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2015.03.10 議会運営

第19回 通年議会で一事不再議はどう扱うべきか

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■お悩み(形だけ導入は反対さん 市議会事務局職員20代)
 うちの市議会の議会改革協議会でも通年議会を導入する方向性が決まりました。議員も事務局長も「形だけ通年議会に移行するだけだから」とあまり重大に考えていない節があります。ただ、会議規則などそのままでいいのか気になります。一番気になるのが「一事不再議」との関係です。例えば会議規則に「第○条 議会で議決された事件については、同一議会期間中は再び提出することができない」とあるのですが、これはこのままでよいのでしょうか?

皆さんも一緒に考えてみましょう!

回答案
A 一事不再議は法律上定められたものではなく、たとえ会議規則にその一部が定められていたとしても、その違反は問題とならない。そのようなルールなので、そのままでよい。
B 会期が長くなったこととの関係でどのような形で扱うのかは一度、議会で検討した方がよい。
C 一事不再議はその会期中は蒸し返しをしないということである。したがって、会期が長くなっても、会期が存在する以上、現在のままで運用すべきある。

お悩みへのアプローチ

 「議会基本条例もつくったし、次は通年議会でもやろうか?」。もしかしたら、形だけ導入は反対さんの議会もそんな議会のひとつかもしれません。いわゆる通年議会には、大きく次の2タイプあります。
●定例会1回タイプ
 毎年、定例会の回数を1回とし、会期を通年とするもの。
●通年の会期タイプ
 改正された地方自治法102条の2第1項に基づき条例で定める日から翌年のその日の前日までを会期とするもの。
 ご質問者の議会ではどちらの制度を導入しようとしているか分かりませんが、どちらにしても、「会期」は依然として存在します。そんなこともあるからでしょう。「形だけ通年議会に移行するだけだから」と通年議会に伴う議会ルールの手直しを最小限に見積る議会も多いものです。一事不再議についてもそうかもしれません。
 多くの議会で「議会で議決された事件については、同一会期中は再び提出することができない」(標準市議会会議規則15条)といった規定が会議規則にあるでしょうが、以下のようなやりとりで「措置の必要なし」と判断する議会もあるかもしれません。

事務局長「会期があるのだから、会議規則の一事不再議の規定はそのままでいいよな」
事務局職員「ですよね~」

 「そのルール、本当に会期制と関係があるのか?」。今回は「会期制との関係で動かせない」と信じ込まれているルールの意外な「素顔」に焦点を当ててみたいと思います。その代表が「一事不再議」です。同じ案件を何度も審議するのはそれこそ時間の無駄です。一事不再議は、主に議事能率の上から守られるべきとされている原則といえます。ただ、一事不再議の原則は、規定があるから生じるのではなく「会議の法則としての一事不再議の原則は、理論上当然に存在するものといわねばならない」(鈴木隆夫『国会運営の理論』聯合出版社、1953年、152頁)ことを確認しなければなりません。簡単にいえば、規定があろうがなかろうが、会議体として支配を受けている原則というわけです。そして、議事能率の上から存在するのですから、「会期」を基準とすることにも絶対的な意味はありません。西澤哲四郎『地方議会の運営Ⅱ』(教育出版、1970年)には次のようにあります。どうやら、事情の変更がないであろうと思われる同一会期を「一応の基準」と示したにすぎないようです。

 原則として同一会期中においてのみのことであるのは、政治の流動性からくる当然の帰結といえよう。(同書133・134頁)

 ということは、たとえ会議規則に規定があろうとも、同一会期内において「事情の変更」がある場合には、当然、一事不再議の原則は及びません。その反面、会議規則に規定されていようがいまいが一事不再議の原則は存在します。さらにいえば、会期内において一事不再議が図られるのではなく、一事不再議を原則として貫くことができそうな期間として一応想定されているのが同一会期内ということなのです。
 「本当に大切なものはね、目に見えないんだよ」。サン=テグジュペリの『星の王子さま』という物語の中にはこんな言葉が出てきます。一事不再議は議会にとって大切な会議原則のひとつです。本当は目に見えないものなのです。その一部を会議規則で何とか目に見える形にしたのですが、舌足らずさがつきまといます。標準市議会会議規則15条が他の条文と違って「参考」と記載されている理由もそこにあるのでしょう。
 では、通年議会になった場合にはどう対応すべきでしょうか? これまでは、国会の常会が一番長い会期といえますが、原則として150日(1回延長可能)です。通年議会の場合、これが1年ということになるのですから「事情の変更」をどう織り込むか議会が検討しなくてはなりません。

議会事務局実務研究会

この記事の著者

議会事務局実務研究会

議会事務局実務研究会 2011年6月、元衆議院法制局参事の吉田利宏氏と町田市議会事務局調査法制係担当係長(当時)の香川純一氏の呼びかけにより発足。自治体議会事務局、国会事務局・法制局、国会図書館の職員及び経験者によって構成された実務家集団。会員が日常抱えている小さな疑問や課題を持ち寄り、それらについてオフサイトミーティング形式で意見交換、情報交換をしながら、実務の視点に立った研究実績を、論考、講演など各種のメディアで展開。全国の議会事務局のアドバイザー的存在として実績を重ねている。

吉田利宏 よしだ・としひろ
「議会事務局実務研究会」呼びかけ人・元衆議院法制局参事
1963年神戸市生まれ。早稲田大学法学部卒業後、衆議院法制局に入局。15年にわたり法律案や修正案の作成に携わる。現在、大学講師などの傍ら法令に関する書籍などの執筆、監修、講演活動を展開。著書『ビジネスマンのための法令体質改善ブック』(第一法規、2008年)、『元法制局キャリアが教える 法律を読む技術・学ぶ技術〈第2版〉』(ダイヤモンド社、2007年)、『元法制局キャリアが教える 法律を読むセンスの磨き方・伸ばし方 』(ダイヤモンド社、2014年)、『新法令用語の常識』(日本評論社、2014年)ほか。

米津孝成 よねづ・たかのり
議会事務局実務研究会会員、かながわ政策法務研究会会員、千葉県市川市職員。
主な執筆として「議会中継の著作権とその管理について」(議員NAVI2017年8月10日号)、 「生活保護に係る争訟とその事務の課題等について」(政策法務ファシリテータ Vol.59(2018年))、 「自治体訟務イロハのイ」(2016年?2017年)、「自治体法務の事件簿」(2017年~2018年) (いずれも自治体法務NAVI e-Reiki CLUB)など。

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