東京大学名誉教授 大森彌
「選良」とは、辞書で引くと、例えば、「優れた人物を選び出すこと。またその選ばれた人。特に、代議士をいう」とか「選ばれた優れた人物。特に、国会議員を指す」とある。「選ばれた」→「優れた」→「国会議員」という連結規定となっているが、選挙で選ばれたこととその人物が優れているかどうかの関係は検証を要する。実際の国会議員の所業を見れば、そうではなさそうだといいたくもなる。もっとも、気力・体力・資力・知力の点で優れていなければ選挙での当選はおぼつかないから、選ばれたということは、それなりに優れた人物であるといえなくもないのかもしれない。
「選良」の英訳は「elite(エリート)」であるが、エリートの対語はノンエリート、「一般人」、「ただの人」、「普通の人」であろう。しかし、日常用語では、議員をエリートとはあまりいわないし、まして選良とは呼ばない。選良は死語に近いのではないか。
ところが、自治体議会議員に選良が使われているのである。例えば、日本初の議会基本条例である北海道栗山町議会基本条例(2006年5月制定)では、議員の活動原則を定めた3条に「議員は、議会が言論の府であること及び合議制の機関であることを十分に認識し、議員相互間の自由な討議の推進を重んじなければならない。2 議員は、町政の課題全般について、課題別及び地域別等の町民の意見を的確に把握するとともに、自己の能力を高める不断の研さんによって、町民の選良にふさわしい活動をするものとする。3 議員は、個別的な事案の解決だけでなく、町民全体の福祉の向上を目指して活動しなければならない」(下線筆者)と規定されている。
この2項の条文解説には、「議員が、町政における課題全般について多様な住民の意見を把握するとともに、議員としての資質向上等に努め、選挙で選ばれた議員としてふさわしい活動をすることを規定」とある。この解説では「町民の選良」とは「選挙で選ばれた議員」と同義であるから、条例本文に、わざわざ「選良」という言葉を用いている理由が何かは明らかではない。
この最初の栗山町の条例が参考にされたのであろうか、その後の市町村の議会基本条例には「選良」が出てくる。この「町民の選良にふさわしい活動」は「町民の代表にふさわしい活動」と言い換えられるから、選ばれたということが重視されている。
2006年12月に都道府県としては初めての議会基本条例である三重県議会基本条例には「選良」は出てこないが、政治倫理を規定した24条に「議員は、県民の負託にこたえるため、高い倫理的義務が課せられていることを自覚し、県民の代表として良心と責任感を持って、議員の品位を保持し、識見を養うよう努めなければならない」とあり、県議を選良とみなしているともとれる表現ぶりである。神奈川県議会基本条例では、議員の使命を規定した3条で「議員は、県民の直接選挙によって選ばれた公職として、常に県政の課題を把握し、公益性の見地から、県全体を見据え、県民の多様な意見を県政に反映させることを使命とする」とある。
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