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2018.06.11 政策研究

【セミナーレポート】第2回LGBT自治体議員連盟研修会

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 2018年5月5日・6日、東京都渋谷区の国立オリンピック記念青少年総合センターで、昨年に続き2回目となるLGBT自治体議員連盟研修会が行われました。今回は、テーマを「LGBTを基礎から理解して、議会質問、政策提言に活かせる研修会」として、自治体議員が地元の自治体で実際に政策提言できるような踏み込んだ内容となりました。また、今回は、日本最大のLGBTイベント「TOKYO RAINBOW PRIDE」の開催に合わせて行われました。

 1日目に行われた2つの講座は、自治体議員が実務に活用できる内容でした。

 第1講座は、岡山大学医学部の中塚幹也教授による「トランスジェンダー、性同一性障害の実像と支援」と題して講演を行いました。中塚教授は、医師として性同一性障害の治療に従事するとともに、GDI(性同一性障害)学会理事長として、社会的課題に取り組んできた経験から、行政や学校、職場での対応・支援、生殖医療と家族形成の問題などについて解説しました。

 第2講座は、宝塚大学看護学部の日高康晴教授による「初心者も安心!豊富なデータを基に“説得できる”LGBTの基礎知識」と題して講演を行いました。日高教授は、自治体での豊富な研修経験から、調査結果や研修先で把握した学校現場の状況などをデータに基づいて解説し、特に学校現場での当事者に対する取組みの大切さを主張しました。

 2日目は、第3講座として高岡法科大学法学部の谷口洋幸教授による「全国自治体関連施策調査の結果と学術会議の提言について」と題する講演が行われました。谷口教授は、科研費研究として実施した「全国自治体における性自認・性的志向に関連する施策調査(2016)」について、調査の動機や背景、その結果について解説しました。

 谷口教授は元々、国際法を専門としており、2008年以降の国連自由権規約委員会の勧告とそれに対する日本政府の報告・回答を紹介しました。国連自由権規約委員会の日本審査において「未婚の異性の同棲カップルと同性の同棲カップルが平等に扱われるよう確保すべきである」という勧告を受け、日本政府は公営住宅法の改正による対応を報告しました。しかしながら、その後も国連人権規約委員会から「同性カップルが公営住宅制度から排除され続けている」との指摘を受け、その回答として、日本政府は「法制度上、同性カップルは公営住宅制度から排除されているわけではい」、「いかなる者を公営住宅に入居させるかについては、各地方公共団体の判断に委ねられている」という報告をしています。谷口教授は、自治体の対応が無為無策であるかのようなこうした日本政府の姿勢について、問題意識を持ち今回の調査の動機となっているとしました。

 調査結果は、1,738自治体中811自治体が回答(回収率46.7%)しました。調査結果のひとつとして、性自認や性的指向にについて、条例・計画・指針等の文書における言及の有無についての問いは、条例が「ある」と答えた自治体は27自治体(3.3%)、「ない」と答えた自治体は786自治体(96.7%)、計画が「ある」と答えた自治体は188自治体(23.2%)、「ない」と答えた自治体は623自治体(76.8%)でした(すべての調査結果は下記サイトで閲覧できます)。

 自由回答欄から自治体が抱える困難として見えてきたのは、特に就労に関わるケースについて現場の担当者が困惑すること、自治体として何にどこまで対応すべきかという点、より高い専門知識を持つ部局との連携などが挙げられました。その上で、谷口教授は、解釈ではなく条例や計画等へ文言として明記をすることの重要性や、自治体として支援宣言をするなど原則論を明らかにした上で施策を推進させていくこと、パートナーシップ認定手続の要綱型の可能性を探ること、不要な性別欄を廃止することなど具体的な施策の可能性について言及しました。

 また、日本学術会議の法学委員会における社会と教育におけるLGBTIの権利保障分科会で「性的マイノリティの権利保障をめざして―婚姻・教育・労働を中心に―」という提言が出されたことに触れました。そこでは、根拠法の制定と包括的な法政策、性同一性障害者の性別の取扱いの特例に関する法律(性同一性障害特例法)や個人情報保護法等の関連法律の改正、性の多様性教育を充実させるなどの教育における権利保障、雇用・労働における権利保障を提言しています(提言の内容は下記サイトで閲覧できます)。

 最後に谷口教授は、同性愛者の団体に対し東京都が宿泊施設の利用を拒絶し、原告団体が二審で勝訴した府中青年の家事件・東京高裁判決(1997年)に触れました。この判決の中で「行政当局としては、その職務を行うについて、少数者である同性愛者をも視野に入れた、肌理の細かな配慮が必要であり、同性愛者の権利、利益を十分に擁護することが要請されているものというべきであって、無関心であったり知識がないということは公権力の行使に当たる者として許されないことである。このことは、現在ではもちろん、平成二年当時においても同様である」としたことについて、今から28年前(平成二年)に行政がこうした視野を持って取り組まなければいけないということを明示した意義は大きいと指摘しました。こうした精神的土壌がある日本で、LGBT施策が進んでいくことを期待したいと締めくくりました。
研修会参加者全員で写真撮影研修会参加者全員で写真撮影

 同性パートナーシップ制度が2015年に渋谷区と世田谷区で導入されてから、全国の自治体でも導入の機運が高まっています。「自治体にパートナーシップ制度を求める会」(東京)が中心となり、当事者や有志のメンバーらは、今年5月から6月にかけてそれぞれが住む27自治体で、パートナーシップ制度等の導入を求める請願、陳情、要望書を提出しました。さらに、東京都国立市では、同性愛や性同一性障害などの性的少数者であることを、第三者が勝手に公表することを禁じる全国初の条例(国立市女性と男性及び多様な性の平等参画を推進する条例)が4月1日に施行されました。 こうした動きは、世の中の偏見や差別に対する変革を促していますが、まだまだ自治体等のそれぞれの現場には課題が多く残っています。さらに性の多様性への理解が進むよう、国や自治体の政策が求められます。

【関連サイト】
◆「全国自治体における性自認・性的指向に関連する施策調査(2016(平成 28)年 4月~7月実施)報告書」(2017年8⽉)
http://alpha.shudo-u.ac.jp/~kawaguch/seisaku_chousa.pdf

◆「性的マイノリティの権利保障をめざして―婚姻・教育・労働を中心に―」(平成29年(2017年)9月29日)
日本学術会議 法学委員会 社会と教育におけるLGBTIの権利保障分科会
http://www.scj.go.jp/ja/info/kohyo/pdf/kohyo-23-t251-4.pdf

◆【セミナーレポート】LGBT自治体議員連盟2017夏の研修会(第1回研修会)『議員NAVI』
https://gnv-jg.d1-law.com/article/20170810/9375/

◆鈴木賢「LGBTの権利保障にとっての地方自治体の役割」『議員NAVI』
https://gnv-jg.d1-law.com/article/20171110/10015/

◆東京レインボープライド
https://tokyorainbowpride.com/

 

『議員NAVI』編集部

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