2 条例の内容・意義
本条例は、大規模農場におけるHPAIの発生が養鶏産業に被害を与えているのみならず、その防疫措置が行政機能にも影響を及ぼしていることに鑑み、県と大規模事業者及び関係団体の責務を明らかにするとともに、HPAIの発生予防及び迅速な防疫措置の実施によるまん延防止を図るために必要な措置を明文化する内容で14条から構成されています。
(1)定義(2条)
本条例では、対象とする大規模農場の飼養規模を「50万羽以上」とし、その農場で飼養する鶏を所有又は管理する者を「大規模事業者」と定義しています。
これは県内の50万羽以上を飼養する農場の飼養羽数が県内全体の飼養羽数の50%以上を占めるとともに、この規模の農場におけるHPAI発生時の防疫措置において特に多くの人員を要することから、その影響が養鶏産業のみならず県民生活にも及ぶことが想定されるため、発生予防対策と迅速な防疫措置の実施によるまん延防止対策の強化が必要であると判断したためです。
(2)基本理念と責務(3条~6条)
本条例の基本理念としては、県、大規模事業者が連携・協力して、HPAIの発生の予防及びまん延の防止のための措置を推進することを定めています。また、その基本理念にのっとり、県と大規模事業者は条例に定められた措置を講ずるとともに、関係団体は県や大規模事業者の措置に協力するなど、それぞれの責務を明文化しました。
(3)鶏舎設備等基準の設定等(7条~12条)
本条例の主な目的としている迅速な防疫措置を実施するためには、発生農場における殺処分作業をより効率的に行う必要があります。
そのため県では、これまでも防疫措置に必要なマニュアルを策定するとともに、人員の動員や資材の備蓄、作業手順等の計画を策定し、常に見直しを行うなど準備を行ってきたところですが、それ以外に作業効率に関係する要因として、農場におけるケージ構造や通路幅等の鶏舎設備等の規格が、鶏をケージから取り出し鶏舎外へ搬出する上で大きく影響していることが分かりました。
しかし、現行の法令では鶏舎の構造等を規定する法令はなかったことから、本条例において、よりスムーズにケージから鶏を取り出し、効率的に鶏舎外に搬出することができる鶏舎の構造と必要な設備等の基準を定めることとしました。
具体的な基準値は条例に基づく実施要領で別途公表していますが、基準値の設定に当たっては、実際に様々な規格の鶏舎構造における防疫措置の作業に要する時間を測定するとともに、鶏舎メーカーや養鶏事業者、鶏出荷業者からも意見を聴取し、既存の規格の中からより効率的な作業が可能となる基準を設定しました。なお、この基準は、迅速な防疫措置に資するだけではなく、日常の飼養管理においても健康状態の観察や通常の出荷作業の短時間化などのメリットもあると見込んでいます。
また、養鶏事業者に対しては、当該基準への適合は努力義務としており、罰則を設けていませんが、鶏舎を新設又は建替え等を行うに当たり、工事前にあらかじめその内容を知事へ届け出ることを義務付けており、県は基準の適合状況を事前に把握し、着工前に基準に寄り添った規格につながるよう、指導・助言を行うこととしています。
(4)人材の育成(13条)
HPAI対策として最も重要なのは、発生予防の取組とされており、発生予防対策を適切に実施するためには、法に基づいて各農場に設置されている飼養衛生管理者が、伝染病の発生状況や発生要因等に関する最新の情報や知見を把握しながら、国が定めている35項目に及ぶ飼養衛生管理基準に基づき、しっかりと予防策を実践していく必要があります。
一方、国が定める「高病原性鳥インフルエンザ及び低病原性鳥インフルエンザに関する特定家畜伝染病防疫指針」や「飼養衛生管理指導等指針」には研修の必要性は記載されていますが、研修の開催や飼養衛生管理者の受講について義務規定はありません。
そこで、本条例では、県による研修の開催と大規模農場の飼養衛生管理者の受講を義務付けることとしました。
本研修は、発生の予防及びまん延の防止の措置を講じるために必要な知識及び技術が習得できる内容で、令和5年度は9月に、令和6年度は8月に開催しました。
(5)人員及び資材の確保(14条)
国が定める飼養衛生管理基準では、大規模農場におけるHPAIの発生に備え、防疫措置を行う際に必要となる人員・資材や農場内の作業動線などを含む「防疫対応計画」を策定することになっていますが、各農場で策定している計画は県が主体となって防疫措置を行う内容となっており、大規模農場が自ら行う防疫対応は具体的に記載されていませんでした。
しかし、大規模農場においてHPAIが発生した場合、普段から農場で作業している従業員の協力や当該農場に備えられた資機材の活用により、迅速に防疫措置を開始することが重要となります。
そこで、本条例では、農場の従業員の動員や、農場が保有する資機材の使用計画についても、あらかじめ防疫対応計画に具体的に記載することとしました。これにより、防疫措置開始直後から農場の従業員が行うべき作業が明確化され、初動の混乱を回避できるとともに、農場から提供される資機材を事前に把握することで、県も不足のない準備が可能となり、迅速な防疫措置につながるものと考えています。
現在では、本条例に基づき、対象となる全ての農場で「防疫対応計画」が策定されています。