5 関係人口の4類型
筆者は、関係人口は大きく4類型に分類できると捉えています。
基本的な視点として、関係人口は、良い関係人口と悪い関係人口に大きく分けられます。筆者は、関係人口のすべてが「良い」わけではないと考えています。今日、関係人口の存在は「基本的に善である」という「関係人口性善説」に立っているように感じます。
議会における議員の質問等を確認すると、完全に「関係人口は良いもの」という前提で質問しています。実はそうではない、というのが筆者の考えです。必ずしも「関係人口性善説」だけではないと考えます。もちろん「関係人口性悪説」はないと考えますが、「関係人口は良い存在」という前提には疑問を感じます。この点を意識して議員は質問等をする必要があるでしょう。
さらに関係人口は、4類型に分類できると考えています。図2は、筆者の考える関係人口のマトリクスです。縦軸に「地域との関係度」があります。横軸には「地域への貢献度」を置いています。図2のマトリクス(4象限)から、関係人口を、①活動人口、②関心人口、③問題人口、④弊害人口、に分けています。
図2 関係人口の4類型
自治体は漠然と関係人口の獲得や創出を目指すのではなく、4類型のうちどの関係人口を狙っていくかを明確にする必要があるでしょう(さすがに「④弊害人口」を狙うケースはないと思われますが……)。
図2の右上は「①活動人口」です。活動人口とは「地域に対する誇りや自負心を持ち、地域づくりに活動する者」と定義できます。活動人口を獲得・創出していくためには、「シビックプライド」(Civic Pride)の存在が有効と考えます(2)。今日、シビックプライドに注目し、醸成しようとする自治体が増加しつつあります。
活動人口を獲得・創出するためには、特に共有・共感・共創がポイントであると考えます。まずは自治体と住民等の「共有」からスタートすべきです。例えば、情報の「共有」、時間や空間の「共有」などです。共有が「共感」につながります。共感の積み重ねが「共創」へ変化していきます。共創が活動人口の一つの形態です(3)。ちなみに、地域づくり(まちづくり)には、共有・共感・共創に加え、共助と共生の概念も必要です。筆者は「五つの共」と捉えています。
図2の右下が「②関心人口」です。関心とは「ある物事に特に心を引かれ、注意を向けること」や「よく知りたいという積極的な気持ち」という意味です。関心人口とは「特定地域に注意を向け、積極的に知りたいという意向を持つ人口」と定義できます。関心人口の獲得・創出には、SNSやマスメディア(新聞、ラジオ、雑誌等)などを活用していくとよいでしょう。関心人口の一つの形態が「ふるさと納税」やSNSのフォローなどとなります。
図2の左上は「③問題人口」です。問題とは「困った事柄、厄介な事件」や「世間が関心を寄せているもの」という意味です。問題人口とは「特定地域に対して、困った要素を発生させる人口」といえます。読者は「問題人口」と聞くと、いいイメージを持たないでしょう。しかし、問題人口は活動人口に変化する可能性があります。
民間企業にとってクレーマー(ここでいう問題人口)は、困った顧客です。しかし、クレーマーは、ロイヤルカスタマーに転化する可能性が非常に高いのです。そのことを証明したのが「グッドマンの法則」です。同法則の一つの結論に「不満を持った顧客のうち、苦情を申し立て、その解決に満足した顧客の当該商品・サービスの再購入決定率は、不満を持ちながら苦情を申し立てない顧客のそれに比べて高い」があります(4)。
問題人口は、地域への関心を強く抱いています。だからこそ、苦情や不満を強く述べてしまいます。問題人口当人は「正しいことをしている」と思っているのですが、結果的に地域をかき乱していることも多くあります。こうなる理由は、単純に進むべき方向性が間違っているからです。その結果、地域にとってデメリットになっています。これを是正することで、問題人口は活動人口に変化する可能性があります。
図2の左下は「④弊害人口」です。弊害とは「害になること、他に悪い影響を与える物事、害悪」や「悪いこと、害となるような事柄」、「面倒な事柄、厄介な事件」という意味があります。
弊害人口とは「特定地域との関係が弱く(弱いにもかかわらず)、地域に実害を与える人口」と定義できます。近年の観光公害などは、まさに弊害人口の典型といえるでしょう。地域には関心がないのに、何かしらの事情で多数の人口が地域に流れ込み、ごみ問題や交通渋滞など多くのデメリットを生じさせているケースです。
弊害人口は、地域にはほとんど関心を抱いていません。ただし、その地域で撮影されたロケ地や、その地域に所縁の有名人などに対しては強い関心を持っている傾向があります。そのため地域に関心がないのに、当該地域を訪れるのです。
基本的に、弊害人口を拒むことはできません。弊害人口にならないように、あるいは、弊害人口によるデメリットを縮小するように、ルールの徹底が求められます。ルール違反の場合は、ペナルティを科すことも一案でしょう(ルールの一つが条例です)。
このように、関係人口といっても、大きく4類型に分類できますから、どの関係人口を獲得・創出するのかを明確にしなくてはいけないでしょう。また、関係人口を礼賛するのではなく、やや否定的な視点で捉えることも大事かもしれません。