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2018.04.25 議会改革

自治体議員の兼業・請負禁止

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東京大学名誉教授 大森彌

 自治体議員の選挙における立候補者の職業は、会社経営、法人役員、自営、農業、政党役員、ジャーナリスト、主婦、無職など様々である。議員に当選した後も、原則として、当選前の職業を続けることはできる。一般的には、自治体議員には、一般職の職員には禁止されている兼業が許容されているし、一般職の職員のような職務専念の義務は課せられていない。しかし、自治体議員にも兼業が禁止され、違反すれば議員の身分を失う場合がある。そうしたケースが最近2つ起こった。

兼業禁止規定に抵触した最近の2つのケース

〈ケース①〉
 2018年3月7日、マスコミは、高知県安芸郡馬路村(人口897人)の議会(定数8)が、同月6日に、村議のE氏(66歳)が行ってきた村への土地賃貸が地方自治法の兼業禁止規定に抵触し、「議員の資格がない」と決定、E氏は失職し、4月に補選が行われる予定という旨を報じた。この報道によると、E氏は、村の総務課長などを歴任、退職後の2011年1月の村議に初当選し、2期目であった。村の職員だった1996年4月から、その所有する水田の土地約550平方メートルを村に年約19万円で貸していた。村は、この土地を観光客向けの臨時駐車場などに利用している。E氏は、村議となった後も、この賃貸借契約を継続しており、金額の多寡に関係なく村との請負は地方自治法に違反するとされた。
 普通の人は、この土地賃貸は村のために役立っているのに、どうして議員失職という重大なことになるのか疑問に思うかもしれない。もし、こういうことになるのであれば、どうして本人も村も、議員になったときに、この兼業(請負関係)を解消しなかったのであろうかといぶかしく思うだろう。村側も、発注者として法律に抵触するような契約を議員と締結することのないよう最小限の注意義務を果たすのが当然といえるからである。

〈ケース②〉
 2018年3月26日、熊本市議会(定数48)が、同月26日、本会議を開き、K議員(59歳、7期目)を地方自治法の兼業禁止規定に抵触し、議員資格がないとする特別委員会報告を全会一致で議決し、K氏は失職した。マスコミの報道によれば、K氏は市と業務委託契約を結んだ市漁協の代表理事を務めている。市が市漁協に支払った2015年度の業務委託料は、K氏が会長だった県内水面漁連を通じた再委託分(115万円)も含めると計約214万円となり、市漁協の全事業収入の6割を超えているという。自治体議員が当該自治体の事業を請け負う法人の役員などに就くことを禁じた地方自治法の兼業禁止規定に抵触すると判断された。K氏は、「再委託は事業の請負には当たらない」などと主張し、県知事に対し不服申立てを行う方針だという。
 このケースでも、市当局は、この業務委託契約をK氏と結ぼうとしたときに、地方自治法の兼業禁止規定に抵触しないかどうか、どうして慎重に検討しなかったのか疑問が残る。

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大森彌(東京大学名誉教授)

この記事の著者

大森彌(東京大学名誉教授)

東京大学名誉教授 1940年生まれ。東京大学大学院修了、法学博士。1984年東京大学教養学部教授、1996年東京大学大学院総合文化研究科教授、同年同研究科長・教養学部長、2000年東京大学定年退官、千葉大学法学部教授、東京大学名誉教授、2005年千葉大学定年退官。地方分権推進委員会専門委員(くらしづくり部会長)、日本行政学会理事長、自治体学会代表運営委員、川崎市行財政改革委員会会長、富山県行政改革推進会議会長代理、都道府県議長会都道府県議会制度研究会座長、内閣府独立行政法人評価委員会委員長等を歴任。社会保障審議会会長(介護給付費分科会会長)、地域活性化センター全国地域リーダー養成塾塾長、NPO地域ケア政策ネットワーク代表理事などを務める。著書に、『人口厳守時代を生き抜く自治体』(第一法規、2017年)、『自治体の長とそれを支える人びと』(第一法規、2016年)、『自治体職員再論』(ぎょうせい、2015年)、『政権交代と自治の潮流』(第一法規、2011年)、『変化に挑戦する自治体』(第一法規、2008年)、『官のシステム』(東京大学出版会、2006年)ほか。

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