(2)広範な制度改革に――「拡張性」のさらなる拡張を
① 2つの議会像には収まらない議会
報告書が提案するパッケージに合理的な整合性があるわけではないことは、すでに指摘した。ここでは、パッケージが想定する2つの極ではなく、議会のあり方には連続性があること、現行制度を含めて3つに収斂(しゅうれん)されるものではないことを確認したい。
(ⅰ)権限。議決事件の追加(自治法96②)は、集中専門型となっているが、現行制度でも、また多数参画型でも必要ならば活用すればよい。
(ⅱ)議員報酬・定数。議員報酬を生活給とすることと定数を削減することは、そしてその逆は、運用上、そして住民の感情を意識して行うことはあり得るが、報酬額と定数とは本来別の倫理で考えるべきである。額が決まっている議会費を前提にその配分を考える思考である。議会費を増額、削減することはあるし、また、定数を削減しなくても報酬を増額する方向もあり得る。
(ⅲ)請負禁止・兼職禁止。請負禁止の緩和の必要性は、多数参画型だけではない。また、「他の地方公共団体の常勤の職員との兼職可能」とすることは多数参画型だけではなく、運用では困難であるとしても、現行制度でも、集中専門型でも必要であろう。また、「公務員の立候補退職後の復職制度」についていえば、小規模市町村では、公務員は当該自治体に居住している。実質的には公務員の退職は少ないとしても、現行制度や多数参画型でも必要である。
(ⅳ)議会運営。通年会期制は、多数参画型だけではなく、現行制度や集中専門型でも不可欠である。集中専門型では「委員会制なし」としているが、閉会中の所管事務調査が不可能となり、議会力はダウンするおそれがある。
(ⅴ)勤労者の参画。「立候補に係る休暇の取得等について不利益取扱いを禁止」は集中専門型だけではなく、多数参画型でも必要である。多数参画型では、これに「議員活動(夜間・休日中心)に係る休暇の取得等」を付加している。これは、現行制度でも必要なものである。
(ⅵ)住民参画。議会参画員は、住民参画を充実させる意図があるとはいえ、制度化せずともそれぞれの議会での住民参画の実践が前提となる。仮に制度化するならば、集中専門型だけでなく、現行制度や多数参画型でも必要であろう。
以上のように、新しい2つの議会、そして現行制度を含めた3つの議会に収斂するわけではない。
② 報告書の法改正は2つの議会には収まらない
報告書において2つの議会のパッケージの中で提起されている法改正は、何もそのパッケージそれぞれでのみ必要なわけではなく、もう1つの議会でも検討によっては必要な場合もある。
報告書が提起した2つの議会の要素である程度説得的だと思われる、兼業禁止規定の緩和と、契約と財産の取得処分の議決事件からの除外との連動性についても、2つの議会それぞれに収まるのではない「拡張性」の具体的な例示として挙がっている。つまり、報告書が示した2つのパッケージそれぞれでのみに適合した法改正を超えた広がりを持つ法改正が必要なことの証しだと思われる。
【町村議会のあり方に関する研究会 報告書】
この二つの議会像については、各々を構成する要素(議決事件のあり方、兼職禁止や請負禁止の緩和など)を不可分のパッケージとして想定したものであるが、これらを制度上実現可能とする場合には、より拡張性のある制度設計も考えられる。
たとえば、3(3)で述べた「議決事件の限定と請負禁止の緩和の仕組み」については、多数参画型に必須のものと言える一方で、小規模市町村における議会の実情にかんがみ、より幅広い適用を認めることも考えられる。
こうした「拡張性」を、報告書では、新しい2つの議会だけではなく、「小規模市町村」にまで広げる課題を提示している。すでに指摘しているように、法改正は何も小規模市町村に限るわけではなく、市町村議会や、都道府県を含めた地方議会にまで広げること、「拡張性のある制度設計」も必要であろう。すでに、地方制度調査会(以下「地制調」という)等様々な場で議論されている。なぜ、報告書では新しい2つの議会それぞれだけなのであろうかという疑問が湧く。小規模市町村が「実験場」にされているとも読める。「当事者となる市町村議会からの意見聴取を後回しにするような実験主義的な進め方」といえよう(全国市議会議長会からの異論(「『町村議会のあり方に関する研究会』報告書に対する全国市議会議長会会長コメント」2018年3月26日))。報告書で提案されている法改正を必要とする項目については、もともと地制調等では2つの議会だけではなく、地方議会一般に適用する議論を行っていた。
「休職・復職制度」については、集中専門型に限定した内容ではない。「公務員が政治的活動と密接不可分である議員活動を行うことについての社会的な理解が得られることが前提となることから、公務員の職務の公正な執行や職務専念義務のあり方等にも配慮しつつ、前記のような休暇制度、休職・復職制度等の導入に関する検討と併せて、引き続き検討の課題としていくべきである」(第29次地制調答申)としている。
「夜間・休日議会」については、多数参画型に限定した内容ではない。「平日の朝から夕方にかけて仕事に従事している勤労者が議員として活動することを容易にするため、例えば、夜間、休日等に議会を開催するなどの運用上の工夫を図ることが考えられる」(第29次地制調答申)としている。
「当該自治体以外の職員との兼職」については、多数参画型に限定した内容ではない。「地方公共団体の議会の議員と当該団体以外の地方公共団体の職員との兼職を可能とすることも検討すべき課題である」(第28次地制調答申)としている。
「勤労者の立候補に係る休暇の取得等について不利益取扱いを禁止」については、集中専門型、及び多数参画型に限定した内容ではない。「勤労者について、立候補を容易にするため、これに伴う休暇を保障する制度や、議員活動を行うための休職制度、議員の任期満了後の復職制度等を導入することなどが考えられる」(第29次地制調答申)としている。
なお、「契約と財産の取得処分の議決事件からの除外」については、多数参画型だけではなく、地方議会一般でしかも兼業禁止規定の緩和とのバーターではない制度設計が検討されている。「議会の監視機能を充実・強化するためには、議決事件の対象について条例で定めることができる範囲を現行よりも合理的な範囲内で拡大すべきである」(第29次地制調答申)としている。
報告書で提案された法改正は、慎重な議論が必要ではあるが、新たな2つの議会だけに、また小規模議会だけに有用なものではない。