【インタビュー】
ビアンキ・アンソニー・犬山市議会議長に聞く
市民フリースピーチ制度の発案者で、生みの親でもあるビアンキ・アンソニー議長に話を伺った。アンソニーさんはアメリカのNY・ブルックリン生まれの異色の地方議員。新たな故郷・犬山で民主主義と自治の実現にまい進している。
青い目の市議会議長、ビアンキ・アンソニーさんのモットーは「前例より前進」
──「市民フリースピーチ制度」はどのような経緯で始められたのでしょうか。
(私は)議長になる前から提案していました。日本ではどこもやっていないので、イメージしにくかったと思いますが、アメリカの地方議会では市民が議場で発言するのは、ごく普通のことです。むしろ、そういう場を用意するのが議会側の義務のようになっています。我々議員は市民の意見を取り上げるのが、仕事です。それでどこの議会も意見交換会や議会モニターなどいろいろな形で市民の意見を集めていますが、いずれも議場の外でのことです。なぜ、議場でなされないのでしょうか。議員は別に一般市民より偉いわけではありません。議場でやるのが基本ではないかと思うのです。
──それで議長選(2017年5月)のときに「市民フリースピーチ制度」の導入を公約として掲げたのですか。
いえ、そのときはまだ「市民フリースピーチ制度」という言葉はありませんでした。議長になった後の全員協議会などでの議論の中で生まれた言葉です。正直にいいますと、私は自分が議長選で勝てるとは思っていなかったので、当選したことにびっくりしました。
──議長選は10対9の1票差でビアンキさんの当選となりました。白票が1つあり、文字どおりの薄氷の勝利でした。これが逆の結果になっていたら、新しい制度は生まれなかったかもしれませんね。
そうですね。「市民フリースピーチ制度」に反対する議員もいましたが、議長の提案だからとにかくやってみようではないかということになりました。
──難色を示した議員はどんな理由を挙げていましたか。
どんな市民が議場にやってくるか分からないので、不安を感じたようです。クレーマーみたいな人ばかり来たらどうするんだと心配したようです。どういった意見や提案、指摘が飛び出すか全く分かりませんからね。それからもう1点は、より保守的な考え方からくる抵抗です。自分たちは選挙を経て議場で発言できるようになったのに、一般市民も発言できるようになったら、我々の存在はどうなるのかという不満です。
──なるほど。議員は一般市民とは違うという意識ですね。
一般市民が議場で発言できるようになったら、議員の存在意義が危うくなるという不安や不満は、議員としての自信がないからだと思います。本来、議会・議場は市民のものですが、議会を傍聴する人はいつもほんのわずかでした。市民によるフリースピーチを行って実際に(施策の)改善につながれば、議会の重要性が市民に理解されることになると思います。不安に思う議員にも配慮して(発言希望者に)あらかじめ応募してもらったり、聞きっぱなしにしないできちんとフォローする仕組みをつくるなど、改善を重ねています。
──2017年10月に「市民フリースピーチ制度」の取組みが正式に決まり、第1回目が2018年2月に実施されました。実際にやってみてどうでしたか。
とてもうまくいっていまして、抵抗感を示していた人たちは今、何もいえなくなっています。市民が議場で発言することの重みは、やはり違います。行政側も発言内容に敏感でして、緊張感を持って耳を傾けています。我々議会側も聞きっぱなしや行政に丸投げといった無責任なことはせず、行政と協力して市民の意見を生かすことに一生懸命です。何よりもうれしいのは、フリースピーチに参加した皆さんが、大変喜んでくれていることです。我々議員が気づかなかった鋭い意見も多くて、市民は活躍できる場がつくられれば、活躍できるものだと実感しています。フリースピーチ制度は、市民と議会、行政がともに力を合わせて進める民主主義のサイクルの1つだと思います。