地方自治と議会の今をつかむ、明日につながる

議員NAVI:議員のためのウェブマガジン

『議員NAVI』とは?

検索

2017.10.25 政策研究

災害対策法制と自治体の条例(下)

LINEで送る

大阪経済法科大学法学部教授 藤島光雄

3 箕面市災害時における特別対応に関する条例

 このように、これまでの災害対策法制は、大規模な災害が起こるたびに改正が行われるという後追い的なものであったため、法体系全般の見直しが必要とされている。こうした中、災害救助法2条及び4条2項などの諸規定により都道府県が処理することとされている事務、同法13条2項の規定により市町村が処理することとされている事務は、同法17条の規定により、地方自治法2条9項1号に規定する第1号法定受託事務である(平成11年の地方分権一括法の制定までは、「機関委任事務」であった)。
 いざ大災害が起こったときに想定されている実動部隊は市町村であるにもかかわらず、実際に活動しようとするにも、法的な権限不足や質・量ともに圧倒的に足りない人的パワーが原因で十分な活動が期待できない。このため、自治体自らがその地域特性に応じた災害対策をとる必要に迫られている。もはや「想定外」という言葉で、その責任を回避できない状況下にあるといっていいだろう。
 そうした中、大阪府箕面市がこれまでにない新たな取組みを行っている。そこで、今回は、箕面市災害時における特別対応に関する条例を取り上げる。
(1)箕面市における条例制定の背景・経緯
 現在の倉田哲郎市長は、平成24年2月22日に開催された第1回定例会で、東日本大震災の被災地を訪れた際、長期にわたる支援の必要性を痛感するとともに、「箕面を災害に強いまちにする」との決意を新たにし、「行政ができることは有限である」、「自分の身は自分で守る」という意識を持って、「防災改革の基本方針」を策定し、①市役所内部の防災体制の再編成や機能強化をはじめとして、発災後、救援活動が本格化するまでの3日間をしのぐため、避難所となる小中学校には、最大2万人の市民が避難生活を送れるだけの食料などの備蓄や、人工呼吸器などを使用している市民も利用できる自家発電機の設置などの取組みを加速すること、②「自分の身は自分で守る」ことを前提として、家族の命を守るため、そして大切な財産を守るための自宅の耐震補強、水や食料の備蓄、避難所の場所やルートの確認、家族の集合場所の確認などを行うこと、③地域で備えを準備すること。具体的には、顔の見える関係を構築できる限界範囲である小学校区単位で、日頃から活動している各種団体や自治会を中心に、地域の力で自らの地域を守ることができるよう、日頃から、実践的な防災活動に取り組んでいくこと、大規模災害時において、必要な緊急対策が迅速に実施できるよう、既存のルール(条例や規則)に優先する災害時特別宣言条例(箕面市災害時における特別対応に関する条例)を制定することにより、ひとり暮らしの高齢者や重い障害を持つ人など、災害時、特に迅速な安否確認の必要のある市民について、地区防災委員会を中核とする地域コミュニティの力を借りて、速やかに安否確認を実施できる仕組みを構築し、地域の実情に応じたきめ細やかな地域防災体制を構築していく(17)、と述べている。
 このように倉田市長は、就任以来防災体制の改革に力を入れ、東日本大震災を教訓として、さらに防災体制のレベルアップを目指し、災害時での自助努力と地域の救助活動の重要性を踏まえ、平成23年10月に、「防災改革の基本方針」を策定し、さらに同時期に、「大災害時の救助活動などに、現行の条例規定がネックになることが想定されるのではないか? 有事の際にその条例規定に特別対応できる方法を検討せよ」という指示を職員に出した(18)、という。その後、「理念的な条例でなくあくまでも実践的なものに」、「大災害時には災害対策本部長に権限を集約することや災害対策本部長が宣言したら特別対応がスタートできることを盛り込むように」、さらに加えて条例の大きな二本柱のひとつとなる、「地域住民による迅速な安否確認の仕組みづくり」の追加指示が出されたという。そういう意味では、典型的な首長主導型の条例制定であるといえる(19)
(2)条例制定過程
ア 庁内での検討過程
 市長の指示を受け、防災を所管する市民安全政策課と法制課が中心となり、①大災害時に想定される行政活動のピックアップ、②ネックとなる行政活動の法的根拠の確認、③その対応案、④条例議案化の手順とスケジュール、について検討が行われた。また、条例議案化をオーソライズする場として、通常の政策決定ルートに加え、箕面市の防災改革を推進するために設置された「箕面市防災改革推進本部会議実務者会議」にかけることになったという。
 その後、改革基本方針の策定と特別対応の取組みについて庁内説明会を開催するとともに、全庁に照会を出して各課からの回答を検討・集約し、平成24年1月に特別対応の概要を定め、条例案について1月25日に報道発表を行い、2月議会に議案を上程した(20)
イ 条例の位置付け等
 本条例は、災害時の特別対応を定めるもので、箕面市の防災政策上のツールのひとつにすぎない。この点が行政や住民・事業者等の責務や役割、災害の予防、復旧等の対策を定める総合的な災害対策条例を定めている自治体と異なるとしている(21)
 なお、本条例の制定に併せて「箕面市災害時に係る関係条例の整備に関する条例」を制定し、災害時の掲示場の変更や災害時における行政財産の無償貸付け、公の施設の利用許可の取消し、入管の制限等、関係する15の条例の一部改正を行っている。
(3)条例の概要
ア 条例の構成
 本則19条からなる条例で、条例の構成は以下のとおりである。
 第1条 目的
 第2条 定義
 第3条 適用
 第4条 災害対策事務の優先
 第5条 特別対応の宣言
 第6条 安否確認
 第6条の2 避難支援等のための体制整備等
 第7条 通常事務の休止等
 第8条・第9条 公の施設の休館・使用許可の取消し等
 第10条 契約に係る義務履行の期限延長等
 第11条 処分等の期限延長等
 第12条 市の歳入の納付期限延長等
 第13条 手数料等の還付
 第14条 附属機関への諮問の中止
 第15条 臨時事務所
 第16条 公示の方法
 第17条 災害救助法の適用等
 第18条 委任
 附 則

つづきは、ログイン後に

『議員NAVI』は会員制サービスです。おためし記事の続きはログインしてご覧ください。記事やサイト内のすべてのサービスを利用するためには、会員登録(有料)が必要となります。くわしいご案内は、下記の"『議員NAVI』サービスの詳細を見る"をご覧ください。

この記事の著者

藤島光雄(大阪経済法科大学法学部教授)

Copyright © DAI-ICHI HOKI co.ltd. All Rights Reserved.

印刷する

今日は何の日?

2024年 517

ゾルゲ事件(昭和17年)

式辞あいさつに役立つ 出来事カレンダーはログイン後

議員NAVIお申込み

コンデス案内ページ

Q&Aでわかる 公職選挙法との付き合い方 好評発売中!

〔第3次改訂版〕地方選挙実践マニュアル 好評発売中!

自治体議員活動総覧

全国地方自治体リンク47

ページTOPへ戻る