苦悩する事務局
こうした大規模災害時の自治体議会において、事務局がどのような立ち位置で、どのように対応すべきか苦悩している事例も見られる。東京都板橋区議会では、議会の災害対策本部設置に当たって、その支援体制として事務局の関与が必要であることも確認している(板橋区議会「緊急時における議会のあり方検討部会記録」(2015年8月4日)24頁)。これに対し、事務局からは、事務局職員のうち、局長は区災害対策本部の本部員として、次長は本部員付として、その他の職員でも特別活動員に指定されている者もおり、特に区内在住の職員は地域班として活動することとされていること、2015年度現在で、全事務局職員18人中7人が何らかの指定をあらかじめ受けていることが説明されている(同5頁)。また、事務局次長からは、あくまで私見と前置きした上で、議会の対策本部と区の対策本部との連絡等を担うため、区内在住の事務局職員については区の対策本部の役割から外してもらい、あくまで議会の対策本部の運営に従事することが求められるが、区の対策本部でも、特に区内在住職員が減ってきている中で、その確保に相当苦労していることから、この点は丁寧に当たる必要がある旨加えて説明されている(同24頁)。
また、長崎県諫早市議会では、2016年4月に議会災害対策支援本部設置要綱を制定しており、その6条2号で「事務局職員は、〔筆者注:議会の対策〕本部の事務に従事し、必要があるときは、市対策本部に従事することができる」と規定している。この点、同市の地域防災計画の2015年度版では、事務局は地区対策部(隊)に属し、事務局長はその副隊長を、事務局次長は記録伝達班の副班長をそれぞれ担う旨定められていたが(諫早市防災会議「諫早市地域防災計画(平成27年度版)」(2015年)329頁)、2017年度の改訂版では、事務局自体の位置付けは変わらないものの、局長及び次長は市災害対策本部の役職から外され、計画の中に「議会災害対策支援本部設置要綱の制定について」の説明が加えられている(諫早市防災会議「諫早市地域防災計画書(平成29年度版)」(2017年)327頁、481~482頁)。それでもなお、このような不確かな立ち位置において、先の条文中の「必要があるとき」とは一体誰が(議長、市長、議会支援本部長、市本部長、事務局長)、どのような基準で判断するのかが不明確であるといわざるを得ない。
事務局の位置付けを再認識するための議会改革
山梨県甲府市議会では、議会改革の一環として、議会の活性化を図り、議員の資質向上に資するため、議員自らの調査研究をもとに議論等を行う場として、調査研究会を設置しており、その中の議会制度調査研究会では、2016年2月に第1回研究会を開催し、最初の議題として災害対応について取り上げ、同議題で複数回開催した研究会における議論を経て案を作成し、2017年2月、「甲府市議会における大規模災害発生時の対応要領」を議長決裁により制定した。同要領9条では、1号で「事務局長は、市対策本部の会議等に出席し、情報収集に努めるとともに、支援本部への情報提供を行う」ことを、2号で「市対策本部初動体制職員以外の事務局職員は、支援本部長の指揮監督のもと支援本部の事務に従事する」ことを、それぞれ規定している。
この点、自治体全体における防災(減災)政策の根本となる地域防災計画上、事務局長は市対策本部の本部員に、総室長(総務課長兼任)をはじめとする総務課職員は議会総務班に、課長をはじめとする議事調査課職員は議事調査班にそれぞれ配置されることが定められている(甲府市防災会議「甲府市地域防災計画」(2017年)56~58頁)。同計画に基づき災害対応を図る場合、それはあくまでも市対策本部としての活動であり、議会支援本部としての活動ではなくなってしまう。そこで、同市議会では、その部分の整合性を図るため、事務局と地域防災計画を所管する防災担当部署との間の事務レベルでの取決めとして、総室長、議事調査課長、両課職員1人ずつの計4人は、議会支援本部の事務に従事できるよう依頼を行っている。
しかし、そうした場合、今度は地域防災計画上、主に課長職が班長を務める班そのものの体制維持が困難となることも考えられる。また、同計画上では、事務局長は本部員でありながら、議会総務班及び議事調査班が所属する総務部に位置付けられていることから、事務局長は総務部長を補佐することとされており(同57頁)、本部員として市対策本部に参加し、そこで収集した情報を議会支援本部に提供することは、まさに要領が定めたとおりであるが、市対策本部内で事務局長が総務部長を補佐すると同時に、議会支援本部で事務局事務の陣頭指揮をとることはかなり困難なことのように思われる。これらの課題は、修正の要不要は別にしても、最低限計画改定時に議論を要するものと考える。