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2015.05.11 政策研究

議員提案による長野市農業振興条例の制定過程

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長野市議会事務局議事調査課係長 中條努

1 はじめに

 長野市の農業は、千曲川と犀川によって形成された肥沃な平たん地から中山間地域に及ぶ変化に富んだ地形の中で、果樹、野菜をはじめとする多品目で良質な農産物を提供し、発展してきました。
 しかし、現在農業分野においては、農業者の高齢化や担い手不足、耕作放棄地の拡大、輸入農産物の増加に伴う価格への影響、野生鳥獣被害の増加など、本市農業を維持し、発展していく上で深刻な課題に直面しています。
 このような中、農業関係団体は、本市の農業政策の基本となる農業振興条例の制定を求める建議書や要望書を提出しました。
 本稿では、長野市農業振興条例の制定に至る過程について述べることとします。
 なお、文中意見にわたる部分は筆者の私見であることを申し添えます。

2 条例制定の背景

 農業委員会は、平成23年と24年の2か年にわたり、市長に対して、農業振興条例の制定を求める建議書を提出しましたが、条例の有効性及び必要性について検討するという回答でした。
 また、平成25年4月には、農業関係4団体が市議会議長に対して、「長野市農業及び農村振興条例(仮称)の制定に関する要望書」を提出しました。要望書の内容は、農業及び農村の持続的な発展に向けて、目指すべき将来の姿を明らかにするとともに、その実現のために、長野市農業及び農村振興条例(仮称)の制定を求めるというものでした。
 これを受けて、長野市議会基本条例9条の規定により、同年5月に市議会議員10人で構成する農業振興条例検討委員会が設置されました。同検討委員会は、同年10月までに6回の会議を開催し、最終的に長野市農業振興条例(仮称)の構想案をとりまとめ、議長に提出しました。
 さらに、同年9月、農林業の振興による地域の活性化対策について、農業振興条例の制定も含め調査研究を行うため、市議会に「農林業振興対策特別委員会」(以下「特別委員会」といいます)が設置されました。
 特別委員会では、農業における現状の把握と課題の抽出を行い、それぞれの課題を解決するため、農業振興に関する基本的な方向性を定めた農業振興条例の制定を、議員提案により目指すこととしました。
 議員提案による農業振興条例の制定に向け、特別委員会の活動は、次の3点に留意しながら進められました。
 ① 市民、農業関係団体等から広く意見を聴くこと。
 ② 行政側と十分に調整を図ること。
 ③ 議会内の合意形成を図ること。

3 農業を取り巻く課題の把握

(1)農業団体、生産者団体及び消費関係団体との意見交換
 まず、平成25年12月、本市農業の現状と課題を把握するため、農業団体、生産者団体及び消費関係団体の農業に関係する16人の皆さんを、特別委員会の参考人としてお呼びし、農業振興に関する意見交換を行いました。
 農業団体及び生産者団体の皆さんからは、本市農業の将来ビジョンを明確にし体系的に施策を実施すること、農業に関係する団体が意見を出し合い連携すること、農業の担い手の確保、小規模農家への支援、耕作放棄地対策の強化、地産地消や農業6次産業化の推進、学校給食での市内産農産物の利用、PR活動の強化や販路拡大、野生鳥獣被害対策の強化などを求める意見が出されました。
 消費関係団体の皆さんからは、消費者は安い物や見栄えのよい物に目がいっている、市内産小麦の生産拡大と商品のブランド化が必要、学校給食では農産物の量と規格が確保できなければ使用を拡大するのは難しいので、小規模農家による生産者組合等を設立して一定量を確保し安定供給を図ってほしい、地域の特性に応じた農業施策を実施してほしい、食の安全安心を確保できるような条例をつくってほしいなどの意見が出されました(1)

(2)農業振興に関する市民アンケート調査等の実施
 より多くの市民の皆さんに農業や農産物に関する意見をお聴きするため、特別委員会において市民アンケート調査の実施を提案し、平成26年3月に長野市議会として「農業振興に関する市民アンケート調査」(以下「市民アンケート」といいます)を実施しました。
 市民アンケートは、市民5,000人を対象として発送し、回収件数は3,124件で、回収率は62.7%でした。回収率の高さに、農業に対する市民の皆さんの期待の大きさが表れていることが分かります。
 調査結果からは、食の安全安心については9割以上の方が関心を持っていること、市内産農産物を積極的に購入したいと考えている方は7割以上いること、農産物の購入の際に重視しているのは「旬や新鮮さ」、「安全安心」、「価格」の順に多いことなどが分かりました。また、市民の皆さんの率直な思いとして、農業は食料を生産する重要な産業なので、今後も守っていく必要がある、地産地消は地域の活性化につながる、飲食店・ホテル・旅館・学校給食などで市内産農産物を利用することが必要、消費者のニーズに応じた新鮮で安全安心な農産物の生産を拡大することが必要、と考えている方が多いことなども分かりました(2)
 市議会の市民アンケートに併せ、農業委員会においても「農業振興に関する農業者アンケート調査」(以下「農業者アンケート」といいます)を実施しました。
 農業者アンケートは、農業者5,000人を対象として発送し、回収件数は3,727件で、回収率は74.6%と非常に高い回収率となりました。
 調査結果からは、農業後継者がいる方は約2割、一方で、耕作放棄地があるとする方は約6割であり、後継者・担い手不足と耕作放棄地の増加が深刻な状況となっていることが明らかとなりました。地域農業が存続していく上で重要なこととして、約7割の方が農業者の確保・育成と答え、さらに、農業政策に期待することについては約8割の方が担い手への対策を求めていることなどが分かりました。
 また、農業者の皆さんからは、地域の特性を生かした作物の栽培、農産物に付加価値を付けた販売の推進、飲食店・ホテル・旅館・学校給食などで市内産農産物を利用すること、販路の拡大を図ることなどが必要であるとする意見が多いことが分かりました(3)
 特別委員会では、農業団体、生産者団体及び消費関係団体との意見交換、市民アンケート、農業者アンケート等の調査結果を踏まえ、農業を取り巻く課題を解決するとともに、農業振興に寄せられる大きな期待に応えるため、農業振興条例を制定して農業振興施策の体系化を図り、実効性のある施策を推進していくことが必要であることを確認しました。

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