明治大学政治経済学部講師/株式会社地方議会総合研究所代表取締役 廣瀬和彦
地方議会の議員は、住民の直接選挙によって選ばれた住民の負託を受けた地方公共団体の住民の代表である。さらに議員は、地方公共団体における特別職の公務員であって、地方公共団体全体の奉仕者である。
それゆえ、地方議会の議員には住民の範たる行為が求められ、一般の住民が求められる道徳規範である倫理より高い倫理が求められる。
これがいわゆる政治倫理であり、政治倫理は、地方議会議員をはじめとする政治家に対して求められる遵守すべき行為規範である。政治倫理に反する行為は、ただちに法律に反する違法行為であるといいきれないが、当該行為が住民の負託を受けた地方議会議員として不適当な行為で、道義的・政治的責任を負うものであるといえる。そして当該行為に対する訓示的意味合いを有するものが、政治倫理に関する様々な規定である。
地方議会議員は、政治倫理の遵守を通して、職務の執行の公正さに対する住民の疑惑や不信を招くような行為を未然に防止することを図り、さらに政治倫理に反する行為がなされた場合において当該行為の再発防止を図り、地方議会議員としての行為に対する住民の信頼を確保することを目的としている。
政治倫理に関する規定は先に述べたとおり訓示的なものであり、一般的には政治的・道義的責任を問うものであることから、政治倫理に反することをもって法的な罰則を科することはできない。つまり、政治倫理に反することをもって地方自治法における懲罰を科することは、その要件を満たさず違法となるおそれが高い。
政治倫理に関する規定は、堺市議会で初めて制定された政治倫理条例のように条例で規定することが多いが、要綱や規程、申合せという形で制定しているところも存在する。条例等の法規でなければ規制できないものではなく、その規制の仕方はどのような形でもよい。ただ、条例での規定によることは議会基本条例における規定と同様、政治倫理に対する議会としての明確な意思を住民に対して示すとともに、住民に対して遵守することを公的に約束することとなり、さらにその内容について住民の理解・周知がなされやすいといえる。なお、政治倫理条例を制定している議会は、市区議会では表1のとおり令和2年12月31日現在396市区(48.6%)であり、町村議会では表2のとおり令和3年7月1日現在319町村(34.4%)である。
出典:全国市議会議長会「市議会の活動に関する実態調査結果(令和2年中)」(令和3年10月)
表1 議員についての政治倫理・資産公開に関する条例の制定状況