■お悩み(形だけ導入は反対さん 市議会事務局職員20代)
うちの市議会の議会改革協議会でも通年議会を導入する方向性が決まりました。議員も事務局長も「形だけ通年議会に移行するだけだから」とあまり重大に考えていない節があります。ただ、会議規則などそのままでいいのか気になります。一番気になるのが「一事不再議」との関係です。例えば会議規則に「第○条 議会で議決された事件については、同一議会期間中は再び提出することができない」とあるのですが、これはこのままでよいのでしょうか?
皆さんも一緒に考えてみましょう!
回答案
A 一事不再議は法律上定められたものではなく、たとえ会議規則にその一部が定められていたとしても、その違反は問題とならない。そのようなルールなので、そのままでよい。
B 会期が長くなったこととの関係でどのような形で扱うのかは一度、議会で検討した方がよい。
C 一事不再議はその会期中は蒸し返しをしないということである。したがって、会期が長くなっても、会期が存在する以上、現在のままで運用すべきある。
お悩みへのアプローチ
「議会基本条例もつくったし、次は通年議会でもやろうか?」。もしかしたら、形だけ導入は反対さんの議会もそんな議会のひとつかもしれません。いわゆる通年議会には、大きく次の2タイプあります。
●定例会1回タイプ
毎年、定例会の回数を1回とし、会期を通年とするもの。
●通年の会期タイプ
改正された地方自治法102条の2第1項に基づき条例で定める日から翌年のその日の前日までを会期とするもの。
ご質問者の議会ではどちらの制度を導入しようとしているか分かりませんが、どちらにしても、「会期」は依然として存在します。そんなこともあるからでしょう。「形だけ通年議会に移行するだけだから」と通年議会に伴う議会ルールの手直しを最小限に見積る議会も多いものです。一事不再議についてもそうかもしれません。
多くの議会で「議会で議決された事件については、同一会期中は再び提出することができない」(標準市議会会議規則15条)といった規定が会議規則にあるでしょうが、以下のようなやりとりで「措置の必要なし」と判断する議会もあるかもしれません。
事務局長「会期があるのだから、会議規則の一事不再議の規定はそのままでいいよな」
事務局職員「ですよね~」
「そのルール、本当に会期制と関係があるのか?」。今回は「会期制との関係で動かせない」と信じ込まれているルールの意外な「素顔」に焦点を当ててみたいと思います。その代表が「一事不再議」です。同じ案件を何度も審議するのはそれこそ時間の無駄です。一事不再議は、主に議事能率の上から守られるべきとされている原則といえます。ただ、一事不再議の原則は、規定があるから生じるのではなく「会議の法則としての一事不再議の原則は、理論上当然に存在するものといわねばならない」(鈴木隆夫『国会運営の理論』聯合出版社、1953年、152頁)ことを確認しなければなりません。簡単にいえば、規定があろうがなかろうが、会議体として支配を受けている原則というわけです。そして、議事能率の上から存在するのですから、「会期」を基準とすることにも絶対的な意味はありません。西澤哲四郎『地方議会の運営Ⅱ』(教育出版、1970年)には次のようにあります。どうやら、事情の変更がないであろうと思われる同一会期を「一応の基準」と示したにすぎないようです。
原則として同一会期中においてのみのことであるのは、政治の流動性からくる当然の帰結といえよう。(同書133・134頁)
ということは、たとえ会議規則に規定があろうとも、同一会期内において「事情の変更」がある場合には、当然、一事不再議の原則は及びません。その反面、会議規則に規定されていようがいまいが一事不再議の原則は存在します。さらにいえば、会期内において一事不再議が図られるのではなく、一事不再議を原則として貫くことができそうな期間として一応想定されているのが同一会期内ということなのです。
「本当に大切なものはね、目に見えないんだよ」。サン=テグジュペリの『星の王子さま』という物語の中にはこんな言葉が出てきます。一事不再議は議会にとって大切な会議原則のひとつです。本当は目に見えないものなのです。その一部を会議規則で何とか目に見える形にしたのですが、舌足らずさがつきまといます。標準市議会会議規則15条が他の条文と違って「参考」と記載されている理由もそこにあるのでしょう。
では、通年議会になった場合にはどう対応すべきでしょうか? これまでは、国会の常会が一番長い会期といえますが、原則として150日(1回延長可能)です。通年議会の場合、これが1年ということになるのですから「事情の変更」をどう織り込むか議会が検討しなくてはなりません。
回答へのアプローチ
さて、これを踏まえて回答案を考えてみましょう。これまで述べてきたことからCが誤りであることは明らかです。Aは少し迷ったかもしれません。なるほど、一事不再議は法律で規定されたものではありません。また、会議規則に関連条文はあっても議案についてしか触れられていません。しかも、事情の変更があった場合には、この規定に反することも当然認められるわけです。ただ、だから「その違反は問題とならない」というのは大きな誤りです。「大切なものは目に見えない」ことの理解が足りません。通年議会の導入の際には、議会においては一事不再議の意味を十分議論して、原則的な取扱いを決めるべきでしょう。たとえ原則を決めても、いろいろな事例に悩ませられることになるでしょうが、そうした蓄積が議会の歴史(先例)になっていきます。ともかく、ここではBを正解としようと思います。
実務の輝き
通年議会を導入すると「会期」がこれまで以上に長くなるのですから、「会期中の一事不再議」という原則論が維持しにくくなります。そのため議論の方向性としては3つあります。①原則論を放棄する、②原則論を維持しつつ例外(事情の変更)を明記する、③受け入れやすい新たな原則に変更する、の3つです。成熟した議会で「事情の変更」の先例などが蓄積している議会なら①がいいでしょう。その場合、会議規則から一事不再議に関する規定を削ることになります。ただ、残念ながらそこまで到達している自治体議会は少ないことでしょう。現実的には②か③の方法によることになりそうです。いずれも「定例会1回タイプ」の通年議会での例ですが、②の例として滋賀県議会の例を、③の例としては相模原市議会の例を紹介しておきましょう。滋賀県議会は、通年議会制を導入するに当たって、ただし書を新たに加えました。
○滋賀県議会会議規則
(一事不再議)
第15条 議会で議決された事件については、同一会期中は、再び提出することができない。ただし、事情の変更があつたと議会が認めるときは、この限りでない。
○相模原市議会会議規則
(一事不再議)
第14条 議会で議決された事件については、同一会期中(臨時会に限る。)又は同一会議期間中は再び提出することができない。
提言
会期との関係で検討が必要となる他の会議規則の規定に「発言の取消し又は訂正」があります。「その会期中に限り、議会の許可を得て発言を取り消し又は議長の許可を得て発言の訂正をすることができる」とある議会も多いでしょうが、これは、一事不再議とは関係なく「会議録の配布」との関係で「会期中に限り」となっているようです。
一般に配布される会議録は発言の取消しなどが反映されたものとなります。そして、多くの議会が会期の終わるのを待ってこの会議録を配布します。通年議会を導入する際には、会議録の配布をどのようにするかという問題と併せて、いつまで発言の取消しなどを認めるか検討されることになるでしょう。
いずれにしても、通年議会導入に伴うルールの見直しは、事務局職員も手助けしながら議会での検討を深めていくべき問題かもしれません。「大切なことは目に見えない」のです。「形だけ通年議会に移行するだけだから」などと安易に心の目までふさいでほしくはありません。
