自治体や議会でハラスメント対策やメンタルケア対策を行うために必要なポイント
最後に、自治体や議会でハラスメント対策やメンタルケア対策に取り組む上で重要なポイントについて解説していきましょう。
〈ポイント1〉ハラスメント対策とメンタルケア対策の重要性を知る
これまで紹介したとおり、政治分野のハラスメント対策は我が国の政治改革の中で重要な役割を担っており、特に地方議会における多様性を確保する上では必須の課題といえます。
まずは一議会で一人の議員がその対策の重要性を認識することが、議会改革のスタートラインといえるでしょう。そして、その一人が会派内や議会運営委員会などで共有し、場合によっては首長や行政執行部とも連携しながらハラスメント対策に取り組むことの必要性を議会内に広めていきます。
議会や行政執行部である程度の合意形成が図れれば、まずはハラスメント研修を実施していきます。研修を実施することは改正候補者男女均等法で義務化された対策のうち「防止に資する研修の実施」を達成することになるため、法令遵守の観点からもできるだけ早期に実施する必要があります。
〈ポイント2〉ハラスメント防止条例の制定やハラスメント発生時の体制を構築する
自治体や議会内でのハラスメント研修が実現したら、次はハラスメント防止条例の制定やハラスメント発生時の体制構築に進んでいきましょう。これは改正候補者男女均等法の「相談体制の整備」の履行につながります。
ハラスメント防止条例の制定は、自治体としてとれるハラスメント対策の最上位といえるでしょう。ハラスメント条例ではハラスメントの定義や責務、ハラスメント発生時の対応について明文化されるため、住民や社会に対してハラスメントに毅然(きぜん)と向き合っていることを示すことができます。
ハラスメント防止条例の発議は、自治体、議会のどちらからも可能です。議会としてハラスメント対策の推進を率先していきたい場合には、ぜひ議員提出議案での条例制定を目指していきましょう。
〈ポイント3〉自治体及び議会が周知・啓発を行い、住民に浸透させていく
自治体・議会においてハラスメント対策が十分に浸透していった段階で、住民に対して周知・啓発を行うことで、自治体全体でハラスメント対策に取り組む機運を醸成できます。
近年、「票ハラ(得票の見返りを要求するハラスメント)」に注目が集まり、選挙のたびに票ハラに関する報道が増えてきました。ですが、有権者にハラスメント抑止を呼びかけるために重要なのは、国や自治体、そして議会がハラスメント対策に取り組み、地域社会全体でハラスメントに対する知識を共有し、ハラスメントを起こしにくい環境を構築することです。そのためにも、まずは自治体や議会が率先してハラスメント対策に取り組み、社会規範を示していくことが大切です。
議員が率先して対策に乗り出すことで、自治体のコンプライアンスとメンタルヘルスが向上する
多様な価値観や働き方が認められるようになった近年において、メンタルヘルスの向上は社会全体で取り組むべき大きなテーマとなっています。国においても官民問わずハラスメント対策が法律化され、自治体においてもその対策に取り組むことが急務とされています。
また、自治体におけるハラスメントによる不祥事もメディア等で大々的に取り上げられるようになり、自治体のコンプライアンス向上の面でも対策を講じることが求められています。ぜひ、自治体議員の方々には率先して自治体や議会のハラスメント対策やメンタルケア対策に取り組んでいただくことを、切に願っています。
(1)全国町村議会議長会「第68回町村議会実態調査結果の概要(令和4年7月1日現在)」(2023年)
(2)一般財団法人地方自治研究機構「ハラスメントに関する条例」(2023年6月5日更新)