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2017.10.10 政策研究

災害対策法制と自治体の条例(上)

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大阪経済法科大学法学部教授 藤島光雄

はじめに

 島国である我が国は、その位置、地形、気象などの自然的条件から、これまで多種多様な災害に襲われており、世界有数の自然災害大国と呼ばれている。とりわけ世界で発生する地震の10%は日本で起きているといわれており、その上、世界のわずか0.25%の国土面積を占めるにすぎない小さな国にもかかわらず、世界で起きるマグニチュード6を超える地震に絞ると、20.8%が日本で発生しているという(1)
 さらに首都直下地震や南海トラフ巨大地震が、今後30年以内に発生する確率は70%程度(2)といわれており、大地震に対する備えが急務となっている。
 こうした中、今回は、これまでの我が国の災害対策法制(3)と自治体の災害対策に関する条例について振り返り概観しながら、箕面市災害時における特別対応に関する条例を取り上げる。

1 これまでの災害対策法制と自治体の条例制定

(1)災害対策法制(制度)の始まり
 我が国の災害対策法制の始まりは、明治初期の備荒儲蓄制度まで遡ることができる。
 備荒儲蓄法は、明治13年6月15日に公布され、翌年の1月1日から施行されたが、その目的は「非常ノ凶荒不慮ノ災害ニ罹リタル窮民」に対する「食料小屋掛料農具料種穀料」の支給(生活必需品の支給)と「罹災ノ為メ地租(國税ノ部分ニ限ル)ヲ納ムル能ハサル者」に対する「租額」の「補助」又は「貸與」であり(同法1条)、社会保障政策の一環として実施された。この法律によって、毎年国からの補助金と地方が徴収する税を財源として積み立てておき、災害の被災者に対する生活必需品の支給又は罹災によって納税困難な者に対する税額の補助・貸与を行う仕組みが形成された。これは保険の一形態ともいえ、これに類似した仕組みは、現行の基金制度においても見ることができ、我が国基金制度の始まりともいわれている(4)
 その後、明治23年以降、大規模な風水害が発生し基金が減少したため、これに代わって、明治32年に罹災救助基金法が制定され、同年7月から施行された。同法は、基金からの支出額が現在高の一定割合を超え、かつ、最少基金額以下となった場合には国庫から補助することを規定し(3条及び7条)、府県は「罹災救助基金貯蓄ノ為直接国税ノ付加税ヲ徴収スル」(4条)ことができ、国税に対する付加税の形で財源の確保が行われた。罹災救助基金法によって自治体がそれぞれに基金を積むことができ、機動的な支出が認められ、現在の基金制度の運用とほとんど変わらないものと考えられている。なお、罹災救助基金法も当初は施行期間が20年間の時限立法とされた(附則21条)ものの、数次にわたる改正を経て延長が行われ、災害救助法(昭和22年法律118号)が施行されるまでの間、罹災救助基金によって災害の被災者の支援が行われた(5)
(2)災害救助法の制定(災害救助条例の時代)
 罹災救助基金法は、その名が示すとおり基金に関する法律で、救助活動全般にわたる規定が設けられていなかったこと、支給基準が地方ごとで異なり地域格差があったことに加え、終戦後の物価高騰で基金のみでは不足すること等の問題があり、昭和21年の南海大震災を契機に、これに代わるものとして、昭和22年に「災害救助法」が制定された(6)
 災害救助法は、「災害に際して、国が地方公共団体、日本赤十字社その他の団体及び国民の協力の下に、応急的に、必要な救助を行い、被災者の保護と社会の秩序の保全を図ることを目的」(1条)として制定され、昭和22年10月20日から施行されている。
 同法による救助は、都道府県知事が行い、必要な場合は、救助の実施に関する事務の一部を市町村長が行うことができる。また、災害により市町村の人口に応じた一定数以上の住家の滅失がある場合等(例、人口5,000人未満なら住家が滅失した世帯の数が30以上)(7)に行われる。
 この時期になってようやく、昭和35年に福岡県中間市が、「災害救助法の適用を受けないが、法にいう災害にかかった者に対し応急的に必要な救助を行い、災害にかかった者の保護と、社会秩序の保全を図ることを目的」(1条)として、救助物資(被服、炊事用具、食器等)及び見舞金に関する中間市災害救助条例を制定し、その翌年には、福井県鯖江市も同様の鯖江市罹災救助条例を制定している。
 府県レベルでは、新潟県が昭和39年に、「災害救助法が適用されない災害に際して、市町村が応急的に必要な救助を行なう場合に、県がその費用の一部を負担することによつて、被災者の保護を図ることを目的」(1条)として、新潟県災害救助条例を制定している(表参照)。
 このように、この時期の条例は、災害救助法の規定が適用されない災害等に対して、災害救助法を補完しカバーする形で自治体独自の条例として制定されており、条例に規定する救助の内容としては、まだまだ不十分なものであった。
(3)災害対策基本法の制定
 その後、昭和34年の伊勢湾台風を機に、昭和36年に我が国の災害対策関係法律の一般法である災害対策基本法が制定された。この法律の制定以前は、災害のつど関連法律が制定され、他法令との整合性について十分考慮されないままに作用していたため、防災行政は十分な効果を上げることができなかった。
 災害対策基本法は、このような防災体制の不備を改め、災害対策全体を体系化し、総合的かつ計画的な防災行政の整備及び推進を図ることを目的として制定された。この法律は、「国土並びに国民の生命、身体及び財産を災害から保護するため、防災に関し、基本理念を定め、国、地方公共団体及びその他の公共機関を通じて必要な体制を確立し、責任の所在を明確にするとともに、防災計画の作成、災害予防、災害応急対策、災害復旧及び防災に関する財政金融措置その他必要な災害対策の基本を定めることにより、総合的かつ計画的な防災行政の整備及び推進を図り、もつて社会の秩序の維持と公共の福祉の確保に資することを目的」(1条)として、様々な規定を置いている(8)
 この時期の条例として、吉岡町農業災害対策特別措置条例(昭和42年、群馬県)では、「暴風雨、豪雨、地震、降雪、高温、低温、降霜、降ひょう、竜巻、突風等の天災(以下「災害」という。)によって損失を受けた農業者又は農業者の組織する団体に対し、被害農作物の樹草勢回復、代替作付け等に要する費用の助成措置並びに農業経営に必要な資金及び被害農業用施設の復旧に必要な資金の融通を円滑にする措置(以下「助成措置等」という。)を講じ、もって農業生産力の維持と農業経営の安定を図ることを目的」(1条)として、農業者等に対する災害対策の内容が、これまでと異なり格段に充実した内容となっている。
 また、新発田市災害救助条例(昭和43年、新潟県)も、これ以前に制定された自治体の災害救助条例と条例名は同じではあるが、従前の条例よりも救助の種類・内容ともに増加しており、この時期以降に制定された自治体の条例は、それ以前に比して救助の種類等が拡充されている(9)
(4)阪神・淡路大震災を受けての災害対策基本法の改正
 平成7年の阪神・淡路大震災は、我が国の災害対策上、多くの教訓を残した。災害対策法制上も、国の緊急即応体制、現場における自衛官の権限、自治体の広域連携、ボランティア、海外からの支援への対応、高齢者・障害者等に対する措置、被害情報の収集・伝達等の問題点が指摘された。
 これを受け、災害対策基本法の一部改正、地震防災対策特別措置法の制定、消防組織法の一部改正、建築物の耐震改修の促進に関する法律の制定、大規模地震対策特別措置法の一部改正、密集市街地における防災街区の整備の促進に関する法律の制定など、我が国の防災体制全般にわたる見直しが行われた。
 災害対策基本法の一部改正に関しては、災害時における交通規制、放置車両の移動等に関する措置等の改正(平成7年6月16日公布、同年9月1日施行)、防災問題懇談会の提言等を踏まえ、国及び地方公共団体の防災体制の強化、新たな防災上の課題への対応等についての改正(平成7年12月8日公布、一部を除き同日施行)と、二度にわたる大幅な改正が行われ、災害対策の強化が図られた(10)
 この時期の条例は、地震対策を主眼に置いており、多くの自治体で災害対策のための多様な条例が制定され、量的・質的にも格段に充実してきている(表参照)。また、これ以降の条例には、「自助」、「共助」、「ボランティア」などに関する規定が登場するとともに、水害や山岳遭難防止に特化したものや原発に関するものなど、自治体の地域特性を踏まえた多種多様な条例が制定されることとなる。

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この記事の著者

藤島光雄(大阪経済法科大学法学部教授)

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