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2021.04.12 コロナ対応

〈新型コロナウイルス感染症対策〉 市民のニーズ分析と支援制度 ~新型コロナ禍1,800件超の法律相談事例から~

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借入金問題~コロナ版ローン減免制度

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出典:日弁連報告書

図4 個人の非事業者による相談内訳
(1,540件:2020年4月20日~7月22日)(再掲)

 個人の非事業者の相談1,540件のうち7%が「借入金問題」であった(報告書を参照)。冒頭に示した住宅ローンの支払に窮する個人事業者の事例は、個人の非事業者にも当てはまる。
 住宅ローン、奨学金、個人事業ローンなどが支払えなくなった場合に、債務が不動産や預貯金などの資産合計を超過してしまえば、通常は破産手続など法的手続を経なければ借金を整理することは難しい。しかし、破産することで信用情報(ブラックリスト)へ登録されることに対するデメリットや、現在の仕事の継続を考慮すると、なかなか破産を選択することは市民にとってもデメリットが大きい。
 そこで、弁護士らの精力的な提言もあり、2020年12月になってようやくスタートしたのが「『自然災害による被災者の債務整理に関するガイドライン』を新型コロナウイルス感染症に適用する場合の特則」である。通称は「コロナ版ローン減免制度」という。2020年10月30日に、一般社団法人東日本大震災・自然災害被災者債務整理ガイドライン運営機関から発表された。
 これは、災害救助法が適用された自然災害の被災者が、一定の要件を満たした場合に利用できる「自然災害による被災者の債務整理に関するガイドライン」(自然災害債務整理ガイドライン。通称「被災ローン減免制度」)を、新型コロナウイルスの影響を受けた個人や個人事業者にも適用するための指針である。金融機関と個人債務者とが、破産手続等の法的倒産手続によらず、特定調停手続を活用して、債務減免を実施するためのルールが整備されたのだ。収入などの利用条件はあるものの、まずは相談を試みていただきたい。  以下に《コロナ版ローン減免制度のメリット》について日弁連作成のチラシ(図5)を参考にまとめたので、ぜひ活用いただきたい。
 

(コロナ版ローン減免制度のメリット)
●メリット1:ブラックリスト(信用情報)に登録されません  破産等の法的手続と異なる最大のメリットの一つです。したがって、ガイドライン利用で債務免除を受けた後、新たな借入れをすることで事業を再建するなどの選択肢を残すことができます。
●メリット2:保証債務の履行を求められません  破産手続などをすれば、債務者の代わりに連帯保証人がローン等の請求を受けることになります。自然災害債務整理ガイドラインの新型コロナ特則でも、従前の運用に倣い、保証債務の履行を求められることなく、債務減免ができます。
●メリット3:無償で弁護士のサポートを受けられます  ガイドライン利用者は、登録支援専門家の支援を受けながら手続を進めることができます。登録支援専門家は手続に精通する弁護士が担っています。ただし、登録支援専門家は債務者本人の代理人とは異なるので、手続の代理を希望する場合には、別の弁護士に手続受任を依頼することが必要になります。

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図5 コロナ版ローン減免制度のチラシ

災害復興の英知をコロナ禍に活かす

 筆者は、有志弁護士らとともに、新型コロナウイルス感染症の影響を「災害」としてとらえた政策を実施すべきであると訴え続けてきた。過去の災害からの生活復興や事業復興の知恵は、新型コロナウイルスにより経済危機に陥った人々を救う知恵として応用できるからである。政府はコロナ禍をあくまで「災害」ではないとして、災害関連の法制度を適用することなく、別途の特別対応を行っていたが、将来の複合災害や大型災害を考慮した場合には、被害が発生した直接の原因にとらわれず、想定する被害や結果を踏まえた支援政策メニューの統合や多様化が必要だと考える。
 これまでの新型コロナウイルス感染症対策としての市民や事業者への支援には、過去の自然災害時の対応を参考にしたものが数多く登場している。例えば、先述した、事業者が休業手当を支払えない場合に労働者が受給できる「新型コロナウイルス感染症対応休業支援金・給付金」は、「激甚災害時における雇用保険法による求職者給付の支給の特例」と同じスキームである。これは、激甚災害に対処するための特別の財政援助等に関する法律(激甚災害法)の指定地域内の事業所が災害により事業を休止・廃止した場合に休業手当が支払われない労働者については、実際に離職していなくとも基本手当を受給できる等とする特例制度である。法的根拠は異なるが、これまで何度も実施されてきた災害時の特例に倣ったのが「新型コロナウイルス感染症対応休業支援金・給付金」なのである。もし、新型コロナウイルス感染症を想起の段階で「激甚災害」と指定していたのなら、休業支援もより早期に実施できた可能性はあったのではないだろうか。
 これまでの施策の試行錯誤を評価しつつも、将来の危機・災害への備えを模索していきたい。

■参考文献一覧
◇日弁連新型コロナウイルス法律相談全国統一ダイヤル(2020年4月20日~同年7月22日)報告書(2020年11月)
◇一人ひとりが大事にされる災害復興法をつくる会災害対策基本法等で住民の生命と生活を守る緊急提言(第1弾から第6弾)
◇岡本正新型コロナウイルス感染症に立ち向かうあなたを助けるお金とくらしの話弘文堂スクエア、2020年7月連載開始
◇岡本正「新型コロナウイルス感染症とリーガル・ニーズ 感染症に立ち向かうあなたを助けるお金とくらしの話」月刊フェスク2020年7月号(465号)32~37頁
◇岡本正「提言:災害法制による新型コロナウイルス感染症対策を」計画行政44巻1号(通巻146号)(2021年)43頁

 

 

 

 

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