山梨学院大学大学院社会科学研究科長・法学部教授 江藤俊昭
今回の論点:二元的代表制の意義を確認しよう(再録)
地方政治の台頭の現れの1つが、首長主導型民主主義である。もう1つは、本連載で主題的に検討する、討議を重視した二元的代表制=機関競争主義である。
現在の地方自治制度では多様な地域経営手法が想定されており、まさに、どのような地域経営手法を選択するかが問われている。換言すれば、現行地方自治制度は自動的に「ある1つの地域経営手法」を定めているわけではない。自治体による主体的な選択が不可欠であり、その自覚が必要である。この「選択」を考える場合、様々な切り口が考えられる。ここでは、今日流布している二元代表制という用語を手がかりに、地域経営手法の選択の意味を確認したい。
なお、本連載では二元的代表制=機関競争主義という用語を用いている。その際の「的」は、議院内閣制の要素が挿入されていることにとどまらず、政策過程全体にわたって議会と首長等が政策競争すること、また政策過程全体にわたって住民が政治行政に参加(統制)することが含まれていること(地方政治の論理に由来)を強調したいためである。
以下、2回に分けて検討する。
① 二元(的)代表制の広がり
② 二元的代表制=機関競争主義の意味
③ 「二元代表制」の強調の問題点(対立の激化、住民参加の軽視)〔以上前号〕
④ 地方政府改革論(一元代表制の提案)の現状と課題〔本号〕
4 もう一歩の先に:地方政府形態としての二元的代表制の選択
(1)二元(的)代表制の限界か
「二元的代表制」であれ「二元代表制」であれ、両機関が競争(対立)する地方政府形態に対しては疑問が提起されている(後 2007)(1)。議会と首長の切磋琢磨(せっさたくま)は理想だが、現実にはそうなっていない。議会改革論の問題設定自体に問題があるという提起である。つまり、「いわゆる二元代表制〔二元的代表制も――引用者注〕という自治体の現在の政府形態を前提にして、首長主導の計画が進み始めたのだから、議会も本来の二元代表制に相応しい議会へと自己改革すべきだという問題設定自体の妥当性を問い直す必要があるのではないか」、さらに積極的には「日本において二元代表制という政府形態そのものがうまく機能しえない構造的理由があるのではないか」という問題提起である。
二元代表制の矛盾は、中央集権制の時期には「表面化せずに済んでいた」。地方分権によって、地方政府としての性格を強め、首長のリーダーシップが発揮されるようになると矛盾が顕在化し始めたという指摘である。そもそも実際には、二元代表制は作動していない。議会多数派と首長との切磋琢磨は作動していない。多数派と首長との政治的ポリシーが一致しているときは「相乗り」状況が生じ、他方で不一致の場合は不毛な対立が生じ、結局二元(的)代表制は作動しない。
そこで解決の方向が提示される。理想として、二元(的)代表制に代えて「一元代表制」が提示されている。「二元代表制を不動の前提にしたうえで議会改革の方向を考えるというのでは決定的に不十分であって、自治体の再生をさらに促進するためには、二元代表制以外の政府形態(何らかの形の議会一元制)への転換も本格的に検討の俎上に載せて議論すべき」という提起である。現行の法体系(特に憲法)下で、一元代表制への改革は容易ではなく、現行では議会は監視の役割に特化するべきだという複眼的な提示もある。二元代表制の理想は、ごく一部の自治体でしか可能ではなく、「高度なモデルを目指して二元代表制のもとでの改革を追求していくというのは現実的な選択とはいえない」。そこで、監視機能が重視される。現行法体系での監視機能重視は、現状との乖離(かいり)と議会の予算調製・提案権の不在を踏まえて、住民を意識した監視機能を中心とすることが「現実的な可能性」であると結論付けている。