犬山市議会の画期的な取組み
愛知県の最北端に位置する犬山市は、人口約7万4,000人。名古屋市の北25キロメートルにあり、木曽川を挟んで岐阜県と接する。江戸時代から城下町として繁栄した地域で、日本最古の天守を持つ国宝犬山城と往時の町割を残し、鵜(う)飼いや日本モンキーセンター、犬山祭りなどで全国的に知られる観光文化都市だ。また、犬山市は市民主導によるまちづくりと少人数学級や英語教育などの教育改革の取組みでも高く評価される、いわば自治の先進地でもある。市議会議員の定数は20人。
名古屋駅から名鉄犬山線の特急電車に乗ると、25分ほどで犬山駅に到着した。駅の西口に出ると、左手に犬山市役所の大きな建物が見えた。歩いて1分ほどで市役所の中へ入り、本会議場に向かった。9月9日(日)の午前10時前、犬山市議会で行われる第3回市民フリースピーチの取材である。
議場の傍聴人入り口の扉を開けると、傍聴席(一般用45席)はほぼ埋まっていた。開会を待つ人たちの雑談から判断すると、犬山市民だけではなく、市外や県外から駆けつけた人も少なくない。地方議員や研究者、NPO関係者、それに取材記者などである。その表情は一様に明るく、ワクワク感を隠しきれないようだった。
議場に緊張した面持ちの男性7人が姿を現し、各々の名札が立てられた席に着いた。議場に向かって右側の執行部席で、先に着席していた全議員と対面する形となった。議場左側の執行部席には誰もおらず、議場と傍聴席の様相は通常とは異なっていた。ピーンと張り詰めた空気が広がる中、犬山市議会のビアンキ・アンソニー議長が開会を宣言し、こんな冒頭の挨拶を行った。
「市民は意見をいう権利があります。そういう機会を用意するのが議会の義務だと考えます。議会は市民と密接な関係を持つことが重要で、議場は民主主義の原点です。我々議会もフリースピーチでの発言をしっかり受け止め、全員協議会を開いて対応します。フリースピーチ制度を活用できるのは市民です。議会の必要性が問われている今の時代にフリースピーチは大事な活動だと信じています」
実は、2017年5月に議長に就任したビアンキさんが「市民フリースピーチ制度」の発案者であり、生みの親でもあった。
1958年にアメリカのニューヨーク市・ブルックリンで生まれたビアンキさんは、大学で映画製作を専攻し、卒業後、ハリウッドでテレビ番組制作に関わった。その後、ニューヨークに戻って市役所に勤務したが、空手や禅の国に憧れて29歳で初来日。1996年に市立中学の英語講師として犬山市に定住し、日本人女性と結婚。2002年に日本国籍を取得したビアンキさんは、翌年、市議選に初当選する。初めて覚えた日本語が「しがらみ」と「お茶を濁す」だったと笑うビアンキさん。目の前で繰り広げられる日本の地方政治と行政の姿に納得できず、ほれ込んだ犬山のまちをもっとよくしたいとの思いを抑えきれなくなったからだ。
犬山市議になったビアンキさんが改めて痛感したことが、議会が市民にとってはるかかなたの遠い存在になっている現実だった。そんな彼が一議員として議会改革に取り組みながら温めていたのが、「市民フリースピーチ制度」。議会が市民とつながる公式チャンネルにしようと考えたのである(詳細についてはインタビュー記事を参照)。