住民自治を進めるフリースピーチ制度
午前10時から始められたフリースピーチは1時間半ほどで終了した。席をほぼ埋め尽くしていた傍聴人らが立ち上がり、互いの感想を語り合いながら議場を後にした。熱気に包まれた本会議場に静寂が戻り、しばらくたってからだ。議場内にビアンキ議長らが再び姿を現し、1人の人物の周りに集まり始めた。そうしてできた人の輪の中には犬山市議だけでなく、議会事務局員や先ほどまで傍聴席にいた近隣自治体の議員、そして犬山市の山田拓郎市長もいた。本会議場で即席の懇談会となり、輪の中央にいた男性が少し興奮気味に口火を切った。「議会が外に出て報告会や意見交換会を行うところはあるが、議会本体を(市民に)開放するところはなかった。しかも、会期中にやるというのがすごい。登壇者と議員がキャッチボールすることで論点が明確になっていき、(フリースピーチが)討議の広場になっていた。自由な討議空間ができていた。発言した市民は皆さん、大変よく勉強されていて、すごいと思った。市民が議会のシンクタンクとなっていて、住民自治は変わるものだと思った」。
こう熱弁を振るったのは、フリースピーチを視察していた山梨学院大学の江藤俊昭教授だった。地方議会のあるべき姿について積極的に発言する泰斗である。江藤教授はこう言葉を続けた。「住民の目はこれまで行政にばかり向けられていたが、フリースピーチ制度は議会に住民を巻き込むことにつながり、議会の新たなイメージが生まれつつある。主権者教育にもつながるもので、こういう制度がどんどん広がらないものかと思う。感激した」と、絶賛した。この後、ビアンキ議長らと制度化をどうするかなど意見交換となった。最後に感想を求められた山田市長は「市民参加のチャンネルの1つとして画期的なことだと思う。議会と市民が仲よくなることは大事だと思っている。(議会と)建設的な高め合い、切磋琢磨(せっさたくま)することが行政にとって重要なことだと思う」と話し、本会議場内での懇談会はお開きとなった。
その日の午後、フリースピーチで発言者に鋭い質問や意見を連発していたある議員を直接取材した。久世高裕市議である。25歳のときに初当選した久世さんは現在、3期目。石田元市長の秘書を務めた久世さんは選挙公営費を使わず、自腹のポスターを張るだけの選挙活動で当選し続けるという変わり種だった。後援会を持たず、選挙期間中に選挙カーも使わない徹底ぶりだ。
議員活動にまい進する久世さんは執行部に対し是々非々の姿勢を貫いており、若手ながら論客として一目置かれている。ビアンキ議長と同じ会派(清風会・4人)に所属するが、清風会は通常の会派とは少し違っていた。議案への賛否で4人が常に足並みをそろえるわけではなく、自らの判断で行動する議員の集まりとなっていた。清風会が犬山市議会の議会改革を事実上、けん引していたのである。その一員である久世議員が率直に語ってくれた。
「議員の中にはフリースピーチ制度に反対している人や戸惑っている人がいます。また、内心では、“一般市民が議場で発言するのはおかしい”と思っている市職員も大勢います。この取組みを発案したのはビアンキさんで、議長選に出たときに“アメリカではどこでもやっている”と、公約に盛り込みました。私たちもビアンキさんが議長選に勝つとは思っていませんで、当選した勢いでそのまま一気に導入までいったのです。実際にやってみたら、市民やメディアなどの反響がすごくよくて、それで内心では面白くないと思っていた議員たちも何もいえなくなったようです。議員から今回のような日曜日の開催には反対だという声も出ましたが……」