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立法事実から見た条例づくり

2016.06.10 政策研究

京都市動物との共生に向けたマナー等に関する条例(下) ─動物愛護と餌やり禁止─

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大阪経済法科大学法学部教授 藤島光雄

5 条例立法事実の検討

(1)ペットの増加と餌やりに伴う生活環境の悪化──苦情・トラブルの増加
 内閣府が行った「動物愛護に関する世論調査(平成22年9月実施)」によれば、ペットとして飼育している動物は、「犬」の割合が58.6%と最も高く、以下、「猫」(30.9%)、「魚類」(19.4%)などの順となっている(10)
 また、一般社団法人ペットフード協会が平成26年10月に実施した「全国犬猫飼育実態調査」によると、犬の飼育割合は、総世帯数の15.06%(猫の割合は10.13%)が、平均1.25頭(猫は平均1.79頭)を飼育しており、20代から60代の人の犬の飼育頭数は約10,346千頭(猫は約9,959千頭)である。平成22年から26年にかけて、犬の飼育頭数は若干減少しているものの、猫はその後も増加傾向を示しているのである(11)
 一方、平成26年4月1日現在のこどもの数(15歳未満人口)は、16,320千人(平成27年4月1日現在では、16,170千人)で、犬猫の合計飼育頭数よりも少ないのである(12)
 猫の飼育頭数が依然として増加していることは、ある意味で非常に深刻な事態といえる。
 猫の繁殖力は高く、生まれた子猫は通常半年で性成熟に達し、年に2〜3回出産可能で、1度の出産で3〜8匹を出産するといわれている。仮に1ペアの野良猫が年に2回繁殖し、毎回8匹の子猫を出産(そのうち70%が死産)、子猫が半年で性成熟し、産まれてきた猫も同じ条件で繁殖を繰り返し、野良猫の寿命を3年とした場合、10年後には100万匹を超える数になる(13)という。これは、驚異的な数字である。
 犬に対しては、狂犬病予防法等により、飼い犬の登録と鑑札(登録番号が記載されており、所有者の特定が可能となる)の装着、予防接種、野良犬の抑留等が徹底されているが、こと猫に対しては、犬に匹敵するような法律がない。このため野良猫の増加が問題となり、猫同士のけんかによる騒音やごみ荒らし、物の破損、自宅の敷地内でされたふん尿の掃除、悪臭などで、行政に対する苦情や近隣住民間のトラブルも増えている(14)
 時には、裁判沙汰になった例も見受けられる。有名なものとして、東京地方裁判所立川支部平成22年5月13日判決(猫への餌やり禁止等請求事件)(15)がある。武蔵野市のタウンハウスの区分所有者が、管理規約に動物飼育禁止条項があるにもかかわらず、区分所有建物の屋外で複数の猫を飼育する行為は、この区分所有者が被害を軽減する措置を十分にとらず、他の区分所有者にふん尿、餌の散乱などの被害を生じさせ続けているときは、受忍限度を超えて他の区分所有者の人格権を侵害するものと認められ、猫に餌を与える行為を差し止めることができるとし、集合住宅敷地内での餌やりの差止めと計204万円の慰謝料の支払を命じた。被告は控訴をせず、判決が確定し、問題は解決したかと思われたが、被告は、今後は敷地外で猫に餌を引き続き与えるとして、問題解決には至らなかった事例(16)がある。
 一方で、他の動物への餌やりに関しては、箕面市の市営公園の遊歩道を散策していたところ、接近した野生の猿に驚いて道路から転落しけがを負った原告が、市が一時期観光目的で猿の餌付けを行っていたこともあり、野生の猿の管理と猿害施策を怠ったことが違法であるとして、市に損害賠償請求をした事例(大阪地方裁判所平成14年8月30日判決)がある。この判決では、市が観光目的で猿の餌付けを行ったのは40年以上前であり、現在でも猿害がなくならないのは観光客による餌やりが原因であること、市が野生猿の存在により利益を得ているとしても観光地としての名声や観光客の増大など無形的なものにすぎないこと、文化財保護法は天然記念物に指定された猿の管理団体である市に当該天然記念物が周辺に危害を加えるおそれがある場合に取り締まるよう義務付けることを目的としてはいないことからすると、市に猿害対策を講ずべき作為義務が存在するとはいえないとして請求を棄却している(17)
 動物愛護管理法では、猫は犬や鳩と同じく所有者の有無にかかわらず「愛護動物」として虐待や遺棄から守られており、猫等に餌をやること自体は、法律上禁止されていない。このため、動物の餌やりに関しては、給餌側は何が悪いのかという意識が強く、給餌による生活環境の悪化に関連して、近隣住民とのトラブルが絶えないのが現状である(18)

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