議会事務局実務研究会 林敏之
自治体議員の皆様、こんにちは。今回は議員が提案する政策条例の制定手法についてお届けします。実際に条例をつくるに当たり、どのように進めていけばよいのか、お悩みの解決の一助になれば幸いです。
どうすれば可決される条例案を出せるの?
全国市議会議長会によると平成27年中の議員提出の政策条例案は65市で95件あり、原案可決が42件、否決が46件でした。いわゆる野党会派が首長の施策に反する条例案を提出することが多いため、思ったより否決の数が多いかもしれません。否決される可能性が高い条例案であっても、毎定例会に提出することにより会派の姿勢を示すということは理解できますが、せっかく苦労して条例案を提出するのですから、できれば可決されるようにしたいものです。
では、可決される条例案づくりについてですが、複数の会派の議員が提出者になっている条例案は可決される可能性が高いといえます。例えば、和歌山市議会では全会派の代表者からなる政策条例策定協議会を立ち上げ、平成25年2月に「和歌山市みんなでとりくむ災害対策基本条例」を、平成26年12月に「和歌山市みんなでとりくむ生き活き健康づくり条例」を制定しています。可決される条例案づくりには議会としてのまとまりが不可欠です。各議会で政策条例の研究会などにより提案されている条例案は、その多くが可決・制定されています。議会による継続的な条例案提出を念頭に入れるならば、そのような「場」の設定が必要です。議会がそんな雰囲気になっていないときはどうすればよいのでしょうか。もしも議会基本条例が制定されているならば、政策提案を行うという条文を盾に場をつくってしまう方法が手っ取り早いかと思います。あるいは議員研修として、議会改革に精通した講師にお願いし、講演の中でうまく誘導してもらうのも一定の効果が見込めると思います。
慣れない条例案づくりは、最初は難航するものです。そこで、議員提出議案のサポート経験がある有識者を交えて行うと、比較的スムーズに案づくりが進みます。その後、多くの議会ではパブリックコメントを経て条例案を提出しています。議会におけるパブリックコメントについては「市民の代表としての議員の意見が市民の声なのだから、必要ない」との否定的な意見もありますが、市民との意見交換を行って内容を整理し、さらに議会で審議した方が、より密度の濃い議論ができるのではないかと考えます。
うちの議会ではつくれないと思うのですが?
議員提出の政策条例を制定したことがない議会では、そのハードルは富士山よりも高く、着地点が全く見えないと思います。いざ、条例案の検討を始めても、同じ会派内においてすら意見がなかなかまとまらず、前に進まなくなることはしょっちゅうです。それまで条例案なんてつくらなくても長く務めてきた議員から見ると、わざわざ多大な労力を用いてそんなことをする必要性を感じられないかもしれません。そのため、いわゆる長老議員が強力なストッパーとなって立ちはだかるという図式が往々にして見られます。ある議会では、全会派の有志からなる議会改革の検討会が立ち上がり、熱心に検討した結果をまとめた改革案を議長に提出したのですが、検討会のメンバーではない長老議員から「待った」がかかりお蔵入りとなってしまいました。検討会メンバーの落胆ぶりは想像に難くありません。なお、後日談としてその数年後、待ったをかけた長老議員を委員長とする議会改革の特別委員会が立ち上がり、検討会のメンバーが提出した改革案を多く含んだ議会基本条例が成立するという結末となったようです。いうまでもなく議会というのは議員の集合体ですので、各議員の意向を忖度(そんたく)し、タイミングを計るという政治的なセンスを発揮する必要が出てきます。
タイミングを計る方法としては、先に述べたように議員研修会で政策条例案づくりにたけた有識者に講師として来てもらう方法が一番だと思います。実際に条例案づくりをしている人の話は説得力があり、また自分たちにもできるような気にさせてもらえます。流れに乗る方法としては、議会基本条例を制定して気分がよくなっているときや、流行の条例に乗っかるのもひとつの方法です。流行の条例は参考にできる条文が多くあるため、イメージがつきやすく取り組みやすいと思います。一度条例案づくりを経験すると、富士山のように見えたハードルがケーブルカーで登れる高尾山のように見えてくるから不思議です。これは議員だけではなくフォローする事務局職員にもいえることですが。
そもそも議会事務局が支えられるの?
議会基本条例では議会事務局の政策法務機能がうたわれており、議員提出の条例案づくりにおけるサポート役として、議会事務局が期待されています。しかし、実際はどうでしょうか? 政令市や中核市などの大きな議会では政策法務担当の課や係が置かれていますが、その他多くの市区町村では名ばかりの担当者がいればいい方です。議会基本条例の制定により、苦肉の策として執行部の法制担当者を議会事務局と兼任させている自治体もあります。しかし担当者からすれば、議会提出の条例案と執行部提出のものとの間に挟まれて、ジキルとハイドのようになってしまい、なかなか苦しいとの話があります。本当に議員提出の条例案を目指すのであれば、現実的にはなかなか厳しいようです。
また、法制事務の経験者を議会事務局に配置するように配慮している自治体もありますが、職員数が削減されていく中で、日々の調査事務などに忙殺されてしまっている状況も見受けられます。そのため、議員提出の政策条例案づくりには議会事務局の体制づくりも必要となります。局長が逃げ腰で担当者に丸投げするような体制では、うまくいくものもいかなくなります。局長を抱き込みながら、足りない人員は専門的知見を活用することで、十分に先が見えてきます。
なお、議会事務局の法制部門の強化については、どこの議会でも頭を悩ませる問題です。平成23年の地方自治法の改正で議会事務局の共同設置が可能になりました。そこで問題解決策のひとつとして、法制部門のみ近隣の議会と共同設置するという方法があります。もちろん「提案した議員と緊密なやり取りが必要になるため、その部分を外に出すのは困難ではないか」などの慎重な意見もあります。しかし、実際に法制事務も行っていた元職員としては、どんな形であれ、すぐに問合せをしたり意見を求めたりすることができる存在があると、大変心強いものです。共同設置とまではいかなくても、法制事務を行う上で寄り添ってくれる有識者がいれば、自信を持って議員提出の政策条例のサポートができるのではないでしょうか。近年増加している大学とのパートナーシップ協定締結の動きなどは、その解決策のひとつなのではないでしょうか。
議会事務局職員の本音……
多くの議会事務局では調査・法制担当者は1人~数人程度であり、議員提案の政策条例のサポートとなると、通常業務にそのまま上乗せになってしまいます。また、管理職の多くも法制業務については不得手な場合が多く、担当者任せにしてしまいがちなため、担当者が孤立してしまい、かなりの負担を強いられることは事実です。それゆえ、議員提出の条例案がない方が、職員も正直楽なのです。ちなみに私が事務局にいた頃は、いわゆる野党会派から、定例会ごとに一部改正条例案や新規条例案が提出されていたため、内容を精査するために条例案に関係する部署を飛び回りました。法制の経験がなかったので初めは苦労しましたが、事務局を後にするときには、多少は見る目ができたのかなと感じています。条例案の提出は事務局職員も育てます、間違いなく。
いかがでしたか? 議員の皆さんの中には「今の議会構成ではとても無理だよ」と感じた方もいらっしゃると思います。唐突に条例づくりを打ち上げても、なかなか賛同は得られないかもしれません。タイミングを見据えて「ここぞ」というところで動けることができれば幸いです。さて、次回は会議原則について取り上げたいと思います。
