北海学園大学法学部教授 秦 博美
1 はじめに
今回は、北海道いじめの防止等に関する条例(平成26年北海道条例8号。以下「条例」という)を取り上げる。人口密度が全国平均の5分の1である北海道の特筆すべき教育事情として、小学校の複式学級の割合が高いこと(2014年度で、全国1.9%、道6.1%)、学校全体で5学級以下の中学校の割合が高いこと(同年度で、全国21.3%、道36.9%)が挙げられる。5学級以下の中学校は、教科数に満たない教職員の定数配置となっており、多くの学校で免許外担任が発生している。
2 いじめの現状
文部科学省初等中等教育局児童生徒課が、2015年10月27日に公表した「平成26年度児童生徒の問題行動等生徒指導上の諸問題に関する調査」結果(1)によると、小・中・高等学校及び特別支援学校におけるいじめの認知件数は18万8,057件であり、児童生徒1千人当たりの認知件数は13.7件である(前年度は、それぞれ18万5,803件、13.4件)。また、児童生徒1千人当たりの認知件数の都道府県間の差が昨年度は最大で83.2倍となっていたところ、今回の調査結果では30.5倍となっている。そして、いじめを認知した学校数は2万1,641校(前年度2万4校)であり、全学校数に占める割合は56.5%(前年度51.8%)である。
同調査による北海道における認知件数は、小学校1,039、中学校1,693、高等学校787、特別支援学校25の合計3,544件であり、児童生徒1千人当たりの認知件数は、6.4件である(前年度は、合計で3,669件、6.5件)。全国と比較すると、道以外では、中学校の認知件数が小学校の0.42倍であるのに対し、道では、中学校の認知件数が小学校の1.62倍となっている(前年度も同様)が、原因は不明である。
いじめ防止対策推進法(平成25年法律71号。以下「法」という)28条1項に規定する「重大事態」の発生件数は、450件(前年度179件)である。「重大事態」とは、いじめにより「児童等の生命、心身又は財産に重大な被害が生じた疑いがある」又は「児童等が相当の期間学校を欠席することを余儀なくされている疑いがある」と認める場合をいう。この数字は、岩手県で起きた中学2年生のいじめ自殺事件を受けて再調査し、10月27日に公表した156件を約3倍に訂正したものである。「重大事態」の件数にして、調査の精度により約3倍の差があることから、国が毎年度把握しているいじめ件数は、まさに認知件数であり、その何倍もの暗数があると思われる。