4 令和3(2021)年度介護報酬改定の重点項目と対応ポイント
ここでは、今回の介護報酬改定の中で、筆者が介護サービス事業者が対応すべき重点項目と考える「感染症や災害への対応力強化」、「自立支援・重症化防止の取組の推進」や「リスクマネジメントの強化」に焦点を当て、その実践ポイントについて以下で解説します。
(1)感染症や災害への対応力強化への対応
厚生労働省の省令改正により、感染症や災害が発生した場合でも、必要な介護が継続的に提供できる体制を構築する観点から、全ての介護サービス事業者に、業務継続計画(BCP)の策定、BCP事業所内研修・訓練(シミュレーション)の実施等が令和6(2024)年度までに義務化されることになりました。
厚生労働省では、介護サービス事業者のBCP作成を支援するため、「介護施設・事業所における新型コロナウイルス感染症発生時の事業継続ガイドライン」や「介護施設・事業所における自然災害発生時の業務継続ガイドライン」、「介護施設・事業所における業務継続計画(BCP)作成支援に関する研修(動画)」、BCP様式ツール集やBCPひな形等を公表しています。
このため、介護サービス事業者は、令和5(2023)年までに、これらガイドラインやBCPひな形や様式ツール等を活用し、感染症や災害が発生した場合に備え、業務継続計画(BCP)の策定、BCP事業所内研修・訓練(シミュレーション)の実施等の体制整備を行う必要があります。
(2)自立支援・重症化防止の取組の推進への対応
厚生労働省では、介護保険制度の目的である利用者の自立を支援するため、介護サービスの質の評価やデータ活用を行いながら、科学的に効果が裏付けされた質の高いサービス提供、すなわち科学的介護の取組を推進するとしています。
この科学的介護とは、施設系・通所系・居住系・多機能系サービスについて、事業所の全ての利用者に係るデータ(ADL、栄養、口腔・嚥下(えんげ)、認知症等)を科学的介護情報システムLIFE(Long-term care Information system For Evidence)に提出し、フィードバックを受けて事業所単位のデータに基づくPDCAサイクルを構築し、介護の質の向上を目指す取組をいいます。
今回の介護報酬改定では、施設系サービスの「科学的介護推進体制加算」として、(Ⅰ)40単位/月、(Ⅱ)60単位/月が報酬加算されます。一方、通所系・居住系・多機能系サービスの科学的介護推進体制加算としては、40単位/1回が報酬加算されます。
介護サービス事業者が「科学的介護推進体制加算」を受けるには、算定要件である、入所者・利用者ごとの心身の状況等(上記(Ⅱ)は心身、疾病の状況等)の基本的情報やサービス提供に必要なその他情報を厚生労働省に提出しなければなりません。
なお、この加算を受ける前提条件として、全ての利用者の介護サービス記録をPC等でデータ化していることが必要です。
(3)リスクマネジメントの強化への対応
リスクマネジメントの日本産業規格JISQ31000によると、リスクとは目的遂行を不確かにする要因といわれています。
したがって、介護サービスにおけるリスクとは、介護サービス提供プロセスにおいてサービス提供を阻害する要因といえます。さらに、介護サービスにおけるリスクマネジメントとは、介護サービス提供プロセスにおいてサービス提供を阻害するリスクを洗い出し、そのリスクの発生頻度と顕在化した場合の影響度を評価した上で、適切な予防対策と復旧対策を検討し、リスクの顕在時に備えて業務継続計画(BCP)を策定して訓練を実施し、リスク発生に備えるマネジメント活動といえます。
今回の介護報酬改定では、その他事項に区分されていますが、介護保険施設における事故防止とリスクマネジメント強化のための対策として、事故発生報告書を作成・周知する安全対策担当者を定めることが、令和3(2021)年度から義務付けられました。
また、事故発生の防止等のための措置を講じていない場合は5単位/日の減算、組織的な安全対策体制を整備した場合は20単位/1回のみ加算措置が導入されました。
このため、介護サービス事業者がこの加算を受けるためには、安全対策担当者を今年度内に定める必要があります。また、この減算を避けるためには、令和6(2024)年までに業務継続計画(BCP)を策定し、BCP訓練を実施する必要があります。
5 介護報酬改定が求める介護サービス経営持続化のための対応ポイント(まとめ)
近年、世界中で頻発している大規模な自然災害や感染症を考えると、介護サービス提供の持続可能性を維持するためのリスク対策強化や科学的介護の重要性を痛感します。
今後、介護サービス事業者の経営持続化のための対応ポイントとしては、以下の5点が挙げられます。すなわち、①令和3(2021)年度に義務化された安全対策担当者の指名と事故発生報告書の作成・周知ルールの策定、②令和6(2024)年度までに義務化される業務継続計画(BCP)策定とBCP訓練の実施、③早期の組織的な安全対策体制の整備、④科学的介護情報システムLIFE入力のための介護サービスデータ記録体制の整備、⑤介護サービスデータを活かした科学的介護(PDCAサイクル)体制の整備を推進し、介護サービス経営の持続化を図ることです。
■参考資料
◇ 厚生労働省ホームページ【政策について】タブ/令和3年度介護報酬改定について(https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/0000188411_00034.html)