自治体学会会員/新潟県議会事務局 滝本直樹
1 はじめに ─議員提案政策条例の現在地と問題の所在─
議員提案条例の提出数は、趨勢(すうせい)的に増加傾向にあるが、知事等の長提案のそれと比較した場合、その提出数はまだまだ少ない(1)。マスコミ等においては、議会の政策立案能力を示す指標の一つとして、議員提案政策条例(2)の制定件数を採用することが多々あり、平成12年4月の地方分権一括法の施行以降、一部の地方議会を中心として当該条例の制定件数が飛躍的に上昇した。その結果、多くの地方議会において制定件数至上主義がまん延し、条例内容が酷似する事例が散見されるなど、政策条例の制定が手段ではなく、目的化しているとの指摘もある(3)。
衆議院法制局では、平成31年1月からコーポレートアイデンティティの一環として、「政策(おもい)を法律(かたち)に」という標語(4)を使用しているが、今まさに地方議会こそ当該標語の精神を具現化することが期待されている。すなわち、議員提案による政策条例の制定過程において「住民の『おもい』を、政策への変換を見据え、条例という『かたち』に」することが期待され、そして求められているのではないだろうか。地方議員は、住民との多様な接点を有し、住民の声、現場の声に敏感であるという得難い特性を所持している。現場を熟知し多様な住民ニーズを拾い上げ、政策への落とし込みをも行える、欠くことのできない存在である。換言すれば、住民のおもいを、政策への変換を見据え、条例というかたちにすることができる地方議員の果たす役割は、決して小さいものではない。この特性を生かし、部局横断型政策条例など住民本位の質の高い議員提案政策条例の制定に取り組み(5)、条例を介して政策の実施状況を検証し、必要に応じ当該条例の見直しを行っていくことが、地方議会、ひいては当該自治体のさらなる発展に寄与するものと考える。
加えて、近年、法令の「過剰過密」問題が、地域の実情に即した条例制定の足かせになっているとの指摘もあり(6)、議員提案政策条例を取り巻く環境は厳しさを増しているところである。本稿では、平成31年3月に議員提案によって制定された「新潟県スポーツの推進に関する条例」を題材として、過密立法ともいうべき「スポーツ基本法」のもと、他県の先行スポーツ条例(7)との「差異」も意識しつつ、当該県の有するスポーツに係る課題の解決に向け、「住民の『おもい』を、政策への変換を見据え、条例という『かたち』に」する過程を通じ、模倣・追従条例が多いとの指摘もある議員提案政策条例の「脱金太郎あめ化」を模索する。