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特集 2019年統一地方選挙

2018.11.26 議会改革

第23回 統一地方選挙を住民自治の進化に(上) ――マニフェスト選挙:再考――

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山梨学院大学大学院社会科学研究科長・法学部教授 江藤俊昭

今回の論点:統一地方選挙を住民自治の進化に活用しよう

2019年統一地方選挙は、地域経営をめぐっての評価と展望が争点となる。また、議員のなり手不足などにも注目が集まるだろう。今回の選挙が従来と異なるのは、それぞれの自治体での「地方創生」の検証が軸に展開されることである(前回の統一地方選挙では動き出したばかり)。横並びで各自治体が勝者と敗者に分かれるゼロサムに代わる地域経営の方向が争点となるべきである。また、議会に代えて住民総会の設置を検討した自治体や、恒常的な夜間・休日議会を設置した議会が、議員のなり手不足問題をどのように解決しようとしているか、そしてその成果はどうなるかは注目点である。
 こうした動向を考慮しつつ、本連載では統一地方選挙を住民自治の進展に活用する手法を考える。選挙を分断の促進ではなく、討議空間の創出として位置付ける(住民間の討議を前提として)。民意による政治(住民側から)と政治家による世論形成(政治家側から)の場としての選挙である。
 この間、二元的代表制=機関競争主義は着実に進展している。それを作動させつつ選挙を住民自治の進展に活用する。議会からの政策サイクルは、住民の意向が起点となるが、その中でも選挙は第一級のものであり、選挙をそのサイクルの中に位置付ける必要性を強調したい。選挙では自治体改革の評価が行われると同時に、今後の改革が展望される。
 住民、議会・議員、首長等の三者関係を視野に入れるが、議会改革の進展が急激であるため、「住民自治の根幹」としての議会を軸に考えていきたい。いわば、議会改革の本史の第2ステージを生かす統一地方選挙である。視点として、分断ではなく討議空間として選挙を位置付ける。つまり、選挙を世論形成の好機(候補者から、住民からという2つの方向を意識する)、討議(合意形成)民主主義の展開の契機として位置付ける。その手法として、討議する軸(ルールや総合計画等の評価や提言等)を設定する。首長のローカル・マニフェストの評価は重要であるが、二元的代表制を意識した説明責任が不可欠である。また、議員や会派のマニフェストは重要であるが、ここでも二元的代表制を意識するとともに、議員・会派・議会といった3つの位相を意識することになる。
 本連載が強調している議会からの政策サイクルと、マニフェストによる政策実現は、矛盾・対立するものではなく、議会からの政策サイクルを豊富化・補完するものである。議会からの政策サイクルを選挙と連動させることで、住民参加において極めて重要なチャンネルである選挙を議会からの政策サイクルに位置付け、任期というタイムスパンを組み込むことになる。
 ① 国政とは異なるローカル・マニフェストを再定義する。
 ② ローカル・マニフェストの今日の争点を確認する。(以上、今回)
 ③ ローカル・マニフェストを豊富化する手法を確認する。
 ④ ローカル・マニフェストを議会改革の充実に生かす。
 なお、マニフェストの厳格な定義を目指してはいない。一方では「口約」ではない具体的な政策が選挙において不可欠であること、他方ではマニフェストの厳格化は現実性が希薄になることから、マニフェストという用語をアバウトに活用して引き続き用いている。

1 政策実現の手法:ローカル・マニフェストによる討議空間の創出

 (1)ローカル・マニフェストの再定義
 本連載では、二元的代表制の作動を強調している。住民、議会・議員、首長等の協働である。選挙は、それを作動させる重要な要素である。つまり、選挙によって三者の討議空間を創出する。したがって、選挙時のマニフェストは、固定したものではない。議員だけではなく、首長であろうと、選挙で掲げたマニフェストはそのまま政策として実現できるわけではない(1)。
 議員のマニフェストは、議員が機関の一構成員であるため、議会としての意思として昇華されなければ実現できない。つまり、議員間討議により全体の意思となることによって、マニフェストはようやく実現できる。議員だけで実現できるわけではなく、議員や会派による政策実現のための討議空間の創出と議決が重要となる。もちろん、首長には予算の調整権や再議請求権(拒否権)があるため、議員・議会と首長等との討議空間が必要となる。
 首長のマニフェストも同様に、議会を通過させなければ実現できない。議決権は議会にある。議会・議員との討議を経た上での実現を首長は目指すことになる。したがって、修正も否決もあり得る。首長には説明責任が求められる。
 マニフェスト型選挙は、こうした討議空間を活性化するものである。したがって、マニフェストと政策実現には討議という媒介項を入れて考えることが必要である。つまり、修正はあり得るのであって、3点セット(数値目標・期間・財源)がそのまま実現するわけではない。実現するものもあれば実現しないものも、あるいは修正されるものもある。それには説明責任が伴う。
 議会からの政策サイクルの起点は、議会報告会・住民との意見交換会等による住民の意見を想定している。このサイクルを豊富化・補完するのが議員・会派マニフェストである。議会からの政策サイクルとマニフェスト・サイクルとは矛盾・対立するものではなく、相互に豊富化・補完するものである(2)。
 なお、マニフェスト型選挙は討議空間を不可欠とするが、政策実現は水面下の調整によって行われることも想定できる。二元的代表制には「公開と討議」空間としての議会が前提である。この意識化と制度化をしなければならない。
 住民(有権者)は、討議空間をつくり出すための選挙であることを認識すれば、選挙(政策選択と評価の選挙)だけが政治とのかかわりではないことを理解するであろう。そして住民は、選挙後も政治や行政に関心を持ち、その討議空間にかかわる主体として登場する。「水面下の調整」に陥らせないための監視が大前提となる。
 このように、マニフェストは討議空間の重要な要素であるだけではなく、討議空間を創出する重要な要素となる。首長であろうと、議員・会派であろうと、マニフェストを実現することは当然だとしても、それぞれ自らだけで実現できるものではない。

☆キーワード☆
【住民は選挙のときだけ主権者ではない! ルソー(『社会契約論』第3篇第15章)の言葉】(ルソー 1954(1762):133)
 「イギリスの人民は自由だと思っているが、それは大きなまちがいだ。彼らが自由なのは、議員を選挙する間だけのことで、議員が選ばれるやいなや、イギリスの人民はドレイとなり、無に帰してしまう。」

 (2)評価を前提としたローカル・マニフェスト
 評価なきマニフェストは単なる願望となる。首長のマニフェストは進化している。それに対して、議員や会派のマニフェストとその評価の手法は未開拓の領域である。
① 首長のマニフェストとその評価
 首長の評価の手法については、方向性が見えてきたといってよい。マニフェスト大賞(マニフェスト大賞実行委員会主催)において「優秀マニフェスト推進賞(首長部門)」を受賞している首長には、次のような3つの要素が含まれるマニフェストの提出とその評価が実施されている(すべてではない)。(a)選挙時に明確なマニフェストの提出(数値目標、期限(財源は弱い場合もある))が前提となる。その上で、少なくとも、(b)評価の連続性(中間の評価(毎年行う場合もある)と最終評価)と(c)第三者評価の導入、は今日の首長マニフェスト評価の到達点である。ちなみに、第三者評価を青年会議所などが行うほか、住民を巻き込んだ検証大会を開催する試みも広がっている。熊本県御船町では、住民による評価、議員による評価、そして町長による評価を踏まえて多くの住民が参加する検証大会が早い時期に開催されていた。
 第13回マニフェスト大賞「優秀マニフェスト推進賞(首長部門)」を受賞した村岡隆明宮崎県えびの市長は、2期目の最終年度(2017年度)に、学識経験者や市の広報を通じて募集した委員等で構成される「えびの市政策検証委員会」(市に設置)を3回開催し、達成状況等について検証及び評価を行った。結果は、市のホームページで公開している。なお、市長1期目の最終年度には、えびの青年会議所によるマニフェスト検証会を開催し、市長マニフェストの達成状況等について検証及び外部評価が行われた。
 首長のマニフェストとその評価の到達点として、すでに指摘した3つの要素を内包した評価が実施されている。これらの要素には、本連載の立場からすれば、討議を巻き起こすマニフェストとその評価であること、その際、首長だけによって達成されるものではなく、住民や議員との討議によって達成されることが求められる。こうした評価の手法の開発が今後の課題である。

② 議員・会派のマニフェストとその評価
 議員や会派のマニフェストとその評価の手法は未開拓である。そもそも、マニフェストは、議員と会派の選挙に適合的かという論点がある。予算の調整権・提出権もない議員や会派に政策型選挙はなじまないということである。どの程度の実現性かは議論される論点であるが、政策を提示しない選挙はあり得ない。政策は予算と密接に関連する。例えば、議員や会派には予算の調整権・提出権はなくとも、その修正権はあるし、質問、決議、総合計画をめぐる審議と決定等によって予算にも大きな影響を与えることができる。
 このマニフェストの実現性の問題は、次の論点に直結する。議員個人でも、会派だけでも、一般質問・会派代表質問等によってマニフェストの政策の実現は可能である。ただし、この「実現性」は環境(会派の位置(相対的な大小)、首長との距離(いわゆる「与党」、「野党」))によって大きく異なる。実現性の問題は、もう1つの論点を浮上させる。議員個人のマニフェストを議会の政策に昇華させるには、議会内の多数派をつくり出すプロセスが論点となる。委員会による所管事務調査からの政策実現も想定したい。
 これらの論点は、現時点では未解決の論点である。それにもかかわらず、議員や会派の政策型選挙は不可欠である。点在している試みをまずもって総括しておくことが、今後の理論化にとって必要である。
 その際、首長マニフェストとその評価の到達点である3つの要素、(a)選挙時に明確なマニフェストの提出(数値目標、期限(財源は弱い場合もある))、(b)評価の連続性(中間の評価(毎年行う場合もある)と最終評価)、(c)第三者評価の導入、は議員・会派のマニフェストとその評価でも活用できる。もちろん、前提としてその異同の確認は必要である。
 首長以上に議員や会派のマニフェスト実現を図ることは困難である。すでに指摘したように、議員にせよ会派にせよ、そのマニフェストの実現には、議員間・会派間の交渉を経るし、首長との関係が問われる。要するに、達成したとしても、議員や会派が実現したのか、首長との距離も測る必要がある。
 第13回マニフェスト大賞「優秀マニフェスト推進賞(議会部門)」の受賞者及びノミネート者から、そのマニフェストと評価を考える上での素材を確認してみよう。

a .マニフェストの作成とその検証。「チームやまなし」は、国政の枠組みにとらわれない、つまり国政政党の相違がある地域政策集団である。4年間のPDCAサイクルの集大成として、目標を達成した項目や進捗途中、未達成の項目を洗い出し、「チームやまなしビジョン」の進捗状況の検証を行った。また、公明党荒川区議会議員団は、前回のローカル・マニフェストの検証作業を経て、4年に一度実施される区議会議員選挙において、これまでの実績とこれからの政策を明確にした。
b .マニフェスト・スイッチ(SW)との連動(及び会派と議員のマニフェストの連携)。佐野弘仁甲府市議会議員は、2015年の「マニフェストSW甲府」を活用、マニフェスト(LM)として3項目の「重要政策」と併せて別に、8項目の「重点施策」を掲げた。会派所属議員のため、重要政策2項目は会派マニフェストと重複している。「LMフォーマット」+「見える化マネジメントフォーマット」+「LMフロー」を策定し、LM推進に取り組んだ。
c .外部評価の導入。自由民主党横浜市支部連合会・自由民主党横浜市会議員団は、議員によるマニフェスト進捗モニタリングと検証大会の開催、新公約作成による「よこはま自民マニフェストサイクルの確立」を行っている。2011年の「8本の条例マニフェスト」に続き、2015年には24の政策マニフェストを発表している。それに基づきマニフェストの中間・最終検証大会を実施し、民間シンクタンクによる外部評価を行った。その結果を踏まえ、新たなマニフェストづくりに着手している。また、都民ファーストの会東京都議団は、都議会議員選挙において、15領域で「14の基本政策と377項目の公約」を掲げ、その内容を検証している。その際、会派としての取組状況と都政での実施状況の二側面から、進捗状況を調査している。進捗状況は「認識のずれ」を是正するために、行政側にも確認している。

 議員と会派のマニフェストとその評価の新たな動向を踏まえれば、その論点を暫定的に規定することはできる。「暫定的」というのは、ここで提起する規定自体が多様な要素によって変動する可能性が大きいことである。会派や議員は真空で活動するわけではない。住民や首長等の動向(首長との距離は決定的に重要)、中央政党の関係といった要素を加味して議論しなければならないからである。マニフェストとその評価の論点を明確にしておきたい。

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