声を直接聞く機会を設けることは今やごく普通のことになったが、なぜか、その逆はない。住民が議場に出向き、全議員の前で意見を表明することなど、日本では到底考えられず、そうした発想すらなかった。議場は特別な場であり、発言できるのは選挙で選ばれた住民の代表である議員に限定されているからだ。議員を選ぶ側の一般住民は、議場内のやりとりを傍聴席で黙って聞くことしかできない。日本では傍聴席から議論に加わることはもちろん、仕切りを越えて議員と同一の空間で意見を述べることなどあり得ない。誰もが、議場内に設けられた議員と住民との壁の存在を当たり前のものとして受け入れている。それほど議員は特別な存在であり、議場も神聖で厳粛な場であると理解されている(議員以外の第三者を議場に呼んで意見を聞く公聴会及び参考人制度があるが、これらは議案の審議のためのもので、住民が自由に自らの意見を述べるものではない)。
 だが、なぜ、住民は議場で自らの意見を表明してはならないのだろうか。それを許容することで何か不都合なことでも生まれるのだろうか。むしろ、住民には選挙で選ばれた議員全員の前で自らの意見を表明する権利があるのではないか。住民の1人ひとりが主権者であるからだ。
 こうした根源的な疑問から発案されたのが、愛知県犬山市議会の「市民フリースピーチ制度」である。一般市民が本会議場で市政全般に関して5分間、自由に発言できるという日本の地方議会初の画期的な取組みだ。2018年2月28日に初めて開催され、その後、第2回目が6月4日、そして9月9日に第3回目が実施された。

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相川俊英(地方自治ジャーナリスト)

この記事の著者

相川俊英(地方自治ジャーナリスト)

地方自治ジャーナリスト。1956年群馬県生まれ。地方自治の取材を四半世紀以上にわたって続ける。2017年3月に長野県飯綱町の寺島前議長を主人公とした著書『地方議会を再生する』(集英社新書)、2018年2月に『清流に殉じた漁協組合長』(コモンズ)を出版した。この他に『奇跡の村 地方は人で再生する』(集英社新書、2015年)『トンデモ地方議員の問題』(ディスカヴァー携書、2014年)など多数。

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