群馬大学大学院教育学研究科准教授 高橋 望
新型コロナウイルス感染症は、日本の学校のICT教育の後れを顕在化させるとともに、ICT教育の展開を促進させたともいえます。今回は、GIGAスクール構想によって注目されるICT教育の動向を整理したいと思います。
GIGAスクール構想と学校教育のICT化
2018年に実施されたOECDによるPISA調査によって、日本の学校教育におけるICTの導入・活用が他国と比べて少ないことが明らかになりました。同調査は、OECD加盟国の15歳を対象に実施されるものですが(日本は高校1年生が対象)、日本の子どもたちは学習におけるICT活用が少なく、一方でゲームやSNSの使用頻度は高いことも指摘されました。これは、私たちがICTを教育ツールとして認識していなかったことの表れともいえます。筆者は、年に数回、諸外国の学校を訪問し、現地の教育事情を調査していますが、小学校低学年からICT端末を積極的に活用した授業が行われている様子を、何年も前から目にしてきました(写真)。筆者にとってこの調査結果は、これまで感じていた日本のICT教育の現状を改めて確認する機会となりました。
豪州の小学校でのタブレット端末を活用した授業の様子(2020年3月、筆者撮影)
こうした現状に対する危機感に加え、Society5.0社会が到来しつつある現代においてはICT活用が必要不可欠になることに鑑み、2019年にGIGA(Global and Innovation Gateway for All)スクール構想が提案されました。GIGAスクール構想とは、2023年度までに義務教育段階の学校における高速大容量ネットワーク環境(校内LAN)の整備を推進するとともに、全学年の子どもが1人1台端末を持ち、それを十分に活用できる環境の実現を目指すものです。国による財源確保によって、地方公共団体に継続的に必要な支援を講ずることが掲げられました。
こうした全国的なICT教育環境の整備が進められようとしていた矢先、新型コロナウイルス感染症が流行し、2020年3月には全国一斉の休校措置がとられ、子どもたちが通学できなくなりました。学校で学びに向かえない中、すでにICTを導入・活用していた一部の学校では遠隔学習が実施された一方、多くの学校では教師と子どものつながりが希薄となり、学びを継続することの難しさが顕在化しました。このため、GIGAスクール構想は一気に加速化することとなります。2021年3月までに1人1台端末の整備を実現し、Wi-Fi環境を整えることが難しい家庭に対するモバイルルーターの貸与等も行われることとなりました。今年度、多くの学校においてICTを活用した教育活動が展開されつつあり、高等学校においても、各設置者によってICT教育環境の整備が進められています。